我、遭遇ス
「王国の侵入禁止…区域だって…?」
仁は目の前で仁王立ちをしている少女の発した言葉を知らずのうち反復をしていた。
「そう、ここは王国が指定している侵入禁止区域。旅人や商人を狙う盗賊が多いし、C級危険生物の生態も確認されている場所なの。一般人が立ち入ることは固く禁止されているはずよ。」
仁が呟いた言葉を凜とした声で返す少女。彼女は身長でいえば160センチぐらいだろうか?
蒼色の清々しく美しい光沢を放つ髪はストレートでまとめてあり、白磁を連想させるほど病的な白い肌は周りの風景の中で圧倒的な存在感を誇るようにみえた。仁を見つめる大きな瞳の紫紺色は紫独特の色彩を放っており、彼女の容姿は10人中10人が性別関係なく振り向くであろう超絶美人の類であると感じた。
少女の声は年齢が未熟ながらも明確で確固たる意思と英断を含んでおり、仁は内心軽くびくつきながらも不審に思われないよう返事を返した。
「えっと…何ていうか、自分でもここになぜいるのかわからないんですよ。」
この場は記憶喪失の設定で乗り切ることにしよう。もしこの緊迫した場で‘僕、異世界から来ちゃったんですよ’なんて軽く口にしても果たして信じてくれるだろうか?いや、おそらきない。多分、ふざけている不届き者として捕まるか、それか頭がイッてるおかしい人として見られてしまうか、どっちみちまともな運命に転がることはないだろう。それにもし言うのなら今ではなく後になって親交を深めたとこで言うのが理にかたっている。
「はぁ、何それ。まるで記憶がないっていってるようなものじゃない。」
仁の曖昧な答えに少女は呆れているようだ。しかしまだ腰に備えている剣に手をかけており、警戒は解いてないようだ。
「そう、記憶がないんですよ!」
「なんか嘘くさい…」
少女の紫紺色の瞳はこちらをマジマジと見据えている。
「いや、本当ですよ。」
「だからあなたが言うと嘘くさいのよ!」
「ちょっと失礼しますフィレア様」
声がした場所へ顔を向けると、フィレアと呼ばれた少女の後ろに控えていた青年が横槍を放つように仁とフィレアの間に入った。
見たところ年は20代前半で背は仁とほぼ同じであり、髪は金色のショートヘアで顔は端正に整っている。腰に携えている剣に手をかけ、警戒心を露にしながらフィレアに声を掛けた。
「彼が旅人にしろ異邦人にしろ、ひとまず禁止区域に立ち入っている時点で法を侵す不届き者には変わりません。彼の身柄を拘束した方が宜しいかと。」
「だから記憶がないから故意じゃないと…」
「黙れ!犯罪者の分際で屁理屈をいうか!」
大声を上げヒステリック気味にキレる金髪。どうやら話しても無駄な性格の持ち主のようだ。
「…っ…そ、そうね。それに近頃治安が悪いみたいだし。」
「情報部から聞いた話ですが、反王家集団‘デストリアス’などの過激なテロリストが活動を活発に始めたとのことです。」
「デストリアス…ね…厄介な相手だわ。」
「ええ」
顔に歪ませ大きな溜め息をつく少女。よほど苦労してる相手らしい。そして
「てことであなたの持ってるその荷物をこっちに渡しなさい。。肩にかけてる木の棒も没収の対象です。」
「え、何で没収?ってか木の棒って…」
「一応あなたは法律を破った者。違反者は指示に従うの。あと足元に置いてある魔道具も没収の対象です。」
足元に置いてある九六式軽機関銃を見ながらしゃべるフィレア。どうやら彼女には軽機関銃が魔道具に見えるようだ。
「没収って強制なの?」
「そう。拒むことは許されません。」
「じゃあ取り調べが終わったら返してくれるの?」
「いえ、法律を犯した者が所持した武器は一生手元に返ってこない。しかし魔術や精霊術、武術に優れた者は別です。大抵軍にスカウトされたりしますから。」
「ふーん。」
「とにかく武器をこっちに渡してくれないかな。」
そう言い近づいてくる。
しかし彼女の予想は裏切られることになった。
「それだけは譲れませんねえ」
「え…」
「答えはNo、お断りしますよ。」
相手に明確に断われたことに驚いたのだろう。さっきまでの余裕の表現が一変して、
困惑に変わる。さっきまで話していた金髪の男も鋭い表情で仁に睨みをきかせていた。
「フィレア様。力でねじ伏せてしまいましょう。こんな下賤な輩に配慮する必要はありません。」
気が短い金髪は潰す気満々でいるのか、腰から剣を取り出している。
それをフィレアは手で制し、紫紺色の目をきつくし若干声を荒げた。
「命令を従わないつもりなの貴方?正気?もう一度言うわ、持っている荷物とそこの武器をこちらに渡しなさい。これが最後の警告です。」
「あいにく従うつもりはないね。だって木の棒を取り上げても意味がないじゃん。」
『木の棒』を強調して再度断った。
「…ッ…貴方!」
白磁のような肌を怒りの如く赤く染め、目の前のフィレアと呼ばれた女性は跳躍をし後方に距離をとった。とても手馴れた動きだ。多分臨戦体勢をとったのだろう。周りの面子も手に剣やら弓やら手から白色の球って何なんだあれは。
「命令無視の上、私を侮辱する態度。仕方がないですが、強硬手段をとらせていただきます!」
華やかな飾りの剣を抜刀し、剣の周りから白い粒を噴出させた。
「水の神フーよ、お力を与えください。」
唱えた途端、彼女の剣の周りにあった白い粒が変わり、水が渦を巻きながら剣に蛇のように巻きついた。
仁はひとまず片手に持っていた四四式をしまい、もう一方の手に九七式手榴弾を出しながら、戦線脱出プランを考えていた。よし、まずこうしよう。手榴弾を立投でできるだけ投げ、相手が混乱している隙に軍用バイクをだして逃げてさよーなら。簡単なプランのできあがりだ。
プランを立て終わったら後は投げるタイミングだけだ。タイミングを誤ると計画が大失敗に陥り、武器を没収され運が悪ければ牢屋行きだ。ますは落ち着いて隙を突き、先制攻撃をしないと。
誰一人緊張を緩めない極限状態の中、慣れない空気に居心地の悪さを感じながらも、投げることに少し躊躇していた。
(やべ、なんか緊張してきた。)
手に持ってた手榴弾をどこら辺に投げればいいか確認する。緊張をしているせいか手が汗でベトベトだ。彼女達とは5メールぐらいの距離があるので、距離的には問題はない。後は敵の真ん中辺りに投げればベストであり、後は計画通りに狙って撃てばいいだけだ。
ちょうど中心の側にいる弓でこちらを狙っている男に狙いを定めた。飛び道具を使う相手は今の状態にとってとても驚異である。
(よし、今だ!)
そして吸い込まれるように目的物に向かって投げようとした時、
辺り一面に爆発音が響き渡った。
主人公は國山仁と呼びます。じんではありません。