tmp.16 百合の花咲く時もある
ユリアを我が家に迎えて早くも三ヶ月が経とうとしています。彼女はすっかりと慣れて、穏やかな笑顔を浮かべるようになっていました。ボクの知らないうちにご主人さまが悩みを聞いてあげたりしていたようで、迷宮で戦闘を指南していた事も合わせてしっかりとフラグを立てていたみたいです。
二ヶ月目にはいった頃に、彼女の方からお願いして夜伽に加わる事になりました。本気で過去を振りきって新しい自分を生きる決心がついたみたいです。これが寝取りってやつでしょうか、幼馴染くんはザマァなのです。
妊娠もしてないのに母乳が出るなんて、知った時は何という卑猥な種族かと思ったんですが、どうやら彼女自身も相当にアレだったようで、気を使ったボクとルルが引っ込んでご主人さまと二人きりの時間を過ごさせてあげた結果すっかりメロメロになってました。
ボクとしてはこのままご主人さまの伽担当を彼女にシフトさせようとしたのですが、そうは問屋が卸しませんでしたね。一週間くらいは穏やかで平和な夜を謳歌出来たのですが、ついに我慢しきれなくなったご主人さまの横暴によって今度はボクが二人きりで過ごすはめになって死ぬかとおもいました。おかげで筋肉痛と疲労でベッドから動けない日々が続きました。
とてもじゃないけど身体が持たないし、ユリアがなんかしょんぼりしてるし、ルルも妙に焦り始めたしで発生した第一回キサラギ家奴隷会議の結果、暫くは三人で寝室入りして休憩したいときだけ抜けるという方式が取られる事が決定しました。
あぁ、ご主人さまの意向によってボクは強制参加です。基本的人権ってなんでしょうね。
◇
さて、今日は我が家に完成したばかりの設備を眺めてはニヤニヤしていたご主人さまが、妙にそわそわしつつ部屋で何かを作ったり買い物に行ったりしていました。ボクも待ち望んでいた設備なので嬉しいのですけどね、あれはちょっと気持ち悪いのです。
何が出来たかというと、一言で言ってしまえばお風呂ですね。ご主人さまのリクエストにより白くなめらかな大理石で作られた浴槽は二人で入っても寝そべることが出来るほどに大きく、洗い場も少し大きく作られています。
「お風呂なんてはじめてですよ」
「お風呂のある家に住めるなんて……どうしよう、夢が一つかなっちゃった」
女性陣もゆったりと入れそうなお風呂場を見てはテンションをあげています。ボク達の住むフォーリッツ王国では一応お風呂という文化はありますが、あくまで高級な宿や貴族の家にしかなく、庶民に取っては高嶺の花。
美容に興味を持つ女性たちは肌を磨く場所であるお風呂という存在を知って憧れている子も多いのだとか。ボクも嬉しいのですが、なんと言いますか。
洗い場にドーンと柔らかく耐水性の高いマットが敷かれていたり、ご主人さまが薬剤を買い集めてこそこそしているのを見ていると喜びよりも不安が勝ってくるのです。何をする気もしくはさせる気なのかが手に取るようにわかるのですよ。
「そういえばこれって何に使うんだろう?」
風呂場にある謎の棚から鮮やかな色彩の、弾力のある棒状の物体を手に取ってしげしげと見詰める序列三位ことルルちゃん、最近はユリアさんに圧されて若干焦ったのか積極的に媚びを売ってます。
「うぅん、お嬢様はわかりますか?」
見ていたものの結局はわからなかったのか、首を傾げてこちらを伺う序列二位のユリアさん。何気に先人の猫耳に下克上を果たしていたりします。やはり先を行っていても怠けた時点で追い抜かれるのですね。因みにボクはなまけようとしても引きずっていかれたり、おんぶされたりで無理矢理一番にされます、ある意味チートですね、ははッ。
「それはですね、焼却炉にポイしてきてください」
「流石に勝手に捨てたらダメですよせんぱい」
