38. 音楽
ある日、俺は劇を見に行くことになった。
リリからの誘いではなく、単に俺が行きたかったんだ。
次は超級クエストを受ける予定だから、体を完全に回復させる必要があり、それにはある程度の日数、休む必要がある。
そして、休むのは暇なんだ。
やる事がない。
魔力操作や筋トレは日々しているが、それも長くやるものではない。
そんなとき、劇がここ、シドで行われている事を知った。リリの情報だけど。
そのため、いや別に誰からの情報でもだが、リリと
一緒に行く予定だ。
誘った時、リリは凄く喜んでいた。
俺はもう、リリは家から逃げないと思っている。
「速く行きましょう!レオ様!」
「おう、そうだな。」
お金はまだあるが、心配にはなってくるな。
なんせ、収入がないからな。
超級クエストを達成したら、しばらくは大丈夫だと思うが。
お金の出費で一番高いのは水だ。
お風呂とか毎日入ってしまうからな。
リリの火属性魔法は上達している。
いや、火属性魔法というより、魔力調整だな。
お風呂をいい温度で作れるようになった。
素早く作れるようになった。
ただ、魔法は基本的なものしか出来ないらしい。
やはり剣士向きなんだな。
「ここらへんか、もう結構人がいるな。」
「そうですね。早く座ってしまいましょう。」
ここはいわゆる貴族ゾーンだ。
だが、貴族じゃなさそうな人も多い。
まあ、そういう変装をしている可能性もあるけどな。
人気なのは確かだ。
これが面白いと思ったら俺の価値観は大衆と同じだと分かる。
最悪、リリが喜んでいればいい。
舞台に光がついた。
舞台と客席には太陽の光を大きな布で隠しており、少しだけ暗くなっていた。
この光は光属性魔法だよな。
魔道具か?
光属性魔法使いは珍しいはずだ。
光属性の魔道具は珍しくないのか?
そう言えば、魔道具が売っている所に行ったことないな。
行ってみたい。
光がついただけで劇は始まらない。
調整でもしているのだろうか。
「楽しみですね!レオ様!」
「ああ、初めてだしな。」
リリはずっと楽しそうだな。
疲れないのだろうか。
俺は常に元気だと疲れてしまう。
戦いの時だけ凄い元気になるんだ。
ただ唯一、俺のドーテルちゃんだけは別行動だけどな。
「おっ!レオじゃねえか!」
ん?
あっ。ロイがいる。
見に来ていたのか。やはり人気だな。
舞台には色々なお店のロゴが書かれた木の板が立てられていた。
舞台の雰囲気は壊されないのだろうか。
何の劇をやるのか知らないけど。
「やあロイ。楽しみだな。」
「そうだな...お前、女なんか連れて何盛ってんだよ。
ガキのくせに。」
「はは、これはメイドさんだよ。リリって言って、家事とかをしてくれるんだ。そんな感じで日々、助けてもらってるから劇に誘ったんだ。つまり何が言いたいのかと言うと、俺は盛ってない。」
「こんにちは、ロイさん!劇は初めてなのでワクワクしますね!」
「あ、ああ。そう...だな。」
そう言いながらロイは少し離れた席に座った。
まあ、明確な席はないけど。
ロゴが書かれた板が回収された。
そして、光が少し強くなった。
「ここが魔物の住処だな!お前達!行くぞ!」
「「「おー!!」」」
劇が始まった。
勇者パーティーが悪戦苦闘しながらも魔物と戦う。
「俺は、負けない!!」
「ファイアースマッシュ!!!」
「一線流、奥義!天地一線!!!」
勇者パーティーは5人で、勇者、回復役、火属性魔法使い、剣士、剣士だ。
戦いは俺からしたら隙だらけの少し不思議な戦い方だった。
だが、ダイナミックに動いていて、見栄えが良かった。
ダイナミックな動きはカッコよく見せるためだと思うが、小さい攻防戦にこそ戦いのカッコよさがあると思うんだよな。
そんな事を思って、心の中では下に見ているはずなのだが、俺の心は高揚していた。
その原因は音楽だ。
たくさんの楽器と呼ばれるもので、演奏している。
その場面にあった曲を演奏していて、その迫力が俺の心に刺さったんだ。
かっこよくないのに、かっこよく感じてしまう!
舞台は大詰め、遂に勇者パーティーは魔王と戦う事になった。
「お前のせいで!人々がどれだけ死んだと思っている!」
「ぐははは!!お前も殺してくれるわ!!」
戦闘が始まった。
魔王は大剣を振り回し、魔法を放った。
魔法は放つ時に手を光らせ、その後に当たった所を光らせて表現していた。
火属性魔法使いの魔法は本当に打っていたけど。
魔王が勇者パーティー全員を動けなくした。
魔法らしい。そんな魔法あるのか?
「お前らは全員、ピクリとも動けなくなった。一人ずつなぶり殺してやる!」
「お...おのれ!魔王!!」
「まずはこの回復させる奴を殺してやる。」
「きゃー!!」
お前ら...ピクリとも動かないんじゃないのか?
凄い流暢に口を動かしているけど。
「やめろーー!!!」
動けないはずの勇者が立ち上がった。
「何!?馬鹿な!!」
「お前が殺した人々の思いが、俺に力を貸してくれた!!」
「ふざけるなー!!!」
「はぁ!!!」
シャキン!!
「ぐはっ!」
魔王と勇者がお互いに腹を刺した。
「お...おのれ。」
バタンッ
「はあ、はあ、はあ、」
「勇者様!!」
「俺はどうやら、みんなの所へ行かねばならないようだ。お前らは俺の分も...元気に..生きて..」
「勇者様ー!!!」
「なんでだよ〜!!!」
世界は平和になった。
みんなはその展開に感動し、泣いていた。
俺はこの物語に感動はしていなかった。
ただ、勇者が死ぬ時の音楽に感動して少しだけ、泣いてしまった。
いい、音楽だ。言葉はないのに心に感情が伝わってくる。いや、俺がそう解釈しているだけだが、何かを感じてしまう。
舞台は終わり、またロゴの書かれた板を持ってきて立てていた。
「面白かったですね。勇者さんは死んでしまって悲しかったです。レオ様、連れてきてくれてありがとうございます。」
「ああ、日々のお礼だ。」
「おいレオ、舞台はどうだった?俺はなんかな〜...人が死ぬのは見てるから、こんな感じじゃないなって思ってしまった。」
「俺は音楽に感動していたぞ。」
「あはっ!音楽にか!そうか、じゃあ俺の友達と気が合うかもな。劇は見ていると思うが...人が多くて分かんねえや。ギルドで紹介するわ、じゃあな!」
「おう!」
まあ、そうだよな。あんな大剣が刺さったら話すことなんて出来ないよな。
「レオ様は面白くなかったんですか?」
「いや?面白かったぞ。特に音楽が良かったってことだ。」
うん。面白かった。面白かったんだ。




