ブルージャスティスここにありってな
男は細く、長い息を吐き出し始めた。
決めた覚悟/固めた決意。
確かめるように/一歩踏み出す。
噛み締めるように/力を込める。
この腕に宿るは力/この背が示すは志。
敵を打ち斃す剣はない/己が身を守る鎧はない。
唯一つ。男の武器は右拳。それ以外には何もなく、自分の信じる正義だけを武器とする。
「なっ、て、てめえ何者だ?」
怪人。
悪。影。
つまるところ正義の敵。男の標的。
「てめえこら、止まれってんだよ」
怪人は、この国の光である、ヒーローに対して恐れを抱く。
男は――――ヒーローは足を止めないままで口を開いた。
「見えねえか」
ヒーローは自分の背中を軽く叩き、気楽そうに笑む。
「何がだっ、何も見えねえってんだよ!」
「俺の名前だ。ブルージャスティスここにありってな」
「お、お前……!? お前が『あの』ブルージャスティス……!?」
そうだ。
そうだとヒーローは応えた。
「いっ、げ!?」
次の瞬間、怪人の目の前にはヒーローの拳が迫っており、それを躱す手段などこの世のどこにも存在しない……。
「こいつっ、めちゃおせえ! 余裕で避けられんぞ!」
「避けんじゃねえよボケ!」
……とは限らない。
絶対。不変。百パーセント。そのようなものこそ、この世のどこにも存在しないのかもしれないのだ。