別に詳しいわけではないのですが、ボクだって男の子です。日本に居た頃はちょっとそういうのに興味を惹かれて調べていた時期もあります。だからその、二つの棒をくっつけあわせたような形状の謎物体も何というか、大体用途が解ってしまうのです。
「取り敢えずしまっておいてください、
とにかく、さっさと準備してお湯を入れてしまいましょう」
廃棄に失敗したことにため息を吐きながら、備え付けられたお湯を出す魔道具を起動させて浴槽に湯を張ります。大きさもあるのでまだかかりそうですね。暫くはリビングで待つとしましょうか。ご主人さまが帰ってくるまでにタオルとか着替えを用意しておかないといけませんしね……。
◇
火照った肌にひんやりとした夜風が気持ち良いのです。久しぶりのお風呂は気持ちよかったのですね、いえ変な意味ではなくて普通にさっぱりしました。やはり日本人はお風呂で癒される生き物なのですよ。
こうして一人でのんびりと、日本では見たこともない満点の星空を眺めていると何となく郷愁の想いが湧いてきますね。こっちに来てからもう半年近く、本当に色々ありました。最初は訳も分からず自分が男だと主張して痛い目にあって。
この世界の残虐さや怖さをこれ以上ないくらいに思い知らされて、絶望しきった所でご主人さまに拾われて……思い返してみれば、幸せと言ってもいい毎日でした。ルルとユリアという友達も出来ましたし、ご主人さまにもやらし…優しくしてもらってます。
話の分かる主人に可愛い女の子の友人たち。自分の身体が女の子という点さえ抜かせばこれ以上ない環境なんですけどね。最近どんどんご主人さまとそういう事をするのに抵抗感がなくなっているのが怖いのです。
今のボクを見たら昔の友人達や両親は何て言うでしょうか。友人たちは……むしろご主人さまと同じ反応をしそうです。中学入ったばかりの頃に漫研の方々にモデルとして女子の制服を着せられ、ボクを女子と勘違いしやがった上級生にナンパされた思い出が蘇ります。
両親は……どうか強く生きていてほしいのです。色々あるけれど、こっちでも元気でやっていますから。せめて言葉を届けるくらいはしたいですけど。
「はー、いいお湯でした……、
あ、せんぱい、私にもジュースください」
下着姿でタオルを頭にかけたルルがお風呂から上がってきたようです。目敏くボクが飲んでいたレモンスカッシュに気づいた彼女に苦笑しながら、ピッチャーからグラスに注いで渡します。
「ありがとうございます」
良く冷えた炭酸飲料を目を細めながらごくごくと飲み干すルル。湯上りに飲むと美味しいんですよね。
「ユリアとご主人さまは?」
「っぷはぁ……まだいちゃいちゃ中ですよー、私は流石にこれ以上はキッツイです」
お風呂で何があったかはどうか聞かないで欲しいです。いくらマンネリを打破するためと言ってもやり方があると思うのですよご主人さま。取り敢えず今日の利子分と返済分はキッチリ働いた時点でボクは抜けてきたのです。
ルルとユリアは残ってご主人さまといちゃついてたのですが、ルルも疲れてダウンしたようですね。投げ出された白い脚がちょっと眩しく思えます。ボクのほそっこいぷにぷにした脚とは違いますね。
「……そういえば、せんぱいってレズなんですか?」
「ぶふっ」
するりと投げかけられた疑問の言葉に飲んでいたジュースを噴きだしてしまいました。ちょっと気管に入りました、くるしい。
「げほっ、ごほ、いきなり何ですか!?」
何なんですかその質問は、予想外にも程が有るのです。確かにボクは精神的にはアレですから、どちらかといえば女性のほうが好きですけど……あれ、これってレズになるんでしょうか。いやでもご主人さまのことは好きではないけど平気ですし、他の男性はちょっと遠慮したいのでやっぱりレズ?
