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夜空の旅
今宵だけ、夜空を渡る船は君の物。
そう聞こえた。
だから、旅人は舵を握る。
旅人の意思に応えるように、船から振り撒かれていた光の粉が、純白の翼を形作る。
来た時と同じく、船はふうわりと浮き上がった。
闇で満たされた深い空を、船は行く。
操舵室は一段高い所に作られていたため、舵を取りながら地上を見下ろせた。
海も陸も真っ暗で、境目がない。
辛うじて弱々しい光が見える所が、恐らく人里だろう。
賑やかできらびやかな街も、空から見れば何とも頼りない光だ。
空から見た世界は一つで、揺らめく炎の明かりは今にも消えそうで、人間は何てちっぽけな存在なのだろう。
そんな事を思いながら、旅人は船旅を楽しむ。
その胸にあるのは、自然への畏怖ではなく畏敬の念だった。