苦い泥
星屑の欠片を拾い集めよう、空を見なくて良いように。
ストの街の子供たちは、その白濁色の湖の中に、金色の魚を探した。
僕も、そのある一種の昂揚の中で、夢中になって眼球を廻らした。
四、五人で集まって探す者もあれば、一人で熱病にでも冒されたように湖に両足を突っ込む者もいた。
その手は水を掻いても、魚の尾びれに触れる事は無い。
僕は、早々に諦めて、濡れてしまった腕や靴を乾かして傍観を決め込んだ。
小高い岩に腰掛けて、そこからは全てが見渡せた。
そのうち、ある集団が、あった、あったと舌足らずの口調で騒ぎ出したので、周囲の子供たちが一気に注目した。
それは、工場長の娘で、名前はなかった。僕達は、その工場長の娘が、ひどく嘘吐きなことを知っていたし、そのもったいぶったブーツの持ち方が気に入らなかった。
どうせ嘘なんだろう、と誰かが言った。
それで体の大きな奴が、無理矢理に見ようと娘のブーツに手を掛けた。
しかし、その工場長の娘が凄い剣幕で喚き散らした。
その勢いに乗じて、そのブーツを奪おうとした他の子供も群がった。
いくらか浅い湖ではあったが、子供たちの腰の辺りまで、水位はあった。
我先にと、他の子供を押し分けながら、ブーツだけでなく、お互いの服やズボンや履物まで奪う始末だった。
金の魚の事なんて如何でもよくなった子供たちは、とにかく出来る限りの物を略奪しあった。
背の高い男の子も、太った女の子も、体の小さい子供でも、恐れなどはないようだった。
傍観していた僕も、盛んに煽り立てた。さながら、餌に群がるハイエナか、カモメのようだと僕は思った。
そもそも誰が、湖に金の魚が落ちてきたなどと言ったのだろう。
ストの街の子供たちは、持てる限りの力を使い果たし、ある者は一糸纏わずに、ある者は、履物ばかりを手に入れた。また、混乱の中で蹴られたり踏まれたりした者が膝をついていた。
一様に虚ろな目をした子供たちは、それぞれの戦利品を引きずるように岸に上がり、街の方に歩き始めた。
工場長の娘だけは、いつまでもだらりと口を開けたまま湖に浮かんでいた。
僕は急におかしさが込み上げてくるのを感じた。
いったい『誰が』金の魚などと言ったのか。
僕はもう、笑い声を抑えることを止めていた。
だって奴らときたら、誰も空など見ようとしないのだから。