「いや、何でかユリアがずっと気にしてたんですよ、
せんぱいが女性好きなんじゃないかと思ってるみたいで、
でも旦那さまと仲良しだし、どっちなんだろう、
もしそうなら私は気持ちにどう答えたらいいのかーって」
……そういえば、初恋の相手が彼女に似た女性だって発言したような記憶が。
「私もですが、シュウヤ様も相談受けてたみたいで、
一時期は旦那さまとお嬢様との間に揺れ動くアテクシ!
って感じでくねくねしてて凄い面白い状態になってたんですよ?」
「い、意外といい性格してたんですねあの子」
それは全く知りませんでした、というか案外恋愛脳だったのですね。いやそうじゃないと幼馴染にずっと懸想してたりしないでしょうね。相当に甲斐甲斐しかったみたいですし。
「『お嬢様には申し訳ないですけど、私の心の中にはもう旦那さましか居なくて』
とかチラチラしてて、色々突っ込みたい気持ちを抑えるのが大変でしたね、
せんぱいも褒めてください」
「ごくろうさまです……」
本当になんて言ったらいいのか。ひょっとして獅子身中の虫だったのでしょうか、失敗でしたか? 一番奴隷の座を譲るのは良いけど何の準備もなく排斥されては困ってしまいますが。
「……あぁ、追い出し関連とかは大丈夫だと、
私も気になってちょっとつついてみたんですけど、
本人的には第二夫人もしくは第三夫人狙いみたいです。
ついでにせんぱいの事も狙ってますね、アレ」
「はい?」
あれ、ご主人さま一筋という話ではなかったのでしょうか。というかボク狙いってどういう意味です? 命ですか、命殺って下克上的なあれですか?
「自覚ないみたいだから言っときますけど、せんぱいって、
いじめられる時にすっっっっっごい可愛らしい声と顔で鳴いてるんですよね、
こう、聞いてるだけでいじめ倒したくなるような、可愛がりたくなるような」
な、なんか肉食獣のような瞳なのですが。というかボクはそんな声も顔もしてませんよ、無表情かつ無反応な人形モードなのです。間違ってもそんな反応はしていません、これは陰謀です、騙されてはいけないのです。
「女同士はぶっちゃけ興味なかったんですけど、
最近ご主人さまがセンパイを可愛がるのがわかってきたというか、
ユリアも似たようなものみたいですよ?
私も、せんぱいとならいいですけど……どうです?」
どうですって何がですか、目を爛々を輝かせたルルが、艶かしい動きで顔を寄せてきて耳にふっと息を吹きかけます。ぞわぞわと寒気が背中を駆け抜けていきました。と、鳥肌がやばいです。
「怯えるせんぱいは可愛いですね」
「ひ、ひやぁぁ!?」
だめです、ここにいたら喰われる気がします。自分でもびっくりするくらい奇妙な悲鳴をあげてルルを押しのけて自室へ逃げ込みました。鍵を閉めて、ご主人さまに買ってもらった白いソファーの上で毛布にくるまります。何てことですか、まさかボクを付け狙うケダモノがご主人さまだけじゃなくなるなんて……!!
このままではいけません、ボクの大切な何かが危ないのです。何とか、何とかしないと……。
【RESULT】
―――――――――――――――――――――――――――――
◆-------------★【ソラ】--★【ルル】--★【ユリア】
[◇MAX COMBO}--◇【2】----◇【1】----◇【5】
[◇TOTAL HIT}----◇【4】----◇【3】----◇【8】
---------------------------------------------------
[◇TOTAL-EXP}--◆【423】--◆【155】--◆【129】
―――――――――――――――――――――――――――――
【パーティー】
[シュウヤ][Lv55]HP772/772 MP1380/1380[正常]
[ソラ][Lv15]HP50/50 MP420/420[正常]
[ルル][Lv47]HP602/602 MP32/32[正常]
[ユリア][Lv31]HP1040/1040 MP60/60[正常]
―――――――――――――――――――――――――――――
【レコード】
[MAX COMBO]>>30
[MAX HIT]>>30
―――――――――――――――――――――――――――――
【一言】
「こんな猛獣だらけの場所にはいられません、ボクは部屋に帰らせてもらいます!」