思い出の旅
心に残る旅はと聞かれたら、旅人は幼い頃に見た夢の旅だと答えるだろう。
それ程までにその旅は、得る物が多かった。
淡い赤の空間。ピンクではなく、赤を薄めた空間だ。
そこに翼の生えた白馬がいた。
夢を翔けるペガサスだと、瞬時に悟った。
近くには、見たことのない少女。今ではもう、顔も思い出せない。
彼女と一緒にペガサスに跨がり、夢を渡る。
夢は、虹色の泡に包まれて、ぼんやりと色付いていた。
少女がひとつひとつ教えてくれる。
その青い夢は海の夢。
その赤い夢は夕日の夢。
その銀の夢は星たち。
数え切れない夢が、きらきら光り、ゆらゆら揺れ、時にははらはらと散って行く。
そんな幻想的な中を、二人、旅をした。
海原の歌を口ずさみ、夕日の色に染まりながら、銀の星を目指して。
ピンクではなく、淡い赤だと思ったのは、それが夕日の色だったから。
気の済むまで夢の中を旅して、最初の場所に戻って来る。
また会おうねと、指切りを交わした。
起きてから、考えてみた。
自分は綺麗な景色を見たい訳じゃない。
知らない世界を見たい訳でもない。
ペガサスに会いたい訳でも、少女とまた旅をしたい訳でもない。
ただただ純粋に、旅をしたいだけなのだ、と。
旅人としての人生は、その時に決まったのだと思っている。