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ヒーローは俺なんだ

「もうっ、何やってんのさ! 早く起きてよお兄さんってば!」

「ぐえ!?」

 腹に何かがのしかかる。目を開けると、レンが布団の上でじたばたとしていた。

「何事だっ、敵襲か!」

「違うよ」と、冷めた視線と声が降り注ぐ。顔を上げると、いなせがケータイを差し出してきた。見ると、着信である。社長からだった。

 いなせはレンを引き剥がし、やれやれと言った風に息を吐き出す。

「もう昼を回ってるんだよ、マサヨシ。怪我だって治ったんだし、あんまりぐうたらするのは良くない」

 仕事か。……はあ、仕事かあ。だりいなあ。いやだなあ。

「俺が行かなくてもさあ、他のやつがどうにかしてるんじゃねえのかな」

「働かざるもの食うべからずだよ。さ、準備しな。あたしらはもう朝食だって済ませてるんだ」

「準備万端! お兄さん、お兄さんってば早くー」

 うるせえなあ、もう。



 社長に呼び出されたのは、オフィス街の一画であった。

「九重を迎えによこしてくれたってよかったのによう」

 お陰で、お守しながらの道中になっちまった。……と、そんな悠長なことを言ってられんのは今だけだった。

「うわー、なんか、すごいことになってるね」

 と、レンがにこやかに言う。確かに、すげえことになっていた。

「ヒャッホー! 見たかあハリマ一家と師匠の合作、超究極デストロイメカを! こいつでボクらの力を見せつけてやるんだ!」

 ブリキのロボットみたいなでかぶつがビルをぶっ壊そうとしていた。またあいつか。

 そのロボットの足を、

「くたばれや!」

「大きいだけだな」

 カラーズの新入社員たちが頑張って壊そうとしていた。ふむふむ、頑張りたまえ後輩たちよ。

「あっ、青井さん! は、早く来てください!」

 見守っていると、タクシーの近くにいた九重に見つけられてしまった。俺はレンといなせに引っ張られ、仕方なく歩いていく。

「赤丸と黒武者がいるんだから、俺はいらねえじゃんかよ」

「……そ、それが」

 ぬっと、タクシーの後部座席から社長が現れる。眉間にしわが寄っていた。どうやらとても怒っていらっしゃるみたいだ。

「遅い。お給料から天引きよ」

「何が起こってんだ?」

 ひゃっはーと、ハリマ茜が楽しそうに叫んでいる。

「ハリマ一家が出たのよ。あの人たち、最近は手が込んできてるわね」

 まあ、爺さんがバックについているからな。技術力が無駄に上がっているんだろう。

「それだけなら、あの二人でどうにかなるだろ」

 赤丸と黒武者はカラーズのエースだ。物を壊すことにかけては天下一品で、右に出る者はいない。

「それだけなら、ね。実は」

 社長が何か言いかけた時、前方から爆音が聞こえた。爆発が見えた。



 前方で騒ぎを起こしているのは、武器密売組織のショット団であった。そいつらは今、センチネル警備保障の連中と戦っているらしい。

 社長はその様子を見遣り、指でこめかみを押さえた。

「灰空さんのところにはイダテン丸と牡丹さんを派遣したのだけれど、中々にしつこいのよ」

 三か月前、縹野ことイダテン丸も赤丸たちと時期を同じくしてカラーズに入社していた。また、百鬼さんはパートタイマーという扱いでカラーズにいる。二人とも、そつがなく、安定した成績を収めていた。

「でも、それだけならあの二人だけで」

「それだけならね」

「……?」

 その時、ビルの中から集団が飛び出してきた。黒ずくめの戦闘員スーツが十二人。それから、

「さあ、この混乱に乗じて逃げるんだ! って、エスメラルド様!?」

「ああっ、おーい! アオイー! アオイー!」

 エスメラルド様と、江戸さんたち数字付き部隊が。なるほど、そういうことか。

「アオイ! いつまでそんなところでヒーローなんかやってるんだ! 早く私のところに戻ってこい!」

「え、ええと……」

 ぶんぶんと、エスメラルド様が手を振っていらっしゃる。

「戻りたいの?」

 社長に睨まれて、俺は額から冷や汗を流した。

 ……俺の元いた組織は、改革というか、変わったらしい。ペガサス・ブレイドが無茶苦茶に引っ掻き回したお陰で、人間関係だったり、部隊だったり、色々なものがぼろぼろになっていた。が、新たな四天王が生まれた。エスメラルド様。グロシュラ。クンツァイト。そしてコルネなんとかである。今はちっちゃくなってしまったが、元通りにして大きくするために頑張っているらしい(と、エスメラルド様から聞いた)。まあ、元の鞘に納まったって感じはするけどな。

「俺に、あの人らをどうにかしろってか?」

「それもあるけど」

「まだあんのかよ!?」

 いったい、次は何が来るってんだ。

「円盤が落ちたせいで穴が空いたでしょう? そこから、ウゴロモチの残党だとか。あと、ヤテベオの生き残りだとか。ミストルティンっていうヒーロー派遣会社が悪の組織に回ったり、イダテン丸を追ってた軒猿が動き出したり、黒武者と因縁のあるアタ教の信者とか、ブラックドラゴンや、自警団気取りの紅葉一族なんかが次々、続々と」

 全部盛りじゃねえか! なんでだよ!

「いいよ、もう。この際全部どうにかするさ」

「あ、あと、地球外生命体からの交信が。『チキュウ ヲ ウバウ』ですって」

「まだあんの!? いい加減にしとけよ!」

 好き勝手に暴れ回る連中を認め、俺は右の拳を強く握り締めた。

「くそう、いつまで経っても終わらねえなあ」

「後悔してる?」

 問われ、俺は首を横に振る。

 相も変わらず右腕のグローブだけでヒーローをやってるが、充分だ。俺は、俺の正義を貫く為ならこれでいい。

「いいや、してねえさ」

「ならいいの」

 社長が微笑み、俺の背中を撫でた。そこにはかつて、正義と書かれたスーツがあった。今はもうない。だけど、その二文字の信念はここにある。

「いってらっしゃい、ブルージャスティス」

「おう、行ってくる」

 俺は右腕を掲げ、歩き出した。



 ヒーローって何だ?

 どうやったらヒーローになれるんだ?

 そう聞いてきたやつに面と向かって、胸を張って答えることは難しい。

 けど、言うんだ。そんなの知らねえけど、俺はヒーローなんだって。俺が認めてやったんだから、そうに違いないって。

 正義も悪も、どこのどいつが、どっちが正しいのかなんて、まあ、大抵の場合は誰かに決められるもんじゃない。だから自分を信じてやりゃあいい。

「俺はヒーローだ。ヒーローは俺なんだ」

 そう思って、言い切って、自分にとって正しいことをすればいい。時には、マジで間違ったことをしでかすかもしれない。けど、この街には他にも正義を掲げるやつがいる。何かあれば、そいつらに任せばいいんだ。それまでは、自分自身の正義を掲げて戦えばいい。悪と正義を中途半端に行き来して、馬鹿みたいに足掻いて掴んだ答えだ。それが俺の正義だ。だから、笑いたいやつは笑えばいい。


 

「おっ、来たぞ青井だ! カモだ!」

「ぎゃははは、カモネギだ!」

「誰がカモだっ! てめえからぶちのめすぞ!」

 この街の平和と、あと、自分たちの生活を守る為、俺の正義(ブルージャスティス)は今日もここにある。しがみついて、残り続けてやる。

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