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花びらと蝶
どこからかやって来た花びらが、風に躍る。
地面を見遣れば、柔らかそうに転がっている。
周囲には特に目立つ花などない。
そもそもこの花の主は、大樹である。
荒野にぽつんと立つ孤独な性質は持ち合わせておらず、仲間のたくさんいる山で群れる、寂しがり屋だ。
ふと、散りゆく花びらの中に、不思議なものを見る。
花びらと同じ大きさのそれは、小指の爪ほどの羽に淡い桃色を纏わせ、花びらと見紛う可憐さを伴っている。
蝶だ。
この花をとてもよく好み、本来なら山で生活する種類である。
恐らくは花びらと共に、風に流されて来たのだろう。
しかし蝶は、その一頭だけではなかった。
何頭も花びらに混じり、空を飛び交っている。
ここまで来ると、故意に流れて来たとさえ思える。
風に流されながらも飛んでいる姿はまるで、いつまでも空にしがみついているように見えた。
それならば、花びらの方がいいと旅人は思う。
花びらは風がある限り、命続くまで旅をできるから。