第7話 1000年に渡る研究 1000 years of research
学園都市スカラル 邸宅
セルベスさんが紙の束を広げる。
「――これは。」
ソルティさんの顔から血の気が引いていく。
「我ら星ノ獣の1000年に渡る研究成果だ。
名を無崩永天計画<ヱテルニタス>」
「約1000年前に不老不死を目指した錬金術師の集団があったと効いたけれど。」
「我が先祖が始めたことでな。先月完成した。
単刀直入に言う。
貴様のかつての親友カタリナを蘇らせることになる。」
「!?
―――どういうこと?
カタリナは5年前に病死したはず。」
「だがその遺体は我等の研究のため提供された。
夫には恵まれなかったようだな。
我等に金で買い取れと言い渡してきた。
我等と合意した一部の貴族の遺体は全てこの研究に用いられている。」
「でも、それがどうしてカタリナを生き返らせることに」
「概要だけをかいつまんで説明しよう。
我等 星ノ獣は1000年前から転生者によって狩られることが時々あった。
星ノ獣は生殖能力が極端に低く、100年に1度子を生むか生まないかだ。
下手をすれば我等の因子がとだえる可能性もあった。
そのため天敵となりうる転生者に対抗できるこの世界最強の魔術師を育成するために錬金術師の集団を作った。
だが月日は流れ、世界最強の魔術師達も歳をとり死んだ。
その息子、娘共はとんだ出来損ないでな、後継者がいなかった。
世界最強の魔術師はその全員が突然変異の人間であり、その遺伝子を持ったとしても発現する確率はほぼないと言っていい。
そして考えたのが、世界最強の魔術師を人の手で確実に再現性を持って生み出すという方法だ。
人間の精子と卵子自体に改良を施す方法や
既存の肉体を星ノ獣と適合させる研究も中には行われたらしい。
現在と違って、戦の捕虜を殺しても良かったからな。」
国際法が整備される前は戦争中に捕虜を使って人体実験やりたい放題だったわけか、
だがそのおかげで研究が進歩した。嫌な歴史だな。
「――そして完成したのが、偉大なる方法<アルス・マグナ>
星ノ獣と適合する遺伝子を持った複数人の人の肉体を合成し
星ノ獣の遺伝子を注入した死者の蘇生による魔人の創造だ。」
「――完全に禁忌中の禁忌ね。」
口止めの意味も込めて俺と婚約を先にしたんだろうな。
身内から大罪人を出すわけにはいかないし
ソルティさんも隠蔽するしかなくなる。
「そして死者の素体の顔と脳を使用したのがカタリナ・アレクシア
旧姓オウトクラトだ。」
王族を輩出する3つの大公家のうちの1つか。ソルティさんはヴァシリウス、現国王と赤髪王子はアウグトゥス家だな。
「――でもどうしてカタリナが。」
「こればっかりは確率の問題だな。
カタリナ・アレクシアの顔と脳は完全な対称性を持っていた。
我々星ノ獣と同じくな。」
「確かに両利きだったけど。そんなことって。」
「話すよりも見てもらった方が良かろう。
ここからほど近い王都の地下遺跡に寝かせてある。
生きていた頃の記憶はもうないだろうが、親友のソルティ殿には言っておくべきかと思ってな。
顔と脳以外に関してはこちらで埋葬した。」
「――」
ソルティさんがうつむく。
セルベスさんが地下遺跡の地図を置く。
「憲兵に通報したければするといい。
抵抗はしない。
既に研究の結果は国外の最古にして最高の金庫に保管した。
そちらは何を言われても渡すつもりはない。」
「しないわ。
この国を守るために
悪を以てでも厄災の転生者に勝たなければならない。
ちゃんと強いんでしょうね?」
ソルティさんの使命感には恐怖すら感じるものがある。
「私より少しな。」
「十分ね。
長い使命の達成はお疲れ様。
そしてありがとう。」
「ふふっ、我が感謝される日がくるとはな。
流石は悪女だ。」
「私は自分が聖女だと思ってるけれど?」
「ふはははっ、面白い。」
「むぅ」
ソルティさんは少し頬を膨らませた。
一通り、ソルティさんとセルベスさんの話が終わってから
「それではな。と言いたいところだが
婚約したのだから、デートというものをしてみたい。」
「へ」
「はぁ?私ですらまだしたことないのに。」
「ふむ。ちょうど学院が近いのだし、案内してくれぬか?
それなら良かろ?」
「ま、まぁ。
でも2人きりで密室に行くのは禁止。」
ソルティさんがぐっと拳を握りながら言う
相当妥協してるな。
「十分。」
プレートム王立学院 魔術研究棟
デートと言いつつも、学院内部の施設を紹介しながら周った。
最後はエレシウス教授の研究棟に来た。
「――君は
ぐっ 師匠がどうしてここに」
エレシウス教授が本気で嫌そうな顔をして後ずさる。
「教授?一体どなたですか」
研究員らしい男2人と女2人がこちらをじっと見る。
「ほぉ、少し見ぬ間に立派になったものだな。
そちらが教え子か。」
「はい。お母さんですか?」
見た目の年齢の割に尊大な態度に研究員の4人が困惑している。
「いや。我が弟子だ。
出来のいい弟子でな。
14の時に新魔術を作り出しおった。」
「師匠、頼むから外で話そう。」
「そうか?
