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雨雲の歌
しとしとと鈍色の空から雨が降る。
こんな時でも、吟遊詩人は歌を歌う。
雨雲の歌だ。
だがそれは、どこかで聴いた歌とは違っていた。
嫌わないでと言葉を募らせながら、そうなることは諦めた様子が、物悲しい旋律と今の風景によく似合う。
だからと言う訳ではないのですが、と歌い終わった吟遊詩人は言う。
雨雲も雨も、晴天と同じくらい愛していると。
旅人もまた、同感だ。
晴々とした青空の元、絵画になりそうな風景の中を歩いていくのも好きだし。
雨に降られながらの旅も、土砂降りで足止めを喰らう旅も、やはり好きだ。
こうして二人、笑い合えるのも後暫く。
友との別れは近付いている。