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斬 -ZAN-   作者: 鷹玖沙 眞
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第3章 役者は突然、舞台を降りる

 僕と四神は祖母の部屋で、かなり話し込んでいた。その辺は祖母の思惑通りと言うべきなのだろうか、僕達が見えている四神の日本刀は、第三者には見ることができないという事実が解ったのである。

 そもそもこの話の発端は、学校に四神がこの刀を持っていた事を祖母に話したからだ。僕が家まで連れて来る事になっていたはずだったのに、祖母が運良く四神に遭遇したまま家に連れてきたかと思えば、部屋まで招いている。

 しかもこの祖母と四神の祖父が旧知の仲だった訳で、祖母はこの刀について熟知していたのだ。

 出来過ぎた話だろう、と呆れてしまう。


「こう見えても“葉山の才女”なんて呼ばれてたのよ。」

 葉山というのは祖母が通っていた女学校の名で、在籍中は成績が優秀だったというのが祖母の自慢…となのだが、僕はもう祖母のこの口癖に飽きている。刀の事をとても感心して聞いている四神に対し、自慢げに説明する祖母にえへんと胸を張っていた。


「にしても…貴女は私に似なかったのかしらねぇ。」

 自分の孫にそこまで言うか!と思っても口には出せない。祖母と口喧嘩しても祖母に勝てた例がない。

 結局の所、四神も祖母に対し刀が放つ“禍々しさの原因”については何一つ語らなかったのである。本人が聞かされていないかもしれない。祖母も「まぁ、良いわ」とあっさり引き下がった。

 三人で話し込んでいる内にお気楽な母親が帰宅したみたいで、外もとっぷりと日が暮れてきている。


「ちょっと席を外しますね。」

 トイレにでも立ったのだろうか?祖母は僕らを残して部屋をそそくさと出て行く。まだ三人なら持った間も、四神と二人になった瞬間に居心地の悪さを感じた。

「ご、ごめんね。お祖母ちゃんが引き留めちゃったみたいで…」

 沈黙が嫌だった僕はそう口火を切ったのだが、四神も「うん…」とか「まぁ…」とはっきり言わず、口をモゴモゴさせて口篭っている。

 さっきまで流暢に説明しだした人物とは思えない。同一人物か?と聞かれると、さぁ…と首を傾げたくもなった。


「お、お茶はどうかな?」

 何で僕は同級生にこんなにも気を使うのだろう。ただのクラスメートに、である。普段からまともに会話していないからこんな時はどうも居心地が悪い。

 僕達の能力は普通じゃない!ましてや身内まで絡んできては…


「待たせたわね。」

 ガラリと襖が空いて僕も四神もビクッとした。四神をこの家に招き入れた張本人がしれっとした顔で戻ってきている。祖母は上機嫌に自分の座布団に座るなり、

「四神君、折角なんだから夕飯を食べて帰りなさいな。」

 と夕食の誘いを申し出た。


「ちょっと、お祖母ちゃん!そんな勝手に決めて…」

「大丈夫よ、葉子さんにも了承を得たもの。四神君は一人暮らしなんでしょ?だったら遠慮しないで栄養の有る物を食べていきなさいな。」

 四神が一人暮らしをしていると言う話も初耳なのだが、それ以上に四神も祖母の勢いに押され戸惑っている。


「でも僕…」

「遠慮する事は無いわ、何だったら今夜はこの家に泊まっても良いぐらいよ。」

 お祖母ちゃん!と僕は思わず声を上げた。多分、僕は耳まで赤くなっているだろう。

「別に貴女の恋人じゃないんでしょ?私の客人なんだから、私が持て成すのが当然でしょうに。」

「そうだけど…」

 結局、僕は祖母に押し切られてしまった。いつもの事だけど…年頃の女の子がいるんだからさ、その辺は察して欲しいものだ。


「ご飯を食べた後に本当に大切な話を貴方達にしたいからなのよ。」

 祖母は意味深なセリフと吐くと、「腹が減っては戦はできぬ~」と僕達を居間へと追いやる。

 居間では母の葉子が食卓に御馳走を並べて待ち構えていた。父は出張に出掛けており、帰宅は遅くになるとの事で、四神は父の席に座らされた。僕はいつもの席に座ろうとすると、祖母の言い付けで僕は四神の横へ、祖母は母と並ぶ位置取りとなる。


