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夢の続き

 翌日、私と咲良は電車で咲良のお父さんが勤めていると思われる会社に向かった。

「今日は平日だから大丈夫だよね」

 咲良は黙って頷きながら窓の外を見ている。

会社は簡単に見つかった。かなり大きな会社だ。一度は名前を聞いたことがある有名企業だ。受付で咲良がお父さんの名前を告げたあと、しばらく待たされた。


「本社支店すべてお調べしましたが、該当する社員は在籍しておりませんでした」「ただ、五年ほど前に退社した者にそういう名前の者がおりましたが、お探しの方と同一人物かどうかは分かりません」


咲良のお父さんに会えることを期待していたから、なんだかがっくりと力が抜けてしまった。まさか会社を辞めてるとは思わなかった。

公園に戻ってきた。

「お父さん会社辞めてたんだ、もう探しようがないね。もうこれでほんとに何にもなくなっちゃったよ、あたしには。もう消えるしかないか」

 何度も消えたいと言う咲良。よほどがっかりしたんだろう。

「だめだよそんなこと考えちゃ。私だっているし、これからまだ友達だってできるよ」

「もうなんだかどうでもよくなっちゃった。疲れたよ。ごめんね今日は付き合わせて」

 そう言うと、桜を見上げながら少し黙っていた咲良が急に

「あっ」と小さくつぶやいた。

「思い出したよ、なんで今まで思い出さなかったんだろう」

「なになにどうしたの」と聞く私に

「前に、お父さんの夢の話したでしょ?その続きを思い出したの」と言うと、鞄の中を何やら探し始めた。

「あった。夢じゃなかったんだ」

探し当てたのはお守り袋だった。

「ずっと夢だと思ってたけど、ほんとにお父さんがくれてたんだ」


「咲良、咲良、お母さんを頼むね。でもどうしても寂しくて我慢できなくなったり、お父さんに会いたいと思ったときにはこのお守り袋を開けて中を見てごらん、お父さんが必ず助けに来るから」

「お父さんは確かにそう言ってあたしの手にこのお守り袋を握らせてくれたの。あたしはまだ小さかったから意味が分からなかったけど、ポケットに入れてずっと持ってたのよ」

彼女の眼はさっきまでとは打って変わって輝いていた。まるでしまい忘れていた宝石を偶然見つけだしたような顔だった。

お守り袋の中から彼女が取り出したものは、電話番号が書かれたメモ用紙だった。

「これはきっとお父さんの携帯番号だよ!直接渡すとお母さんに捨てられると思ってお守り袋に入れて渡してくれたんだ!」

そこまで言うと彼女は急にまた黙り込んだ。

「どうしたの?電話しないの?」

「もうあれから十年は経ってるんだよ」「お父さんだっていろいろあるだろうし、電話しても喜んでくれなかったり、知らないって言われたらあたしはもう立ち直れないよ」

彼女はしばらく桜を見上げていたが

「でもだめならだめでしょうがないし、今の状態がもっと悪くなるわけでもないしね。あたし電話してみる。もし電話が繋がらなかったり、お父さんが嫌がってたりしたら諦める」

「まさか死ぬなんて考えないでよ」

「そのかわり、もしお父さんが会いに来てくれたら頑張って生き続けるよ」

私の問いには答えずにそう言うと少し離れた場所で電話をかけ始めた。


「お父さん今からあたしに会いに来てくれるって!」

嬉しそうに彼女が話してくれたのは、お父さんはやっぱりあの会社で働いていて、咲良からの電話にはいつでも出られるようにしてたということだった。お母さんや妹のことを話したら、じゃあ今からすぐに会いにに行くから今後どうするか一緒に考えよう、ということだった。

「良かったね咲良、こんなに早くお父さんに会えるなんてね」「でもすごいね、かかってくるかどうか分からない電話を十年も待ってたなんて」

「うん、ありがとう!車で三十分もあれば来れるからってお父さん言ってたから、すぐに着くよ」

「そうだね、でももうすっかり夜遅くなったのに大丈夫?」

「平気だよ。今までだってこれくらいの時間に外にいたことはしょっちゅうだったし。もう遅いからあなたはもう帰ってもいいよ」

「咲良、私はあなたが時々手首に包帯を巻いていたり、首筋にあざを作ってるのを見てすごく心配してたんだよ。だからちゃんと咲良の無事を確認してから帰りたい」

「やっぱりばれてたか。うん、手首を切って血が出たときにだけお母さんは優しかったの。何も言わずに包帯を巻いてくれるのがなんか嬉しくて時々やってた。そのうちカッターナイフを取り上げられたけどね。でもお母さんも妹もいなくなってからは、このまま消えてしまいたいと考え始めてたんだよね。カッターナイフ探すのも面倒だったからビニールひもをドアノブにかけて首をつってみようとしたんだけど、うまくいかなかった。昨日あなたが来てくれたときにね、このあたりのマンションで飛び降りるのにちょうどいいのを探してたの。夜になったら飛び降りようと思って」

「だめだよ!そんなこと考えないで!」

 咲良は珍しくまっすぐこちらを見ながら

「お父さんに会えるんだからもう大丈夫だよ。たとえどういう結果でも、この世の中に血のつながった家族がいるって思えることがすごく嬉しいの。たとえうっとおしがられてても、口さえきいてくれなくても、家族がいるってすごく嬉しい」

 咲良はお母さんを亡くしたことをそんなに悲しくないと言ってたけど、やっぱり悲しかったんだね。血のつながった家族がいなくなったんだもの。

「あたし、お父さんにさよならを言おうと思ってたけどやめる。だってあたしはお父さんに会えると思っただけでこんなにうれしいんだもの。ありがとうって言いたい」


「でもなんでお父さんの会社の人は『今は在籍していません』って言ったんだろうね」

「うん、変だよね。まだ辞めてなかったのに」





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