第2話 帝国の武人達 The warriors of the empire
ヘルメリア帝国 東部エレブレ―ル オヴエル祭龍堂
ソルティさんの身分証であっけなく国境を越え、かなーり長い距離を歩いて教会のような施設に辿り着いた。
巨大な龍の像が飾られ、あちこちに7種類の龍が描かれた教会だ。
「――これは」
「星龍教の教会よ。ここの造りはちょっと派手だけどね。
あれが七星龍、帝国の伝承に伝わる龍ね。」
奥に入って教会を抜けると
七星龍を象った文様が刻まれている巨大な聖堂になっている。
「そろそろ来るかしら。」
ギィイッと扉を開いて現れたのは
大剣を持ったオレンジ髪の男と灰色の髪の男と緑色の髪の女が入ってくる。
「ホントにいるのかよ。
当主の座は譲ったと聞いたが、好き放題やってんな。」
「久しぶりね。リカルド
それにフランクとガウディも。」
「僕はリカルドに連れてこられただけだ。」
「会いたかったわ。」
オレンジ髪の男がリカルドで、灰色の髪の男がフランクで、緑色の髪の女がガウディか。
「――早速だけど、婚約者を紹介するわ。
武術、魔具<ガイスト>、知識の稽古を付けてほしいの。」
「キヨマサ・キー・ヴェルトです。
キヨとか好きに呼んでください。
あと色々あって婚約はまだ出来てないです。」
「まじか・・・
いつか何かやらかすとは思ってたが。」
「帝国でも金を持った魔女が若い男を半ば金で買うのはよくあることさ。」
え、そうなのかよ。帝国もそうだけど現代日本と倫理観が結構違うんだな。
「ん-、年齢の近い息子がいるから複雑だけどソルティなら仕方ないね。」
と3者3様の反応をする。
「3人共、私が留学した時にクラスで一緒になったメンバーよ。
武術、魔具<ガイスト>、知恵と3人揃えば敵なし。」
「――帝国に留学をしてたんですか?」
「あぁ、全員がドレイク魔術学院の研究院まで入った同期だな。」
「研究員まで卒業したのは僕だけだがね。
それより時間がないのだろう。
3カ月で最低限の知識を叩き込めだとか無茶が書いてあったが。」
「えぇ。王立学院の試験が4カ月後だから。出国許可証も3カ月で取ってあるし。
3カ月でそこらの使い手よりは強くなれるでしょ。」
「ちょっと待て、王立学院に入れる気か?
男爵家だと相当ハードルが高いだろう。」
「だから言ったでしょ。婚約者だし大公枠でねじ込むわ。
問題はその先よ。」
「先? 誰かと戦うの?」
ソルティさんが俺の肩をポンと叩き。
「聖女とやらに、異界から来る厄災
その全てを討ち滅ぼす。
この子と一緒にね。」
ソルティさんが笑った。
それから俺の地獄の特訓が始まった。
教会近くの修練場兼簡易宿泊所
小さな屋敷を改装したらしい宿泊所の近くに修練場があった。
朝、5時に起こされて、魔具<ガイスト>を使った魔術や詠唱の暗記
その後は10時頃からこの世界の文明の根幹を為す魔具<ガイスト>の工学、それに必要な自然科学の知識
ここは前世で受験生だったおかげで何とかなった。だが物理の定数や物理法則が違った。
実験器具があったので測定してみたらその通りになった。
原因は原子だけではなく魔素<エレメント>という特殊な半物質があるせいらしい。
そこまでは何とかこなせたが、15時から21時までずっと戦闘訓練だ。
剣術、槍術、双剣術、棒術、銃の射撃訓練、延々と仕事の終わったリカルドから叩き込まれる。
最後に魔具<ガイスト>を使って模擬戦を行う。
3日後 宿泊所
「――ソルティさん、俺は死ぬんですかね。」
3日目にして俺の体は悲鳴をあげている。
「筋繊維と腱なら私かフランクかガウディに言って。治すから。」
「全身が筋肉痛です。」
ソルティさんも模擬戦には参加しており、リカルドとフランクとガウディの3人相手に渡り合っていた。
「じゃあ、全部脱いで。筋繊維の損傷をとりあえず全部治していくから。」
「はい。」
俺は下の一部を残して服を脱がされ、修練場の椅子を2つ並べて寝かされる。
「癒しの星よ。」