「そうなの!四神君って言うの?まぁ香と同じクラスなの?」

 母は四神の茶碗にご飯を装いつつ、大人しい四神を質問攻めにしていた。

「ちょっと母さん!」

「良いじゃない!四神君って優しい顔立ちしているわねぇ、小母さんは好みよ。」

 母さんの趣味など聞いてない!と内心ツッコミを入れてしまう。祖母、母、僕と女性三人に囲まれて四神は四神で対応に困っている。

 四神が女性の応対に慣れていないのかもしれない。


「で、香の彼氏なの?」

 母の矛先は一気にこちらに向いた。

「な!そんな…ねぇ?四神君も何か言ってよぉ!」

 突拍子もない母の質問に、しどろもどろになった僕は思わず四神に助け舟を求める。

「ええぇ…えっと、確かに香さんは可愛いとは思いますが、クラスメートな訳ですし…」

「何馬鹿な事を言ってるのよ!」

 二人揃って慌てふためく。お互いに顔が真っ赤な訳で、そんな僕らを見た祖母も母も笑い出した。


「本当に貴方のお祖父さまとそっくりだこと。二人とも落ち着いて、ご飯が冷めないうちにお夕飯を頂きましょう。」

 祖母は笑い過ぎて涙目になったのか、ハンカチで目尻を押さえている。

「こんな時に父さんが居なくて良かったわねぇ。」

「本当、四神君は殺されちゃってるわよ~。」

 母は笑いながら茶碗に山盛りにしたご飯を、どうぞと四神に差し出した。


「いただきます。」

 四神は笑顔で受け取ると、母と祖母は揃って「やっぱり男の子は良いわねぇ…」と溜息をつく。祖母の号令で夕飯が始まったのだが、四神は気持ちの良い食べっぷりをしている。しかも「美味しいです」と素直に感想を言うので、母も嬉しそうだった。

「父さんはこういう事言ってくれないものね、言ってくれた方が貼り合いが出ると言うのに…」

 確かに美味しそうにお代わりをする四神は幸せそうに見える。


 和気藹々としつつも、僕には一向に気が休まる暇のない夕食の時間だった。祖母も母も四神を気に入ったらしく、学校での事を聞こうとしている。僕が教師に怒られた事など、突拍子もない事を言わないかと気が気で無かったからだ。

 そのせいか今夜はあまり夕飯を食べた気がしない。

 反対に四神は祖母と母から「どんどん食べなさい」とおかわり攻撃を受けた結果、食べ過ぎた

ようで腹を摩っている。見た目が大人しいせいで、四神は押しにも弱い性格を露呈した訳だ。


 ましてや食器を流しに片付けるという行儀の良さまで披露したので、祖母も母も「婿に来い!」と言い出す始末。僕の意思などどうでも良いのだろう。


 そして僕達は今一度、祖母の部屋に戻ったのであった。

 食後のお茶受けとお茶を持って行くからと、祖母は僕達を祖母の部屋で待つように促す。部屋で待つ僕らに、何の話をしてろと言うのだ?話題のない僕達は自然と押し黙ってしまう。


「…ゴメン」

 何て言って良いか分からない僕は、四神に思わず謝った。

「何が?」

 四神は食べ過ぎてしんどい、という吐息を吐きつつ返事をする。

「ん、何となく…騒々しい祖母と母で…」

 本当は夜遅くまで四神を引き留めている事や、物静かな四神に質問攻めをしていた祖母や母の事を代わりに謝ったのだが…何となく答えをボヤかした。

「良いよ、気にしてないから…」

 四神も何処か嬉しそうに答えつつも、まだ胃の辺りを擦っている。「久し振りだったからさ…賑やかな夕食なんて…」と、微かに聞こえるかという様な小さな声で言葉を続けた。


「それってどういう事?」と話を切り出そうとした時、ガラリと襖が開いたのである。

「お待たせ、ご両人!」

 と能天気な祖母の声に、思わず僕は言おうとした言葉を飲み込んだ。

「ごめんねぇ、二人の時間を邪魔しちゃって。」

 ワザとじゃないんだけどねぇ、と小悪魔のような…もとい魔女のような笑みを浮かべて祖母が部屋に入ってくる。

「そ、そんなんじゃないわよ!ね、四神君!」

 四神はまだ胃が苦しいらしく、摩る手を止めずに「うん」とも「うぅ…」という呻きにも取れる言葉で返事をした。


「で、お祖母ちゃんの方こそ何なのよ?話って…」

 こうなったら矛先を僕達から祖母の話へ切り返すしかない。祖母は僕の問い掛けを無視するように自分の所定の位置に座り込む。

「香、そう急かす話じゃないの。四神君、率直に聞くわ、香の事をどう思う?」

 何を言い出すのこの祖母は。「ちょっとぉ!」と僕が声を上げて立ち上がろうとしたのを、祖母は僕の顔面で手を翳して動きを制した。いつぞやの四神が教師に向けたような鋭い眼光を浮かべ、祖母が怖い顔で僕を睨みつける。

