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荒野の立て札
寂しい山道を、独り歩く。
荒れて渇いた地面に、枯れかけた草が所々に横たわる。
遮る物のない道は、旅人に陽射しを容赦なく浴びせる。
マントや帽子で軽減しているものの、厳しいことに変わりはない。
疲れたら少し立ち止まり、携えている水筒の水で喉を潤す。
これがもし緑豊富な森ならば、果実や涌き水がその役目を担うところである。
こうも渇いた土地では、野性の生き物を狩り、腹を満たすことさえ困難だ。
そんな過酷な状況にありながらも、その旅人はどこか幸せそうな笑みを浮かびながら、黙々と歩いていた。
道端に、砂埃で薄汚れた小さな立て札がある。
片膝を着き、手で表面を払うが、長年の汚れはそう簡単には落ちない。
どう頑張っても、書かれている文字は読めないままだ。
旅人は、名残惜しそうに立て札から離れる。
機能しない立て札。
昔は旅の道としてよく利用されていた証。
それが直されていないのは、もう長らく使われていないと言うことだ。
少しの寂寥感と懐かしさを立て札の傍に置いて、旅人は旅を再開する。
その旅路は、過去へと続くのかも知れない。