12まで寝しょ」
「外でお話しましょう。」
学院の中にある喫茶店
「――なるほど、
ようやく師匠も身を固める決心が付いたのか。
しかし学院の生徒、それも君とはな。」
「恋も研究だ。それより貴様に頼みがある。
学院内でキヨマサとの決闘を禁止しろ。
学院外では我とソルティで何とでもなるが
学院内では合法的にキヨマサを殺せる。」
「――無理だ。
決闘は個人間の承諾によって成り立つ。
せいぜいキヨマサ君に決闘の承諾をしないように言っておくんだな。」
「そういうわけだ。キヨマサ
絶対に決闘を承諾するな。講義なら単位を落とせ。」
「・・・・」
俺は頷いた。
たいていの学院の生徒と戦ってもリカルド達以上の経験を得られないだろうしな。
今後エスキート持ちの転生者と戦うことを考えると、最低でも教授と同格の相手と戦う必要がある。
「――はぁ、講義で決闘など誰がさせるか。
曲がりなりにも貴族の子息が半数はいるんだ、責任問題になる。」
「そうか、ならばよい。」
「それで他に何かあるのか?
こう見えて忙しいんだ。」
「――いや、久々に弟子の顔を見えて満足だ。
あと手持ちがないので支払いは頼むぞ。」
「――分かった。」
エレシウス教授が支払いを済ませて出ていく。
「大変そうですね。」
「あぁ、だが平民の出としては最高の出世頭だろうな。」
翌日
教育棟第2
古代魔術概論の講義だ。
「というように、4大古代魔術だけではなく。
古代魔術とは現代の魔術体系では解析できない魔術を含む。
特徴としてはあらゆる道具を用いることなく身1つで魔術を発動することが出来ることだ。
昔は魔具<ガイスト>なんてものはないからね。」
ここまではリカルド達に詰め込みで叩き込まれた部分だな。
「ではなぜ古代魔術を人が自由に使えないか理由は分かるかな。
もし自由に魔術が使えれば魔具<ガイスト>はなくてもいい。
そうだね、キヨマサくん」
「はい。古代魔術は自分の血管や神経を魔術紋として用います。
そのため体組成や骨格、神経の発達具合によって個々人が発動できる魔術が全く違っていて発見や取得が困難だからです。」
俺はエースとグリアと3人で真面目に講義を受けているが、後ろに座っている生徒の1/3は寝てるな。
ソルティさんが帝国に留学した謎が解けたよ。
向学心が無さすぎるんだ、貴族の奴らは。
「――うむ、それも原因の1つだ。」
ほぼ俺達3人対講師の会話になってしまっている。
貴族の王立学院って言ってもやる気のあるやつはいないもんだな。
「他の原因は分かるかね?1つとは限らないだろう?
エースくん」
「そうですね・・・
古代魔術は魔具<ガイスト>を使った現代魔術と違い、魔素の消耗が大きいとかですかね。」
「あ トラヤーヌくん」
聖女とやらは後ろの方で例の男2人といちゃついていた。めっちゃうぜぇ。
「うむ、自分の肉体の組成によっては魔術紋が非常に効率が悪いからそうだね。
他は思いつくかい?」
「いえ。」
「グリアさんは?」
「は はい。中世までは古代魔術という体系そのものが秘匿されて来たためで
中世以降も一部の王族や貴族によって魔術は独占されていました。」
「そうだ。そこが一番のポイントなんだ。
流石は学年主席の優等生だね。」
講師がすぅっとノートの文字を黒板のチョークの粉で浮かび上がらせる。
かっこいいな、元の世界だとでかい文字を非効率に手でがりがり書いてたのに。
「魔具<ガイスト>の発明によって魔術が急激に発展したのは
ほぼ全ての人が魔術の改良に参加したためだよ。
逆を言えば、古代魔術はごく一部の人間が情報を独占したために
使えていたはずの人間も使いかたを知らないまま一生を終えた。
だから古代魔術に関しては改良案は未だに発見される。」
「魔具<ガイスト>の結晶回路の組み方は雑誌や新聞のコラムですら改良案が載せられる時代だからね。」
時々エースとグリアが小声で補足してくれる。
新聞には宮廷魔術師テレシア 新たな魔術結晶構造を開発など色々書いてある。
「そうなのか。」
こっちの世界はまだ民間のインターネットがないが、普及したら凄いことになりそうだな。
「えー、次に自分の使える古代魔術の発見方法についてだが」
転生前は高校生だったから、こういう大学っぽい講義が受けれて何か嬉しいな。
転生しなかったら、普通に大学生してたんだろうし。