異常な筋肉痛が治っていく。
「す すごい。」
「相変わらず、人間離れした力だな。」
「治りやすいのは転生した時の魔素<エレメント>量のおかげなのもあるけれどね。」
「――転生者ってのは本当だったんだな。」
「えぇ。肉体は普通の人間だから今はあんまり強くないけどね。」
「じゃなきゃ、エスキートがあったら俺らの敵になってたろうからな。」
「でしょうね。
でもいずれキヨマサにはエスキートを持つ転生者と互角に戦える力を付けてもらわないと。」
2カ月と少しが経った頃
ヘルメリア帝国とロマヌス王国の国境付近 魔ノ森
「少し早いが、サバイバル訓練だ。」
俺はリカルドに連れられて特殊な森に来ていた。
「――ここは」
辺りに魔素<エレメント>が異常な濃度で満ちている。
どこまでも吸い込まれそうなほど深い森だ。
木々がはるかに高く生い茂っており、魔獣の気配も大量だ。
「対人戦にも飽きてきた頃だろうしな。
まぁ、安心しろ ただのレジャーだ。
森の一番深くにあるアルシュナルって花を取ってここに戻る。
ただし会った魔獣は全部狩って、食うこと。
食えない分はこのバッグにでも入れて持って帰れ。3日以内にな。」
魔獣――魔素<エレメント>を体内に取り込んだことによって肉体が変化した生物を総称するらしい。
「――はい。他に何か条件は?」
「あー、そうだな。遭難した時のために光の礎と通信機を持っていけ。」
謎のペンダントと通信機を渡された。ペンダントは何か光ってるな。
通信機の方は普通の無線っぽい、電気で動いてないだけで元の世界と変わらないな。
「とりあえず、それを持っとけば俺らが見つけられるしな。
健闘を祈る。」
「――それじゃ行ってきます。」
魔ノ森
魔ノ森に入っていく。
数歩入っただけで夜のように暗いな。
半日ほど歩いた頃に熊のような魔獣にばったりと会った。
ウルシェダだったか、確か爪と牙に毒がある熊だな。
「ぐむぉ」
ウルシェダはどうやら俺を食いたいらしく、涎をだらだらとたらし始めて俺の周りを回り始める。
俺もソルティさんから貸してもらった土と水が使える杖を取り出す。
「盾土<テラ・スクート>!」
俺は杖を振るい、自分の前に土の壁を作る。
魔術は同じ言葉を詠唱することで体内や体表の魔素<エレメント>を同じ状態にしやすい。
結果として同じ魔術が発動しやすい。
「ぐむぅ!!」
ウルシェダが俺の作り出した土の壁を避けて、俺の方へと突進してくる。
「水刃<ヒュドグラディア>」
土の壁の裏側に仕込んでおいた水魔術を発動する。
ウルシェダの前足が切り裂かれ、ウルシェダがドッと転倒する。
ウルシェダが立ち上がって歩く。
どうやら2足歩行でも歩けるらしいな。
「人間は罠を使えるんでな。
苦穴<ドルローサ>」
俺はウルシェダの足元の地面をへこませて、落とし穴に落とす。
「ぐむぁおおおっ!!」
ウルシェダが雄たけびをあげながら叫ぶところを
「水刃<ヒュドグラディア>」
ドッと水で作り出した水の刃で首を落とす。
熊でも人でもだが俺ぐらいの熟練度の魔術だと動くものには当たりづらいからな。
基本的に相手の足を止めたり、誘導したりしないと当たらない。
だがソルティさんの杖の力は凄まじいから当たれば倒せる。
「とどめを刺したら、解体して食え だったか。」
落とし穴から何とかウルシェダを引きずりだして解体する。
魔獣は毒や魔素を収集、凝縮する器官が大きいせいで可食部が少ないんだよな。
心臓や内臓が肉体の割に発達しておらず、取れる肉も少ない。
肉は血抜きしてとりあえず全部包装してからバッグに詰めて先に進んだ。
しばらく進んでいくと川が流れているのが見えた。
「――あなたは」
川で壮年の男が水を汲んでいる。
「珍しいな。こんなところに人が。」
「あなたこそ、ここで生活をして?」
「レジャーだよ、帝国ではサバイバルブームでね。
帝都から飛行船と列車を乗り継いでね。
やはり自然はいいものだ。」
「――それは大変ですね。」
「君は森の奥の花目当てってところかな?
