第3.5話 家庭内融和 domestic harmony
3週間後 帝国国境付近 関門
「お世話になりました。」
俺はリカルド、フランク、ガウディの3人に頭を下げる。
「おう、良いってことよ。また来いよ。」
「ふん、せいぜいその狂人を抑えておきたまえ。」
「またね。」
俺とソルティさんはリカルド達に別れを告げ、再びロマヌス王国に入る。
ロマヌス王国 関門
「ソルミティア・ヴァシリウス様、あなたに指名手配が回っております。」
関門をくぐった瞬間に兵士達に囲まれた。
3日後 ヴァシリウスの屋敷 応接室
俺とソルティさんは兵士達に屋敷まで護送され、再び応接室に戻ってきた。
ほぼ3カ月前、俺はソルティさんの妹エイレーンに婚約をぶっ潰されて逃亡した。
追放ではないが、いわゆる家出というやつである。
そのはずだが
「キヨマサくん 姉と婚約してくれ。」
なぜかエイレーンさんに頭を下げられ、婚約をせがまれていた。
「母の補足をさせていただくと、
1カ月前に国王にかなりきつく言われたのです。
ソルティ叔母様のおかげでパクスルクスの街がここまで豊かに発展したというのに
婚姻を自由にさせないとは何事か と。
領地の剥奪も考えると。」
「アルフォスも偉くなったわね。
初等部に行ってる頃はよく魔具<ガイスト>の稽古つけてあげてたのに。」
「――叔母様ぐらいですよ。
アルフォス国王をそんな風に言えるのは。」
「――ねぇ、お願いよ。キヨマサくん
当主の座以外は好きにしていいから。婚約を。」
「ソルティさん、いいんですか?」
「私は元々婚約するつもりだったし。
あなたが嫌じゃなければ王立学院の卒業と同時に婿入りしてもらうつもり。」
「分かりました。
ソルティさんと婚約します。」
エイレーンさんの目がキマってて断ったら後でどうなるのか分からないし。
「ありがとう。すぐに準備するわ。」
エイレーンさんがさっさと部屋から出ていく。
「母は、1カ月以内に国王に報告しなければ最後通告を受けて国王に呼び出されるのです。」
「まぁ、これで予言通り進められそうね。」
ガタガタと足音を立てながら神父らしき男が入ってくる。
「星龍教の神父 ガウスと申します。
先日はどうも。」
「久しぶりですね。ガウス先生
いいお土産が」
ソルティさんが何か革袋を取り出す。
「おぉ!まさか帝国の」
「はい、星龍教の禁術を記した魔術書<リブロア>です。
絶対に他に漏らしてはだめですよ。
あと持ち込んだのはこの人物です。」
ソルティさんがよほどやばいものなのか、全く別人の署名を本にはさむ。
恐らく死んだ人間の署名なのだろう。
「ひょひょひょ、流石は我が弟子」
何か不安になってきたな。この白髪のムキムキじいさん、ホントに神父か。
めっちゃ悪い顔してるし。
「ゴホン!それでは婚約の儀を簡易的に執り行います。
まずは血判を。と言いますがまぁ赤インクで。
ここに押してください。あとサインを。」
赤のインクを指に付けて指の印を押す。
「簡単なんですね。」
俺は自分の名前を紙に書く。
久々に書いたせいでちょっと字がずれちゃったけど。
「そうそう、紙一枚書けばいいだけよ。」
ソルティさんと俺の名前と指の血判が揃った。
「それでは誓いのキスでも、ハグでもお好きな方で。」
「じゃあ、キスで。」
ソルティさんが俺の襟元を掴んで唇を重ねた。
温かい感覚が俺の唇に伝わる。
ソルティさんのオレンジとハーブ系の混ざった香りが俺を包む。
「――これでいい?」
「はい、結構です。
それでは役所にも出しておきます。それでは。
ひっひっひ」
さっさと神父さんが部屋を出ていく。
あっけないもんだな。
「――ふわぁ。」
エイレーンさんの妹の娘 確かリアラだったかが顔を真っ赤にしている。
「これで学院にあなたをねじ込める。」
惚けているリアラを無視してソルティさんがさっさと学院の願書を出す。
え、願書の申し込み明日までじゃん。
「安心して、侯爵以上なら願書は試験前日でも大丈夫だから。
ここと、ここにサインして。」
俺がさっさと願書の名前を書いていると
「――懐かしい、もう20年ぐらい前になるのね。」
「ソルティさんは王立学院に?」
「えぇ、王立学院の2年の時に2年間、帝国に留学して
そこから半年で卒業したから。4年もいたことになるわね。」
帝国の研究科に進学したらしいから、実質飛び級みたいなもんか。凄いな。
「どうして帝国に留学を?」
「――まぁ、行けば分かるわ。
帝国の方では充実した時間を過ごせたけどね・・・」
嫌な予感をさせつつ、書類を書いていく。
「一応言っておくと、学費は領民の血税で賄われるから
大公関連以外の用事でサボったり、欠席はなしよ。
例え周りやあなたがどんな状態であってもね。」
「――はい、責任重大ですね。」
元々、俺は異世界人だし、色々学ぶいい機会だからな。全力で学ばせてもらおう。
「貴族っていうのはそういうものよ。
華やかできれいごとだけなのはエイレーンぐらい。」
庭で優雅に他の貴族の女達と紅茶会を開いているエイレーンさんの姿が見えた。
推測だがソルティさんが恋や自己の幸せを捨てて領地運営を安定化させたおかげで、
今のヴァシリウス家の地位があるんだろうな。真のノブレスオブリージュってやつか。
「どうしたの?」
「この印っていうのはありますか?」
「印ね。これ。」
ソルティさんに渡された印を押した。
俺も覚悟を決めないとな。
俺はヴァシリウス家の印を願書に押し込んだ。




