旅ノ意
空をゆく雲を見つめると、傍らに人の気配を感じた。
一目で旅人と分かる、旅慣れた服装。そよ風を纏ったような儚さが、その旅人にはあった。
「いつか、俺に言ってくれたよな……」
古い日記をめくるように、思い出がひとつ、またひとつと溢れてくる。
旅人が口を開く。
「果てしない旅を続けるのは、遥かな空の彼方を、雲途絶える所を、夢が降り立つこの大地を、探し続ける事なんだ」
見晴らしのいい丘の上。青く澄み渡る空を眺めるその眼差しは、宝物を探す少年のように、輝いている。
「どんな意味があるのか、俺には分からない」
青年は膝を抱え、顔を埋めた。
そんな青年を、旅人は優しさと愛しさが入り交じった、柔らかい微笑みで見つめる。
「だろうね。例えば煌めく星の子達を、輝く月の光を、掴むような話だから」
「馬鹿だろ」
「分かっている。いくら夢の翼を羽ばたかせた所で、星の子も月の光も、掴める物じゃない事は」
それでも、と旅人は一歩、歩き始める。
「旅する意味などないのだよ。私はただ、旅をしたいだけ。それを分かってもらいたかった」
階段を駆け上がるように、旅人は空を飛ぶ鳥を追い越してゆく。
旅ができる喜びに身を任せて、風と共に幻は消えた。
「死んだら旅を続けられないだろ、馬鹿」
彼は呟く。
どこで果てたとも知らない友に、想いを馳せて。