表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

「江戸って、モンゴルの関所なんすね」

江戸言葉、時代設定……めちゃくちゃです。雰囲気で楽しんで下さるとこれ幸い。


「……ここどこやねん」


プシューと船から煙が上がる。轟轟(ごうごう)と船体を揺らす黒船から降りると、見たことのない衣服を身にまとった見物人が、大勢いた。


———あれ、行き先間違えたっけ?


たかてぃーは、手持ちの袋から地図を取り出す。地図をくるくると回しながら、しばらく凝視した。そして、満足げに頷く。


「いや、あってる。ここはモンゴルだ」


こうして、たかてぃーは日本に来た。



———時は嘉永(かえい)六年、江戸時代末期。マシュー・ペリー率いる黒船来航。

たかてぃーは、見物人を避けながら、人々の波に沿って歩き始めた。


「『うま 』、はぐれないようにね」

「うぃ」


相棒である、「うま」。モンゴル一周をともに目指す仲間である。

うまは全身黄色くて、瞳がつぶらで鼻が長い。普段は二足歩行をしている「うま」は、砂利道にガタガタと音を立てるたかてぃーのキャリーケースを、よいしょと持ち上げた。


たかてぃーはきょろきょろと辺りを見回す。


どこを見ても、襟を胸前で交差させるように閉じて着る衣服の人々ばかりだ。男性と思わしき人々は、頭の上で変な毛のまとめ方をしている。モンゴルには、こんな民族もいたんだなぁと、たかてぃーは感心した。

「おおい、そこの嬢ちゃん!」

不意に話しかけられ、たかてぃーと「うま」は後ろを振り向く。旅人だろうか。薄い皿のような大ぶりな被り物をしたおっちゃんが、二人に駆け寄ってきた。


「すげぇじゃねえかよ! 見ただろ、あの船! 嬢ちゃんらも、あれに乗って来たのかい?」

おっちゃんは、興奮気味にまくし立てた。

「そうすね」

「へえ、じゃあおめぇ、異国っ子か。どこへ行くってんだい?」

「……モンゴルを一周しようと思って」

「もんごる?」

「はい」


微妙に気まずい沈黙が走る。たかてぃーは、おっちゃんに手持ちの地図を見せた。


「とりあえずこっちの方角に行きたいんですけど、どこの道を行けばいいですか?」

「見せてみろい」

おっちゃんは、地図をくるくると回しながら首を傾げた。

「異国の地図は、どうにもわかりゃしねえな」

———それもそのはず、たかてぃーの持っている地図はモンゴルの地図であって、日本の地図ではない。


「嬢ちゃん、とりあえず江戸へ出てみねえかい?」

「江戸?」

おっちゃんは、大きく頷いた。

「おう、そうだな。俺ぁ今ちょうど江戸へ向かってるところよ。この道を辿って東海道を行きゃ、じきに着くって話だ。江戸は日の本いちの大町だ。異国の地図くれぇ、読めるやつもいるんじゃねえか?」

「へぇ…」


たかてぃーはしばし考えた。

江戸。聞いたことのない地名だが、いいかもしれない。しかも聞く限りモンゴルの中心らしいじゃないか。このまま地図の方角を読み間違えて、異国にでも行ってしまえば本末転倒だ。


一旦モンゴルの関所、「江戸」に寄って、ちゃんと有識者に方角を教えてもらおう。


「———おっちゃん、私、江戸行きます」

「おう、そうかい!」

おっちゃんは気前よく笑い、紐に吊るした荷物を肩に担ぎ直した。

「じゃあ、俺と一緒に行きな。行く先も同じだ。さっさと江戸へ出ようじゃねえか」

「はい! ほら、行くよ、『うま』」

「うぃ」


そんなこんなで、たかてぃーは江戸に行くことになった。




さて、たかてぃーと「うま」である。


たかてぃー。彼女は、モンゴル一周を夢見て旅をしている、ソロ遊牧民の女の子。丸型のメガネがアイデンティティで、彼女と出会った人々は、だいたいメガネだった印象しか残らないほど、メガネである。

そして、「うま」。うまである。


彼女らは日本をモンゴル内だと思っているようだが、まぁお気づきの通り方向音痴である。

地図なんか読めたもんじゃなく、たかてぃーは東西南北を全て逆に覚えていたようだ。

モンゴル一周するはずが、なぜか上海(シャンハイ)に来ていた彼女らは、停泊していた黒船に無賃乗船し、あれよあれよと日本の浦賀まで来てしまった。

しかし彼女らは、環境に溶け込む才能だけはあったらしい。黒船に無賃乗船したくせに皆に好かれ、そして誰もその存在を怪しみすらしなかった。無論、彼女らの知る由もないことだが、黒船の乗船者たちからは、「ああ、なんかメガネと『うま』がいたなぁ」としか思われていない。




「———おっちゃんは、なんで江戸に行くんすか?」

ふと気になって、たかてぃーは聞いてみた。


「ああ、俺か? 俺は江戸湾で船頭やってるんだ。んで、讃岐の金刀比羅宮(ことひらぐう)金毘羅詣で(こんぴらまいり)に行ってたってわけさ。あそこは海の神で、航海の守り神だってんだから、皆も信仰してんだよ」

「あ、もともと江戸の人なんすね」

「おう! 俺は江戸生まれ、江戸育ちの江戸っ子だい!」


おっちゃんは、嬉々として話し始める。

「江戸ってのはいいとこだぜ。活気があって、まさに日本の中心よ! 歌舞伎や相撲を見りゃ面白えし、何より飯が旨いんだ。そばに天ぷら、でも一番は江戸前寿司(えどまえずし)だな。俺らが捌いた新鮮な魚を使ってるから、ほんとに旨えんだぜ! 嬢ちゃんも、江戸に着いたらぜひ食ってみな!」

「へぇ、いいっすねぇ」

「そんでよ…」

おっちゃんは懐から筆と半紙を取り出して、何か書き始めた。


「俺の名は公之助(こうのすけ)よ。みんなぁ、普段は『(こう)さん』って呼んでるんだ」

「そうっすか。ハムさん」

「公さんじゃあほ」

たかてぃーは、手渡された半紙にでかでかと自分の名前も書いた。

「私はたかてぃーです。こっちは相棒の『うま』 。モンゴル一周目指してます。よろしくお願いします」

「うぃうぃ」

「おう、よろしくだな!」


そして、そんなこんなで江戸に着いたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