tmp.23 海辺で遊ぼう
緩めの再スタート
デーナのある南部地域は常夏の気候、中央では少し肌寒い季節でしたがこちらはまだ海で泳げるくらいには暖かいのです。すなわち、買い物を終えた今するべきことは一つ、海で遊ぶのです!
備え付けられた脱衣場でご主人さまがシェンロ商品の区画で買っていたという水着から一つ選んで着替えると、海水浴場へやって来ています。
ルルはかなりきわどい、確かブラジル水着という奴でしょうか、紐とビキニを組み合わせたような際どい赤の水着を選びました。ユリアは普通の三角ビキニですが胸のインパクトが半端ないのでそれだけで際どいことになってます。ボクは薄いピンクのワンピースにフリルスカートがついたような水着、可愛らしい感じです。ご主人さまが選んでくれました、そのセンスに反吐が出ますね。
「うぉぉぉぉ、すげぇ……」
「ふふん」
背後からはルルの水着姿に鼻息の荒い葛西さんの歓声と、妙に自慢気なルルの声が聞こえてます。砂浜の一角にシートを引き、そこに座ったご主人さまにルルとユリアがひっついてます。通りがかる男たちのいやらしい視線が二人の体に絡みついているようですね。
「ソラもこっちに……」
「ふんっ」
ボクは彼等のハーレム光景を背に、砂浜に城を築いていました。酒のせいで心にも無いことを言わされたりやらされたりしたせいか、ご主人さまが朝からやたら馴れ馴れしいのです。ここはビシっと態度で示さなければいけません。
「せんぱいは十分可愛がったので、次は私達の番ですよね!」
「お嬢様にさし上げた残りで構いませんので、私達にもお情けをお分けください!」
欲求不満気味のメス二匹も間に入ってくれるのでちょうどよいのです。目に見えてしょんぼりしてますが自業自得なのです。ボクの下半身に力が入らないのもボクが酒に酔って奇っ怪な行動を取ってしまったのも全部ご主人さまが悪いから仕方ないのですよ。
「なぁシュウヤ、あれはいいのか?」
「ほんとはダメなんだが、惚れた弱みって奴だな」
ふんっ。
◇
まさかこっちの世界でまでゴム製の浮き輪に乗って波間を漂うことができるとは、ほんとチートは色んな物をぶち壊しますね。まぁ喜んで使うんですけども……それ以前にどこでゴムを手に入れたんでしょうか、一月くらい前になんか森林調査で面白いものを見付けたとか言っていたのでそれでしょうか。それ以前によく加工技術がありましたねご主人さま、ほんとに高校生なんでしょうか……気にしたら負けなんでしょうけれど。
そんなオーバーテクノロジーを持ち込んだご主人さまですが、今はユリアたちにせがまれて二人に泳ぎを教えています。山育ちな二人は泳ぎ方を知らなかったようですね。ボクは一応泳げるので浮き輪に捕まって波打ち際で遊ぶ二人を見学中。
このへんは魔法による結界で魔物に該当する危険生物は近寄れないようになってるそうなので安心です。あっちに浮かんでいる、日本で言うところのブイより向こう側に行かなければ大丈夫なんだとか。一部だけ切り抜くと日本よりも便利なのがなんとも言えないですね。
「わぷっ……う、く、難しいです」
ご主人さまは立泳ぎをしながらユリアの手を引いて教えていますが、難航しているようです。ルルの方は意外にサクっと覚えてしまいクロールで泳ぎまくっています。猫獣人の運動神経は恐ろしいのです。
ユリアが上手くいかないのは恐らく胸部にあるパーツのせいでしょうね、アレのおかげでいまいちバランスが取れないようです。天然の浮き袋がある分有利かとも思ったのですが逆だったとは、意外なのです。
「わきゃ!?」
突然足を掴まれてひっくり返りそうになりました、視線を下にやると水中にはボクの足を掴んでいるルルの姿がありました。いつの間に潜水まで出来るようになってたんでしょうかね。それはいいとして本気で怖いのでやめてほしいのです。夏なのに鳥肌が凄いことになってます。
「ルル、怖いのでやめてください」
「えへへ」
水面に浮き上がってきたルルに苦言を呈します。イタズラっぽく笑いますがボクは誤魔化されませんよ? 危うく浮き輪から落ちてしまいそうになったんですから。
「せんぱいも潜りませんか? すっごい綺麗ですよ」
「いえ、遠慮しておきます」
潜水はちょっと……そう、少し得意ではないのです。無理をして溺れてしまったら事ですからね。
「うーん、じゃあ一緒に泳ぎましょうよ、気持ちいいですよー」
「それも遠慮しておきます」
昨日の今日で泳げるほど体調が良くないのです。日本人の習性としては、楽しみにしている二人にお預けさせるのは良心が咎めますし、同時に身の危険も感じます。出てくる時点ですら無理してるのにこれ以上はちょっと怖いのです。
「せんぱい……まさか、泳げないとか?」
「…………何を言ってるのですかねこの猫さんは」
酷い誤解ですね、ご主人さまのせいで体調が悪いだけなのです。そんな状態で泳いで溺れたりしたらどうするのですか、全くもう。手で水を掻いてご主人さまの方に移動します。何故かルルも浮き輪に捕まるようにしてついてきました。……何でしょうね?
