30/36
面影を探して
雨が降ると、人々は屋内へ避難する。
例えば旅人や冒険家のように、雨に打たれることが命に直結する問題ならば、納得できる。
それなのに、みなこぞって雨を嫌う。
雨を愛しく思うのは、変わり者ばかり。
旅人は、雨でけぶる街を歩く。
逃げ遅れたのか、女性が一人、慌てた様子で角を曲がって行った。
程なく戻って来た彼女は、心なしか元気がない。
人探しをしていて見付からないのだろう、と旅人は思った。
放浪する人々は、他者の厚意で命を繋ぐ。
故に、他者の表情を読み取ることに優れているのだ。
旅人も例に漏れない。
気になって振り返った女性の足取りは、強く、強く。
きっと涙を雨に溶かしてでも、彼女は愛しき面影を追うだろう。
そこまで想われている男に、些か羨望の思いを抱きながら、旅人はまた、雨の街を歩く。