「江戸って、変人多いっすね」
相も変わらず江戸言葉、時代背景めちゃくちゃです。半分ぐらい想像で書いてるので、半分ぐらい想像で楽しんでいただけたらこれ幸い。
「ここが・・・江戸」
たかてぃーは、思わず目を丸くした。
———東海道を数日掛けて歩き、江戸の入り口である、高輪大木戸をくぐる。
たかてぃーとハムさんは、まさに日本橋のど真ん中に立って、ぐるっと辺りを見回していた。
日本橋に立っているだけでも、押しつぶされそうなほどに人が多い。足下の船に乗った男たちの威勢の良い声が響き、橋の先には、道の両側に広がる店々から人が盛んに出入りしている。ハムさんのような旅人や、商人、子供までもが大勢行き来し、老若男女問わず活気にあふれる将軍のお膝元。目の前に広がる光景は、まさに江戸を象徴とさせる圧巻の景色だった。
人の多さに目を白黒させているたかてぃーと「うま」に、ハムさんは声をかけた。
「やっぱ江戸はこうでなくっちゃな!嬢ちゃん、『うま』、ついて来な。俺の仲間を紹介してやるぜ!」
「・・・えあ、はい!」
「ううぃ」
すたすたと人ごみに消えていくハムさんを、一生懸命追いかけるたかてぃーと「うま」。
しかし、たかてぃーもそこまで足が速い訳ではなく、「うま」に至ってはたかてぃーのキャリーケースを抱えている状態だ。ドンっと誰かにぶつかり、そのまま「うま」の手からキャリーケースが滑り落ちてしまう。たかてぃーは後ろを振り向いて「うま」を助け起こした。
「ハムさん、ちょい待ってくださ・・・」
うん、もうお分かり。
「・・・ハムさんおらんやん」
たかてぃーと「うま」は、迷子になった。
※ ※ ※
「やっぱモンゴルは広いねぇ」
「うぃうぃ」
時は過ぎ、たかてぃーと「うま」は東京湾の岸辺で黄昏ていた。
ハムさんを探して三千里、ハムさんは漁師をしていると聞いていたからとりあえず海に来てみたものの、まっじでどこにもいない。
6月の日本は湿気が多く、どことなく空気が湿っぽい。磯の匂いに混ざって、重い海風がたかてぃーの頬を撫でる。
「『うま』、私お腹すいたよ。ハムさんは『江戸前寿司』なるものがおすすめって言ってたし、とりあえずそれ食べようか」
「うぃー・・・」
さて、店を探そう。たかてぃーが元の道を戻ろうとした、その瞬間・・・
「た、たたた助けて下さーーーーーい!だれかーーーーー!!Tulong!!!」
少し遠い岸辺の方から、少女の叫び声が聞こえた。
「な、なんやねん」
「うぃうぃうぃ!?」
慌てて見てみると、簡素な服に竹かごを背負った少女が、叫び散らかしていた。しかし、周囲には生憎誰もおらず、叫び声は虚しく湾に響き渡る。
「助けて下さーーーーーい!!だれか!!お力添えを!!マジTulungan niyo po ako!!」
シーーーーーン。
「———おい、誰も来ねぇじゃねぇかよ!!どうするんだよこれ!!!」
ついに一人でキレ出したので、たかてぃーは少女に応答をした。
「おーいそこの少女――!聞こえますーー?」
「!?ぅえ、あ!人いた!人いた!!」
「我が名はたかてぃー!こっちは相棒の、『うま』。モンゴル一周目指してます。どうかしましたかーー??」
「え、何て言ったんですか!?」
聞こえなかったようだ。
「我が名はたかてぃー!こtt」「そこはもういいわ!!」
少女は、こっちに向かって叫んだ。
「人が溺れてるんですよ!とにかく早く来て、手伝ってください!!」
「なんやて!?」
よく見れば、確かに少女のいる少し先の海中に、人間らしき物体がぷかぷかと浮いている。
「やばいやんけ」
たかてぃーは走り出そうとした。と、丁度同時に、「あーーーーー!!!」と今度は後ろから叫び声を上げられた。
「見つけたぞ!異国の嬢ちゃん、探してたんだよ!!」
「うおハムさん!ナイスタイミング!!」
なんと、ハムさんが駆け寄ってきた。しかも、その後ろには腕力ありそうな漁師仲間二人を連れてきている。
「ハムさん!そこ!人が溺れてるらしいんす!!」
「なんだってんだ!?」
「ほらそこ!!」
少女が両手を振っているので、すぐにハムさんたちも場所が分かったようだ。
「よおし、お前ら、行くぞい!」
『おう!!』
男三人衆は遠くの岸辺まで走り、あっという間に溺れている人を救出する。
少し遅れてたかてぃーが着くと、その人は既に引き上げられ、砂浜に寝かせられていた。
「少女!」
「あ、たかてぃーさん」
「その人大丈夫そうっすか?生きてます?」
「あぁ・・それなんですけどねぇ・・・」
少女は救出された人に目を向ける。たかてぃーも同じようにして、一瞬目を疑った。
救出された人は、おそらく男。ひょろりとした長身に、浅黒い肌。赤基準のタータンチェックの布を身体に巻き、耳や手首にじゃらじゃらとアクセサリーを付けていた。有無を言わせぬ異国感に、見ている5人は押し黙るしかない。右手にしっかりと握りしめられた細い槍と、スクエア型の太縁の眼鏡が、何とも言えぬ雰囲気を醸し出している。
「・・・誰やこいつ」
たかてぃーは呟いた。呟いたところで、誰も知らないだろうが。
「・・・異国人さんだな」
ハムさんも呟く。「嬢ちゃんとは、ちと違うな」
「違うでしょうね」たかてぃーは返答した。「モンゴルはこんな民族いません。そもそも、アジア系の顔立ちじゃないすね。東アフリカらへんじゃないすか」
「へぇー、たかてぃーさんはモンゴルの人なんだ」
少女が納得、と言うように頷いた。
「?何言ってるんすか?ここもモンゴルっしょ。江戸はモンゴルの関所なんすよ」
「は?」
少女は、一瞬思考が停止した様だが、ハムさんに「それ以上は無駄だ」というように肩をすくめられ、大体の事情を察した。
「———で、どうするんすか?この人」
改めて、たかてぃーはハムさんに聞く。
「どうにもならねえな・・・とにかく目ぇ覚ましてもらわねえと、何も始まらねえ」
「・・・医者連れてきます?自分でいいなら、連れてきますけど」
少女は、心配そうに男の顔を覗き込んだ。
たかてぃーは、自分の横で男をじっと見ている「うま」に話しかける。
「『うま』、どうしたらいいと思う?」
「うぃうぃうぃ」
「え?」
「うま」は男の口元を指す。「うま」の意図が掴めず5人一斉に男の口元に注目すると、微動があった後、男の口から大量の水が吐き出された。
「ごぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼ・・・・・・」
「うわぁ!!」「大丈夫かこれ?」「水だ!全部吐き出させるんだ!」
男三人衆が急いで男の胸部を押す。一通り水を吐き終えると、男の唇が震え始めた。
「ハムさん!この人なんか言ってるっす!」
「待て!今しゃべってる口元、見りゃ分かるかもしれねえ!」
ハムさんが男に近寄り、頷きながら唇の動きを辿る。
「・・・・・・れた」
やがて、男の弱弱しい声が聞こえてきた。
「・・・なんやて?」
「かふぇ・・・・・・・・れた」
一同が、男の周りにしゃがみ込んで言葉を待つ。
間も無く、男はカッッッと両眼を見開いた。
「カフェイン、切れた」
『・・・は?』




