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吟遊詩人
旅人は吟遊詩人と出会った。
たまたま、目的地が同じだったのだ。
吟遊詩人は銀の竪琴を携えている。
気が向いたり、美しい光景を目にすると、誰に聞かせる訳でもなく、竪琴をつまびいた。
零れるような音が心地よい。
野道でふと見かけた花に癒されている、その些細な行動ですら吟遊詩人は歌った。
泉のようにこんこんと、言葉がとめどなく溢れて来るのが不思議だ。
もしも竪琴が弾けたならと、もしも美しい歌声を持っていたならと、思わなくもない。
若干羨ましそうに眺める旅人に、吟遊詩人は言った。
私はただ、歌いたいだけ。弾きたいだけ。
貴方と何が違いましょう、と。