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15. 出航


「リンゴはいらないかな〜?」

朝から大声で叫ばせてもらう。

なんせここはアットホームでアウェイな場所だからな。 


「珍しくて、おいし...面白い味だよ〜!」


早朝、店長にリンゴの状況を確認したら何と!

海水をあげてないリンゴもあると聞き、すぐに収穫した。いや〜良かった良かった。

何で海水をあげたやつの味見をしなかったのか謎だがまあいい、今となってはそれも楽しい思い出の1つよ。


「すみません。リンゴ1つくださいな。」

「あっ、俺にも!」

「俺も!」


「はい!1個で鉄貨1枚だよ。」


人がまあまあ来る理由も早朝にある。

アルシアが俺から離れて海面を覗き込んで何かやっているのを見つけた。

何をしているのか尋ねると、笑顔の練習とだけ返ってきた。つまり!アルシアは今、笑顔で呼び込みをしている訳だ!これは売れるかもな。


「店長!表に出したリンゴがなくなりそうだ。裏から取ってきてくれ。」


まあ、裏と言ってもテントの裏の布で覆ってあるリンゴの箱を少し移動させるだけなんだけどな。


「何だお前、この野郎。舐めてるのか馬鹿野郎!」


「......テントの裏にあるぞ。」

店長は静かに取りに行った。


店長は色々とおかしい。おかしいっていうか、イカれてる。今日も初めての客を睨みつけていて、くしゃみをした。そして、くしゃみによって飛んだ唾がリンゴに触れた時、相手に殴りかかったんだ。

店長の唾がついたんだ。客の唾ではない。

必死になって止めたが客はビビり散らかしていて逃げてしまった。


こう言った客に殴りかかる事件がこの店ではよく起こるので、止めるのに慣れてしまった。

唾事件の時はあまりに突然過ぎて必死になったが、それ以外では華麗に止めに入れる。

つまり、俺の魔力操作や身体強化の発動時間が速くなったということだ。...特訓にはりんご屋も悪くない。


「今日もお疲れ様、今日は繁盛したからな。ほいっ!

今日の分のお金だ。受け取りな。」


う〜ん、これだけか...

「なんかいつも少なくねえか。店長さんよ〜。」

リンゴをちゃんとしたのにしてから前よりは売れるようになったが、貰えるお金がほとんど変わっていない。

リンゴはまだ、そこまでちゃんとしてないけどね。


だって、たかが鉄貨4枚だぞ!?2人合わせて。

実は店長の頭っていいんじゃないだろうか。

俺達はまんまと店長の口車に乗せられているのかも知れない。


そんな訳ないか...まず、果物屋じゃないてリンゴ屋にした時点で天然な人だと言うことが分かる。


だが、いつまでも呑気な気分でいたら、ルベリア王国に行けるのは随分と先の話になってしまう。

アルシアに止められたが、回復薬を売ろうかな。

どこで売却すればいいのかすら知らないが。

安く買い取られそうな気がしてならないな。


アルシアは今でも楽しく働いている。

あいつはルベリア王国に帰りたくないのだろうか。

俺の方が行きたがっているぞ。

呼び込みなんて、全然楽しくないだろうに。


「アルシア!もう店仕舞いだ。」


「はい!」


「アルシアって今、いくら持ってるんだ?」


「鉄貨7枚ですね。」


あれ?俺が今、鉄貨5枚持っているから...鉄貨12枚か、もうすぐだな。

意外と順調にお金は貯まっているみたいだ。

いや、違うぞ!?鉄貨10枚で銅貨1枚になるんだ。

そして、銅貨10枚でやっと銀貨1枚になるはずだ。

全然足りないじゃないか。


俺達は一回も宿に泊まっていない。野宿だけだ。

そして、今日もあの木の下に行こうとしていた。


「お前の店の人に殴りかかられたと通報が入った。」


声のする方を見てみると店長がこの国の兵士と話をしていた。

今度は何をやったんだ、店長。勘弁してくれ。


「殴る?下手な事言うんじゃないよ。俺がそいつに殴られたんだ。」


「嘘をつくな!通報に来た人はヒョロヒョロの男だったぞ。」


まあ〜、店長はムキムキだもんな。無理があるよ。

どうしよう...相手の主張が真実だから助けようがないぞ。


「日々の積み重ねですね。」


アルシアも諦めている。毎日なんじゃないか?客に殴ろうとするの。


「いや違う!俺は殴ってない。忘れ物を届けにだな、」


「助けを求める声が何件も来ているんだぞ!?」


じゃあ、始めの通報が来たときからこっちに調査しに来いよ。

ある程度、泳がせてから問い詰めたんじゃ可哀想じゃないか?


「みんな俺の図体を偏見の目で見過ぎなんだよっ!

ちくしょう!!暴力が無くなればいいって毎日願ってるよ!!親が暴力で死んでから、暴力を見るのだって凄い嫌なのに、ずっと我慢して生活してるんだぞ!」


「すまない。赤い帽子を被った若い男が、殴られそうになったと主張していたからな。悪かった。」


「なに?...赤い帽子でヒョロヒョロの若い男...あいつか!あのクソ野郎!!ぶっ殺してやる!!」


「何!?今何と言った!!やはりお前が殴ろうとしたのだな!?」


「おう、そうだよ!で?だから何だよ馬鹿野郎!俺が殴りかかったんだよ!ぜ〜んぶ。ぜ〜んぶ俺がやってやったんだよ、マヌケな客になぁー!!!」


まずいっ!途中、店長が兵士を言いくるめられそうだったから安心して眺めていたら酷い事になってしまった。これはもう...助けられないな。


その後、店長は兵士に連れてかれていた。

店長が暴れ出したもんだから兵士は結局、4人がかりで店長を大人しくさせていた。


俺とアルシアはというと、これからの生活とか色々な事が頭をよぎってきて、ただ呆然としていた。


「どうしようか、働ける場所があるかどうか...」


「きっと働ける場所があるはずです。もうちょっとの辛抱です。」

アルシアは意外と元気だな。

まあ、悲しんでる風を装ってはいるが俺も元気ではある。でもこれは助けてくれた店長に失礼だよな。

それにしても、銀貨2枚か...


「アルシア、この回復薬を売らないか?」


「それは...」


「見つけたわ!!あなたよね?りんご屋にいた子供。」


何だ!?

そこには主人がリンゴを食べて倒れた時に隣にいた女の人がいた。

何だ...俺は何もしてないぞ?やめてくれよ、でまかせは。


「そうだよ?なんだ?」

足に魔力を集中させておく。

「ムキムキな人が殴ってくるのを止めて、私の命を救ってくれたわよね〜?感謝の気持ちとして、これっ!あげるわ。今は主人も元気よ。ありがとうー!」


「こちらこそ、感謝する。」

うお!

握らされた手の中を見てみたらびっくり!

そこには、金貨が1枚あった。


「アルシア!ルベリア王国に行けるぞ!」


「...良かったです。」


結果的に、店長に恩を仇で返すような真似をしてしまった気がする。

この金貨だって、店長のおかげで貰えたようなものだしな。


こうして、俺達は船に乗れる資金を手に入れた。

もうすぐだな、ルベリア王国。






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