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羅針盤
ついて来い、と言わんばかりに目の前の男が踵を返す。
旅人は船へ続く光の帯に、足を踏み入れた。
意外にも、光の帯は堅い石でできたかのような感触だった。
船上に降り立つと、改めて船の大きさを実感する。
淡く輝く帆は、信じられないくらい白い。
舵の傍にある羅針盤に、旅人は釘付けになる。
数々の星が映り込み、とても方角を知ることはできそうにない。
それなのに何故か、一点を指しているのが分かる。
ローブの男が呟いた。
それを頼りにしてはいけない。
頼ってしまったら、この船の翼は砕かれるか狂うか。
いずれにせよ、二度と地上に戻れぬと知れ。
耳元でそっと囁くそよ風のような声なのに、低い声は耳に残った。