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すげえぜキラリンバスター



「あいつ、どうするんすか?」

「俺が知るかよ。とりあえず指示待ちだ」

「しっかし間抜け面晒してますねー」

「せいぜいいい夢でも見ていてもらおうか」

「へっへ、夢を見てるってんならこれからずっとっすよ。こいつのガキにゃあ、俺らの……」

 ん。

 んん。

 なんか、誰かいやがるな。それよか、やばい。いつの間にか普通に寝てしまっていたらしい。これはまずいぞ。百鬼さんに怒られちまうな。

「あ、起きやがりますね」

「しっかり縛ってんだろうな?」

「あー、もちろんっす」

 ん?

 んん?

 体を動かそうとするが、何故だか自由に動いてくれない。まるで椅子に縛りつけられているみたいだ。

「……って」

 目を開けてみると、両手は後ろに回され縄で縛られ、両足も揃えて縛られている。

「なんでだ!?」

 マジでなんだ!? なんで縛られてんだよ!

「おっ、気づいたな」

「てめえら、さっさと解きやがれ!」

 応接室にいたのはスーツを着たキノコヘアーではなく……『スーツ』を着た、どっかの組織の戦闘員だった。くそう、完全に油断してた。まさか、マジで組織が絡んでたとは思いもよらなんだ。

 二人の戦闘員は喚く俺を見て、げらげらと笑う。ばたんばたんと暴れても、全くの無駄だった。

「まーぬけが。これだから一般人を相手にすんのは楽でいいぜ」

「まさか、畜生! てめえらっ、何か仕込みやがったな!」

「ひゃひゃひゃはやはや!」

 あの、キノコヘアーが持ってきた飲み物に何か入ってたんだ。さらに言えば、あのお茶請けにも何かが入ってたに違いない。

「くそう、お代わりなんてするんじゃなかった!」

「こいつ伝説級に頭悪いっすね」ほっとけ!

 しかし、こいつではっきりしたぞ。やはり、この舞武塾というのは悪の組織の、悪事の温床となっていたんだ。

 ひゃひゃひゃと笑うクズどもめ。……あれ? そういや、百鬼さんたちはどうなったんだ。まさか、既にこいつらに……!

 その時、扉が開いた。戦闘員たちは咄嗟に構えたが、現れたのは無表情の子供が一人である。

「おやおや、お嬢ちゃんどうしたんだい? お母さんとはぐれちゃったのかなー?」

「へっへ、先輩。なんすかその猫なで声」

 その子は、いなせは、縛られている俺を見て、憂鬱そうに息を吐き出した。

「……マサヨシ。少しは薬になったんじゃないのかい。ここに何かあるかもしれないってのに、疑いもなくすすめられた物に手をつけて」

「気づいてたのか?」

「あたしだけじゃなく、あの女も気づいてたみたいだよ。あいつは気にせず飲み食いしてたけど」

 あいつこと、レンは胃腸も丈夫だから、そんじょそこらの薬なんか効かないのだろう。便利なのか、不便なのか。と言うか、俺もレンと同レベルだった。

「今のところ、俺以外は無事なんだな?」

「ああ。今、あの女と怪人が戦ってる」

「マジかよっ。いなせ、早くこいつを解いてくれ」

 頷き、いなせは足を踏み出そうとする。その前に、戦闘員が立ちふさがった。

「……なんすかなんすか先輩。こいつら、やばいんじゃないんですか?」

「たかがガキだっ。よく分からんし、ちょっとやばめな話をされたが、とにかくここは通さんぞ!」

「そうかい」

 と、いなせは殴りかかってきた男の腕を取り、軽く捻る。その状態で、もう片方の男の足を払った。いなせは男の腕を捻り続けたまま、倒れた男の腹を踏みつける。

「安物のスーツだね」

「ほっとけ! くそおおお、いででででで! はっ、離せ離せ!」

「あっ、こんなとこにいた!」 ばあん、と、開け放しになっていた扉が吹き飛んだ。

 あ。

 ぐちゃぐちゃになったところで、今度はレンが現れた。彼の右腕には赤いものがこびりついているような気がしたが、たぶん気のせいだから見てみぬ振りをしよう。

「もう何やってんのさ! 勝手に動いちゃダメだって言われてたのに!」

「先に動いたのはお前じゃないか」

「お兄さん、大丈夫? すぐに助けてあげるからね」

 レンはにっこりと微笑む。

「あ、ああ、頼む。早く縄を」

 言いかけたところで、レンは転がっていた戦闘員を蹴りつけた。「うわああああああああああああああああ」重力を無視したような動きで、戦闘員は天井へと、一直線に吸い込まれていく。俺は、ごくりと、つばを、飲んだ。

「縄を解けばいいんだよっ」

「あ、そっか。待っててね」



 ぐう。手首足首に赤い痕がついてしまった。いや、それよりも。

「百鬼さんが怪人と戦ってるんだな? どこだ?」

「外だよ」

 俺は頷き、グローブをはめながら応接室(だった部屋。今は見る影もない)を飛び出し、塾(だった場所。今は見る影もない)から飛び出た。駐車場では、何故か車が炎上しており、

「キノオオオオオオオ! ちくしょおおおおおおおおおおおっ、何なんだよこいつはよおおおおおおおおおお!? よくもやりやがったなああああああ!」

 キノコ型のスーツを着た怪人が叫んでいた。

 そして、彼と対峙しているのは、ネギを持った百鬼さんである。……今、彼女はいつものエプロン姿ではなく、ぱりっとした服装なので、すごくミスマッチだった。が、アレはただのネギではない。いわゆる、魔法の杖にも等しいモノなのだ。