「ちょっとだけでいいですから、泳ぎましょう」
「結構です」
何故か獲物を見付けた表情のルルから離れようと手を動かしますが、思うように進んでくれません。
「まぁまぁ、遠慮せずに」
「遠慮じゃないです、自己防衛です」
追いかけてくるルルが怖いのです、だから慌てて動いたのですがそれが悪かったのでしょう。勢い余ってくるんと一回転、頭から水に入ってしまいました。幸いにも浮き輪はすぐに抜けたのですが、見事に水中に沈んでしまいます。
「せんぱい!?」
ユリアとご主人さまがいる場所は比較的浅いので普通に足が付くんですが、ボクのいる場所はルルが泳いでいたことから分かる通り結構深いのですよね。つまりどういうことかというと。
「――――!? ――!!」
必死で足を動かしますが身体は浮いてくれません、やばいです、どうやって浮かぶんでしたっけ!?
あぁ、ボクはすっかり忘れていたのです。この体は元々自分の持っていたものとは似ても似つかないことを。お世辞にも上手いとは言えない泳ぎの腕を過信しすぎていました、ボクはこんなところで死んでしまうのでしょうか。
慌てた事は最悪の選択。苦しさに耐え切れず開いた口から大きな泡が溢れ、太陽の光がきらめく水面へ向かって登っていきます。短い、人生でしたね……。
瞑った瞼の裏で走馬灯が流れ始めた瞬間、手を掴まれて引っ張りあげられます。薄っすらと目を開けるといつにもまして険しい顔のご主人さまがボクを抱きしめてました。
「ぷはっ、げほっ、こほっ」
「ソラ、大丈夫か!?」
何だか切羽詰まったような、少し青ざめたご主人さまに気圧されながら、呼吸を整えつつ頷きます。幸いほとんど海水は飲んでいないので、少し気持ち悪いですが意識もハッキリしています。
「は、い……けふ、けふ」
背中を撫でながらこちらの顔を覗き込むご主人さまは、ボクが平気な事を確認するときつく抱きしめながら呟きました。
「良かった……」
ご主人さまのこんな姿は初めて見ます……意外なのです。どんな形でもボクをここまで心配してくれる人が居るのはなんだか、ちょっとむずがゆいです。取り敢えず助けてくれたお礼も兼ねてボクの方からも抱きしめ返しておきます。
……その語、陸に戻ってから二人がかりでお説教されました。泳げるのは嘘じゃないのに理不尽なのです。
【RESULT】
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◆-------------★【ソラ】--★【ルル】--★【ユリア】
[◇MAX COMBO}--◇【33】----◇【0】----◇【0】
[◇TOTAL HIT}----◇【33】----◇【0】----◇【0】
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[◇TOTAL-EXP}--◆【508】--◆【176】--◆【158】
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【パーティー】
[シュウヤ][Lv55]HP672/772 MP1380/1380[正常]
[ソラ][Lv15]HP22/50 MP420/420[疲労]
[ルル][Lv47]HP602/602 MP32/32[正常]
[ユリア][Lv31]HP1040/1040 MP60/60[正常]
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【レコード】
[MAX COMBO]>>33
[MAX HIT]>>33
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【一言】
「泳げるのは嘘じゃないのですよ!」
「お嬢様、もうわかりましたから」
「せんぱい、一人で海に入っちゃダメですよ?」




