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古いコンパス
光の中にぽっかりと浮かぶ黒い男から、方位磁針を渡される。
使い込まれ、アンティーク特有の鈍い光を宿すそれは、道具本来の姿に思えた。
指針がある一点を指している。
旅人が自分の方位磁石を取り出して、掌に並べた。
どちらも使い込まれているが、しっかりと北を指す旅人の物と、北とは別方向を指す渡された物。
よく見ると、渡された方には方向を知る手掛かりがない。
本来なら北や南の略語が書かれているのだが、それが全くないのだ。
しかし、この方向音痴の方位磁石が何の為にあるのかは、すぐに理解できた。
針の先が示すのは、旅人が帰るべき場所。
きっとこれなら、迷わない。