「貴女は少し黙りなさい!香、この話は貴女の色恋沙汰の話じゃないのよ、貴女の運命に関わる話なの」

 四神は何か言い淀んでいる。


「良いんですか?言ってしまっても…」

「そうね…二人が出会ってしまった以上、この運命には逆らえないみたいね。」 

 四神は「なら言うべきなんでしょうね…」と少し寂しげな微笑を浮かべながら僕を見る。

「香さんは資質はありますが…この世界で生きるとなると、厳しいでしょうね。僕が香さんを護るには未…」

 祖母はニッコリと微笑んで、四神の言葉を遮った。


「そう、貴方の見立ても私と一緒のようね。…ま、暫くは大丈夫でしょう。香、貴女は今日から四神君と組みなさい。」

 組みなさい?どういう意味なの、それ?

「…二人して何を言ってるの?」

「今は判らなくても良いわ。四神君、これで良いでしょ?」

 その祖母の一言に四神はぱっと座布団を降りるなり、深々と頭を下げたのである。


「月読様の命とあれば、この四神遼、命に換えましても香さんをお守りいたします。」

「良いわよ、そんな大袈裟な…」

「いえ、祖父より“月読様の命には従え…”と言われておりますので。」

 ふっと祖母は微笑んだ。

「あの方らしいわね…」

 祖母の目は少し遠くを向いている。で、やっぱり僕は二人の会話から置いていかれたみたいだ。

「月読様、未だにアレはお持ちなんでしょうか?」

「ええ、勿論。…でも事情が飲み込めなくて、不服そうな顔をしている者がここに居るものねぇ。」

 そうだよ!僕だよ!何で二人して僕を置いてどんどん話を進めるのさ?不満ばかりが増してくる。


「あの方と私は結ばれる事が無かったのは悔いが残るけど、それなりに良い人生を送ってきわ。」

 ちょっと恥ずかしいのか、まぁお茶でも飲みなさいと祖母は僕達にお茶を勧めてから語り始めだす。

「私とあの人が組んでからと言うもの、不思議な事だらけだったわ。でも、私の旦那様は普通の人だったから、結婚してからは平凡な人生…それはそれで幸せでしたわよ。今日で月読の座を降りる事が出来れば私の仕事もお終いね。」

