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薔薇と少女と
蒼く染まる街の中、民家に咲いた薔薇だけが、咲き誇っている。
雨はひどく、軒先で雨宿りしている旅人に吹き付けるほどだ。
そんな中なのに、薔薇は力強く可憐。
見とれていると、視線を感じた。
民家の中から、少女が薔薇を眺めている。
誰に恋をしているのか、甘く蕩けるような表情で、笑顔を零しながら。
少女と目が合う。
彼女は旅人にも、その蜜と見紛う微笑みを向けて来た。
未熟さ故に魔性はない。
だがそれがいい、と旅人は思う。
佇んでいるだけで蒼の世界を染める花の、凛とした佇まいは誇り高い騎士のようで。
雨の青に負けず、風に吹かれて踊る紅は、舞い踊る貴婦人のようで。
きっと嫌なことも切ない想いも、拭われるだろう。