「あら、青井君。まだ寝ていなくて大丈夫なの?」

 皮肉っぽく聞こえたのは間違いではないだろう。

「すみません。協力をお願いしたのはこっちなのに」

「いいのよ。子供を利用する怪人は見過ごせないもの」

「利用して何が悪いんじゃボケエエエエエエエエ!」

 キノコ怪人は胞子を撒き散らしながら怒っていた。

「くそっ、俺の計画が水泡に! ガキどもをキノコ好きに洗脳し、最強のソルジャーとして育成する計画がご破算になっちまった! 許さねえぞクソヒーローどもが」

「私はヒーローじゃないんだけど」

「じゃあなんだってんだよ!?」

「主婦よ」

 キノコ怪人はがっくりと膝をつく。

「主婦だと? 俺は、主婦にぐっちゃぐちゃにかき回されたと言うのか?」

「ここで諦めてくれるかしら」

「誰がっ」怪人は立ち上がり、百鬼さんを指差した。

 ……いや、正直、展開についていけない感がある。俺が寝ている間、物事が進み過ぎてて、ちょっと入りづらい。さっきから、タクシーの中にいる社長がやたらガン飛ばしてきてるけど、けどなあ。

「諦めるものかーっ」

 キノコ怪人が駆ける。百鬼さんは仕方なさそうに、ネギに目を遣った。

「しようのない子。……シャクヤク、力を貸しなさい」

『了解。状況は壬。ディバインバインドの使用を提案』

「却下よ」

 百鬼さんは自らの得物に向かって、何事かを呟いた。

『状況、戌。音声認識、一パーセント。キラリンバスター、発動』

 シャクヤクの先端が割れて、中から、閃光と爆音が生まれた。俺が目を瞑り、開いた次の瞬間にはもう、キノコ怪人は真っ黒焦げになって、アスファルトと同化している。まるで魔法だ。

「す、すげえ」

 こ、これが。

「これがキラリンバスターの力ですか」

「…………やめなさい」

「すげえぜキラリンバスター。さすが百鬼さんですね。いやあ、俺には真似出来ないなあ」

 百鬼さんはこっちを見ている。無表情だった。

「キラリン……」

「やめてっ! 仕方ないでしょう、ああいう風に設定されてるんですもの! 言わなきゃ発動しないんだもの!」

 まあ、元はちっちゃい子に持たせる為の武器だったもんな。ああいう悪趣味な技名を叫ばなきゃならんのには同情を禁じえない。




 キノコ怪人たちはどこかの組織に属していたのだろうが、どこに属していたのかまでは、結局口を割らなかった。彼らの狙いは、子供を洗脳し、優秀な兵士として扱う事にあったらしい。ガキなんざ使ったところで大した戦果が得られるとは思えないが、まあ、従順な戦闘員はどこの組織だって欲しがっている。需要はあったのかもしれない。

「しかし、気の遠くなるような作戦だな。だいたい洗脳って、どうやるつもりだったんだろう」

 と、俺たちは、キノコたちが乗せられたパトカーを見送っていた。

「さて。それよりも青井、あなた、一人で眠りこけていたそうね? 敵地に行き、敵にすすめられたものを口に入れるなんてヒーロー失格よ」

「うるせえな。結果オーライだろうが」

「全く……百鬼さんには、お礼をしないといけないわ。うちのヒーローったら、今回は役立たずもいいところだったんですもの」

 じっと睨まれてしまう。俺は目を逸らした。

「気にしないでいいわ。さっきの怪人のやろうとしていること、私も許せなかったから。お礼なんて、別にいいのよ」

「そういうわけにはいきません」と、社長はきっぱりと言い切る。

「青井に渡すギャラを、全てそちらに回しますから」

「えっ? いや、ちょい、しゃ、社長……?」

 話が違う。

 百鬼さんは俺を一瞥し、それから、社長の顔をじっと見つめていた。お願いします。生活がかかっているんです。俺には二人の子供が!

「……お金はいらないと言ったのよ。でも、あなたにもプライドがあるというのは分かるわ」

「でしたら」

「お茶にでも付き合ってもらおうかしら」

「なんですって?」

 おや、珍しい。社長が目を真ん丸くして驚いてやがった。

「今まで好き勝手してきたから、私、友達が少ないの。主婦って結構退屈で、たまには若い子とお喋りしてみたいのよ。あなたは、おばさんの相手をするのは嫌かしら」

「そんなことでよければ、付き合わせていただきますけれど」

「ふふ、よかった」

 ……そういや、前に百鬼さんは社長について言ってたっけ。彼女を見ていたら、死んだ娘の事を思い出してしまった、と。

「青井のおごりで」

 えっ。

「ああ、そうね。それなら……」

 ええっ?

「ま、まあ、とりあえず今日は帰ろうぜ! 俺疲れちゃったなあ! よーし行こうぜ九重!」

「疲れるほど働いてないくせに」

「青井さん」

 今日久しぶりに喋った九重は真剣な表情だった。

「さっきのキノコ怪人なんですけど、子供たちをどうやって洗脳していたのか、考えてみたんです」

「はあ、お前はどう考えたんだ。それより早く帰ろうぜ」

「いえ、キノコには胞子がありますよね。アレをお茶に……」

「やめろっ! さっきのお茶には何も入っていなかったんだ! 何もな!」

 もしかしたら睡眠薬的なモノが入っていたのかもしれないが、ただ、たまたま眠たくなっちまっただけだ。それ以外には何もない。

 何も、ないんだ。

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