 祖母の意味深な言葉で話の幕は下ろされた。


「四神君、香の事をお願いね。」

 どうしてもこの二人は僕を置いて話を進めたいものらしい。

「承知いたしました。まだ私は半人前の身ですが身命を賭して…」

「大丈夫よ、あの人から刀を受け継いだのでしょ?そんな貴方なら安心して香を任せられるわ。」

 四神も突然の事で戸惑っている感じがする。

「そうは仰られましても…」

「ならばこの命は月読としてのものです!貴方はもっと自信を持ちなさい。」

 そう切り返されれば、四神としては断る事が出来ないのだろう。今一度、祖母の前で平身低頭すると有無を言わさず引き受けさせた。


「香、良かったわね。これから四神君が貴女を護ってくれるわよ。」

「何からよ?それに、そんな…突然すぎるわよ!」

「良いの!今は時間が無い事だし…そうだ!香、”月読”の名前も受け継ぎなさいな。」

 流石の急展開に驚いた僕もそうだが、僕のボディーガードに指名された四神もまた、驚いてポカンと口を開いている。祖母だけが涼しい顔をしていた。


「これで本当に、私の肩の荷が下りたわ。」

「で、ですが月読様…」

 スッキリとした表情の祖母とは裏腹に狼狽しているのが四神である。 

「四神君、月読はこっち。」

 祖母はちょいちょいと僕を指差す。僕だって祖母に”月読”というものにいきなり指名されたのだから、“え~!”という心境だった。


「ならば先代!」

「何よ?私の取り決めに異論は有るの?」

 開き直った祖母は頑固である。本人はもう決まったのだから何を言っても無駄よ、というスタンスだ。

「話の腰を折って悪いんだけど…お祖母ちゃん、私には何の事かさっぱり判らない。」

「だから、私の持っていた“月読”の名前を貴女に譲るのよ。」

 だからその”月読”って何なのよ、それを説明しろと言いたい。

「ごめんこうむるわよ!それよりその”月読”とやらは簡単に引継ぎなんて出来るの?取り決めとかは良いの?」

 四神も僕の意見に賛成らしい。無言で首を縦に振っている。詳しい話は全く判らないが、僕も四神も激しく動揺していた。


「取り決め?そんな必要は無いわよ。名を持つものが継承者を指名し、それに立ち会う者が居れば良し。だから良いの、これにてこの話は終了ね。」

 いやいや、一方的に話を終えられても困るのだが…取り敢えず僕は祖母に引き継いで”月読”とやらを受け継ぐ事になったらしい。


「先代、我々についてですが香さんに改めてお話をするべきではないのでしょうか。」

 流石に訳が分からないままでは襲名にしこりを残すのだと、四神は考えているのだろう。祖母は一瞬、面倒くさいという表情を浮かべたが、それも一理あるかと思い直したようだ。

「なら四神君もその刀を受け継いだという事は…二つ名も受け継いだのね?」

「はい。」

 その四神の返事に少し物悲しそうな表情を浮かべる。

「受け継いだのは何時のお話?」

「昨年の秋、10月半ばです。うちは祖父が剣道場を開いていたので、僕もその門下生として祖父に教えを受けていました。

 学校では夏の大会も終わり部活は引退したのですが、”体が鈍るのは良くない”と祖父に鍛えられて…一本取れてしまったのです。」

 どこか四神の顔は沈んでいた。


「もっと自信を持ちなさいな、剣聖と言われた四神少尉から一本取れたんでしょ?凄い事じゃないの。」

「いえ、取れたから良くなかったんです。祖父は私にこの刀を持つように言いました。そして“素戔嗚”の名前をお前に譲ると…

 祖父は笑顔でしたし、僕も訳が分からないまま受け継いだんです。」

 そう言って四神は暗い顔になる。


「つまり四神君は素戔嗚という役目が判らないまま二つ名を譲り受け、さらに言えば真相を聞く前に四神少尉は亡くなったんでしょ?」

「はい。」

 一瞬にして空気が重くなったのを感じた。だが祖母は平然とお茶を飲む。

「つまりは素戔嗚の名前を引き継いだ、刀を受け取ったから祖父が亡くなったと思うのなら、それは思い上がりね。四神少尉は刀を持たなくとも強いお人だったもの。」

 しかし…と何かを言い掛けて四神は口を閉ざした。祖母が四神の前にすっと一通の封書を差し出したからである。達筆な字で祖母の名前が書かれていた。


「これは…」

「これは貴方のお祖父様が亡くなられる一週間前に書いた手紙ですよ。貴方のお祖父さまはね、末期の癌患者だったの。孫がようやく私に勝ったから、この二つ名を譲る事が出来るととても喜んでいたわ。これでこの世からいなくなったとして、悔いは無いと…

 あの人は寿命だったのよ、決して誰かに殺されたとかは無いの。」

 四神は少し安心したような表情を浮かべている。だが殺されるというのは物騒な話だと僕は思う。

四神の祖父も、祖母もどの様な人生を歩んできたのだろう。人に恨みを買うような人生を送ってきたのだろうか。


「四神君、貴方は私達の所属している機関については…お祖父様から何か聞いているかしら?」

 四神は首を横に振っただけだった。

「香、貴女は…知る筈はないわね。話した事が無いもの。丁度良いわ、二人に話しましょうか。私にも時間がないからね。」

「時間が無いって?」

 祖母はあっけらかんと話すが、僕には嫌な予感しかしない。

「嫌ねぇ、私が年だからって話よ。私はひ孫の顔を見るまで死なないわよ。」

 いけない、このままでは話が脱線しかねない。僕は「はいはい」と話を打ち切る。祖母もそんな空気を察したのか、改めて居住まいを正すとコホンと軽く咳をして話し始めた。


「私と四神君の祖父母はね、とある機関に所属していたの。そこでは私達は古の神の名をコードネームにしていたわ。それがさっき貴女に受け継がせた”月読”であり、四神君の”素戔嗚”よ。勿論、これは機関の中で役割が決まっていたの。

