50円玉20枚の謎
今日もだ。これで3日連続。謎の中年男が両替だけして帰るのは。
「ねえ、瑞希。あの男、酷くない? いきなり『1000円札を50円玉20枚に替えてくれ』なんて」
アルバイト仲間の咲に聞かれた瑞稀は頷いた。
瑞稀はこれとよく似た話を知っていた。確か、ミステリー小説に『50円玉20枚の謎』という本があった。
あれは今回とは逆で、50円玉20枚を1000円札に替える話だったけど。
その話を咲にすると、「50円玉貯金でもしてるのかしら」と言ったが、それでは結局意味がない気がする。
500円玉貯金とも性質が違う。あれは地道にコツコツと貯めるものだ。「塵も積もれば山となる」だ。
両替の謎が起きてから数日後だった。都内で物騒な殺人事件が起きたのは。噂によると「夫婦喧嘩で夫が妻を殺した可能性が大きい」という内容だった。しかし、凶器が見つからない。
男に異変が起きたのは、しばらくしてからだった。今度は50円玉20枚を1000円札に両替しに来たのだ。まったく逆の行為だ。
「あの男、何が目的なんだろう」
咲の質問に対する答えを瑞稀は持ち合わせていない。確かなのは、男の謎が深まった、それだけだ。
謎の男に1000円札を渡し始めてから数日後。瑞稀はあることに気がついた。受け取った50円玉の縁に赤黒いものが付いていることに気づいたのは。
瑞稀はあるミステリーのトリックを思い出した。小銭を袋に詰めて、殴って殺す。いわゆる「ブラックジャック」というやつだ。もし、この50円玉が例の殺人事件の凶器だったとしたら。瑞稀たちは何も知らないうちに、男の共犯になったようなものだ。瑞稀の50円玉を見る目が変わった。
その日を境に謎の男は現れなくなった。真相は分からない。50円玉凶器説は瑞稀の想像に過ぎない。だが、その日から瑞稀は怖くなった。50円玉を見るのが。