恋人へのプレゼントと推理した。」
男が赤茶色のオールバックの髪を整えながらコートを翻す。
「残念ながら。
サバイバル訓練です。
森の奥の花目当てというのは合ってます。
俺はキヨマサ・キー・ヴェルト」
「私はワーグナー・オルメスだ。
刑事のようなことをしている。」
「ちょっとワーグナー
何、油を売ってるのよ。」
黒く日焼けした銀髪の中年の女性
だがその手にはメスがあり、魔獣の肉体を事細かく解剖している。
「こっちの怪しい女性はバーモン。見ての通りサディストな医者だ。」
「――厄介事件しか興味のない変態刑事に言われたくないね。
坊や、私は優しいお医者さんよ。」
バーモンの笑いが少し不器用でひきつっている。
「はぁ・・・
ともかく俺は先に進みます。それでは。」
俺は進もうとすると
「待ちたまえ。どうやら森の奥に危険なバケモノがいるようだ。
1日待ってはどうだろう?」
「バケモノって、魔獣なら普通に倒せますし。」
「いや、少し違うな。魔人か、それに近い存在だね。」
「魔人って?」
「人の形をした厄災のようなものだよ。
ともかく戦ってはいけない。」
「――なるほど。
でも俺は3日以内に戻らなければいけませんし。」
「ならば遭遇しないようにしたまえ。
足跡と匂いに常に注意することだ。」
「分かりました。」
転生者、いやまさかな。
翌日 魔ノ森の最奥部
俺は刑事さんに言われた通りに、人影に注意しながら進んだが何もいなかったな。
言われた通りに真っ白な花を摘んで、戻ろうとすると
ポタリと赤黒い液体が垂れてきた。
木々の上の方に人の遺体がいくつも並べられていた。
まるで木々に喰われたかのように人の肩より上が消えている。
「――汚らわしい。」
森のどこかから人の声がした。
「誰だ。」
全く人の気配がしなかった。
「消えなさい。」
俺の足元から草がまとわりついてくる。
何度も払うが、草がとんでもない速度で成長し、俺の背丈を超えていく。
「土断<テラ・クート>!」
地面ごと草を斬りはらうと。緑色の髪に茶色のドレスを纏った女が立っていた。
「あぁ、我がナタリーの名前にかけて。あなたを緑化します。」
ナタリーが腕をあげる、すると大地が割れるようにして木々が生えだす。
「ぐっ」
俺の足元に木が絡みつくのをぎりぎりで飛び上がって躱す。
だが次から次へと木々が生い茂っていき
元々生えていた木々を押しつぶしていく。
「――くっ」
まずいな、明らかにこいつは転生者のエスキートだ。
魔具<ガイスト>を使ったような感じもないし、どの古代魔術とも一致しない。
無線を起動して
「こちらキヨマサ!転生者と遭遇した!」
大声で叫ぶと
「は!?」
リカルドの声が聞こえた。
「指示を頼む」
「逃げろ!!!全力で!逃げろ!」
「了解した」
俺は杖で土魔術を全開に発動して、木々を突き破りながら地面を隆起させる。
ドゴゴッ!!と木々を突き破り、地面が畑の尾根のように飛び出す。
木ではない部分を走って、全力で逃げる。
「応答はしなくていいから全力で走れ!
今からソルティとそっちに向かう!」
ドゴッ!!と激しい爆発音と共に激しい風の音が無線を通じて聞こえてくる。
それと同時にゴォオオオン!!!と背後から木々が溢れだすように巨大化していく。
既にビルの高さだ。
これは、戦ってもどうしようもないな。完全に人の形をした災厄だ。
だが杖のおかげで何とか水魔術で木々を断ち切りながら、逃げれている。
「我が木々に貴様ごときが触れるな!!!」
俺の後ろから声が響き渡り、眼前に地面からナタリーが生えてきた。
「くっ」
左右を確認するが、そちらにも地面からナタリーが生えてきている。
「無限に生える雑草かよ。」
後ろからも生えている。
どうやら木の根を這わせたところからならどこからでも肉体を出現させられるらしい。
だが本体は1つだろうな。
「水刃・三ツ重!!」
俺は構わず正面のナタリーを水の刃で切り裂き、そのまま突破する。
「よし」
斬ったナタリーの肉体は中身が木で出来ているらしく、血も肉も出ない。
「我が緑にひれ伏せ グレティア」
ドッと木々から一斉に緑色の水の塊が飛び出す。
「っ!」
そして今度はその水の塊から一斉に空間全体に根が飛び出していく。
何とか体に着くのは避けれたが、
俺の周囲の空間が完全に封じられた。
「水刃・三ツ重<ヒュド・トリプレクス>!!」
再び根を斬ろうと水の刃を飛ばしたが、斬ったところから再生していく。
栄養剤か、植物の生育を加速化させるものだったんだろう。
完全にやられたな。
このままじゃ・・・
「盾土<テラ・スクート>!」
俺は足元と周囲の地面を持ち上げて、木々を押し倒していく。
だがそれより速い速度で根が浸食していき地面を掴んでしまう。
「しまっ」
いつの間にか首に根が絡んでいた。
何とか左手を首と根の間に入れて押し返そうとするが、体が持ち上げられてしまう。
「くぉおおおっ」
根を押し返そうとするが、徐々に力負けしていく。
「がっ!」
木の弦に弾かれた土の塊が俺の背中に直撃する。
その瞬間に手の力が抜けてぐっと首がしまっていく。
「うぁっ」
俺の首の骨が完全に折れそうなほどの力が掛かっていく。