 私は調査機関に属して、四神少尉は討伐班だったわ。」

 僕は目で四神に対し「本当?」と確認をしたものの、当の本人は首を竦めただけである。

「お祖母ちゃん、それって何て機関なの?」

「話して良いものかしらね…一応は当時、箝口令を敷かれていて公にする事は出来なかったわ。まぁ解散をしているから良いようなものの、一応は国家機関の一部よ。」

 胡散臭い…国家機関と言われてもどうもピンと来ない。


「それならその”二つ名”とやらは引き継がなくても良かったんじゃないの?」

「そうもいかないの。戦後はGHQの関係で私達はお払い箱になったのだけど、実は隠密裏に動いているものなの。だから私は個人的に四神少尉やその奥様とも連絡はしていたわ、私達の能力がこの国には必要だったからね。」

 国が祖母の能力を必要としていた?一体何で?祖母はそんなに凄い人物だったのだろうか。


「この国はね、多くの”呪”と”穢”が有るの。それを払うのが私達の役目で、それらが人に取り憑けば惨事になるもの。勿論、私達だって狙われる。だから四神少尉のように”魔を斬る人”が居るのよ。」

 そう言って話す祖母は当たり前のように話すが、僕自身がついていけない。それ以前に信じられないのだ。あまりにも荒唐無稽過ぎる。


「四神君は”魔”を斬った事が有るのね?」

「はい、祖父に命じられて数回ですが…」

「“詳しい話をするより、その身をもって体感せよ”って事かしらね、あの人らしいわ。だから香が刀をもった四神君を初めて見た時に”可哀想だ”と思ったのでしょ?その刀が見れるという事は魔に狙われる確率が高いから、でしょ?」

 四神は「はい」と頷いた。って四神が否定しないという事は…ちょっと待て!僕は命を狙われる身なの?


「お祖母ちゃん、僕は殺される危険性があるって事なの?」

「そうねぇ、少なくとも有るわね。だから四神君が貴女を護ってくれるって言ってるのよ?霊が視える血筋に生まれたんだから諦めなさいな。」

 祖母はサラリととんでも無い事を僕に言ったものである。

「でもそれってお祖母ちゃんも狙われてたって事でしょ?よく平気だったわね。」

「そりゃ何度も狙われましたわよ。でもね、そんなのは慣れっこだし、簡単な退魔ならできるの。

それに家には結界も結んでるから簡単に魔が侵入するなんて事は無いのよ。」

 嫌だ、そんな命を狙われた世界に慣れるのは…


「で、でも僕はそんな退魔の仕方なんて知らないし…」

「そうね、表立っては知らないと思うわ。でもね、私は貴女に”御呪い”は教えたわよ?」

 小さい頃には確かに幾つかのお呪いは祖母に教えて貰った記憶はあるが、朧気になりつつあるのだ。

「大丈夫よ、いざとなれば思い出すように私が“呪術”を掛けてあるから。」

「ちゃんと発動するの?それ?」

 祖母は「さぁ?」と首を捻る。


「貴女次第という所かしらね、大丈夫でしょ、いざとなれば四神君が護ってくれるし。」

 四神は四神で「はぁ」と心もとない返事をした。

「四神君のお祖母様が亡くなったのは…2年前だったかしら?確か彼女は”思兼神”が二つ名だったはず。まぁその刀を写すカメラを作り出すぐらい優秀な科学者だったわ。問題は…誰がその二つ名を受け継いだかにもよるのよ。」

「基本的にそう言った二つ名は血筋の者、能力が秀でた者が受け継ぎますからね。…心当たりが有るとすれば私の従姉妹ぐらいなのですが、確証はありません。」

「受け継いだとなれば…“素戔嗚”、“月読”、“思兼神”が揃う事になるわね。そうなると、機関の復活かしら?それはそれで厄介なんだけど避けられない運命みたいだわ。」

 祖母はやれやれと深い溜息をつく。


「ねぇお祖母ちゃん。二つ名を聞いてて思ったんだけど…“天照”が無いんじゃない?」

 そんな、貴女それは恐れ多くて使えないわよ。さておき、“思兼神”を名乗る女性が貴方達の前に現れたら注意しなさい。揃った時は機関の復活になるわ。新たなる敵が出た事を意味するの。」

 僕達は一体、何に巻き込まれると言うのだ?思うだけでも不安になる。


「ねぇ…お祖母ちゃん、今からでも”月読”の名前って返上できない?」

「無理ね、諦めなさい。」

 そんなぁ、普通の女子高生の生活とはこれでおさらばなの?一連の話を祖母から聞かされると、目の前が真っ暗になった気がした。

「大丈夫、僕も祖父から聞かされた時は同じだったから…」

 四神の気休めになるようなそうでない言葉に、僕は更に気落ちしたのである。

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