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黒猫
旅人の進路を黒猫が阻む。
僅かな光にその瞳は緑色に輝き、じっとこちらを見ている。
しゃがんで舌打ちすると、いかにも恐る恐ると言う態度で歩み寄って来た。
指先や足先などに鼻を近付け、ニオイを嗅いでいるらしい。
動かずにいると、安全と判断されたのか、頭を擦り付けられた。
撫でればうっとりと目を細める。
地面に寝転がり、うねうね催促。
無防備な腹を優しく撫でてやると、何とも言い難い柔らかさ。野良の割に食生活は上々らしい。
前脚を取り、爪を出して見る。
うむ、イイカンジに研ぎ澄まされている。
これでぶっすり刺されたら、二、三日は痛いだろう。
すっかり旅人に慣れたのか、なされるがままに肉球を揉まれている。
ひとしきり構ってやった旅人が立ち去ろうとすると、黒猫はきょとんとした顔のまま頭を持ち上げ、しばらく前脚を交互ににぎにぎしていた。