桜の夜
やがて公園の桜の近くに車が止まり、男の人と女の人が降りてきた。女の人は三歳ぐらいの女の子を連れている。
「志水咲良さん?ごめんね騙すつもりはなかったんだけど、電話に出た時にお父さんじゃないと分かったら切られると思ってね」
「僕は藤原雄大、君のお父さんの元部下だったんだ、そしてこちらは」と言いかけたところで
「私は志水加奈子、あなたのお父さんと再婚したの。そしてこの子は志水優海、あなたの妹よ」
「えっ、お父さんは?」と咲良が聞く。
「残念だけど、二年前に病気で亡くなられたんだ」藤原さんがそう言うと、
「咲良さんのことを最後まで心配していたんだよ」と加奈子。
藤原がみんなをベンチに座らせ、缶ジュースを配ってから話を続ける。
「君のお父さんからメッセージを預かってるので、今からそれを見せるね」
藤原の持っているスマホの画面にベッドに腰かけてる志水涼が映し出された。
「咲良、お父さんだよ。この動画を見てるってことはお父さんはもうこの世にはいないってことだ。必ず助けに行くといった約束を守れずにごめんな。でも、お父さんが一番信頼してる友人にこの携帯を預けるから、彼が必ずお父さんの代わりに助けてくれるよ。お父さんは咲良やお母さんを幸せにすることはできなかったけど、それでもやっぱり家族として愛してるよ。あの日家を出て行って辛い思いをさせたね、ごめんね。お父さんがもっと頑張ればよかったんだけどね、お父さんのせいだね。咲良は今何歳くらいなんだろう、もう大人になったのかな。お父さんはいつでも咲良の心の中で見守っているから、これからも元気で生きていってね」
横を見ると咲良が泣いていた。お父さんに会えたのがうれしいのか、亡くなったのが悲しいのか。
「さよなら、おとうさん」
「ちゃんと生きていくよ、お父さんの分まで」
「そしてありがとう」