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電信柱の夜

 俺は悩んでいた。加奈子が遊びに来るようになってから飲みに出かける回数はかなり減ったが、仕事で遅くなったときは相変わらず酒に助けを求めていた。このまま付き合っていくと最後はやっぱり結婚になるのか、ほんとにそれでいいのかと。


「藤原君、ちょっと今夜付き合ってくれないか、相談したいことがあるんだ」

「部長から相談って珍しいですね。もちろんお付き合いしますよ」


 居酒屋で個室を取り、話し始めた。

「吉野加奈子と付き合ってるんだけど、俺はもう一度家庭を持つことに自信がないんだよね」

「ええ、なんとなくいい雰囲気だなと思ってました。いいじゃないですか結婚してしまえば。彼女もその気なんでしょ?」

「はっきりとは言わないけど、たぶんそうだろうな。おそらくそれは俺が言い出さないといけないんだろう。彼女はそれを待ってるように思える」


 ふうーとひとつ息を吐いてから俺は話をつづけた。

「で、相談したいのは、前の家族を見に行きたいと思ってることなんだよ。俺はもう幸せになっちゃいけないと思い込んでたけど、彼女が現れてからどんどん彼女と一緒にいたいと思うようになった。だけど最後の一線でやっぱり捨てた家族が気になるんだよ」

「そりゃまあ確かに」

「そこで頼みがあるんだけど、前の家族が今どうしてるか一緒に見に行ってくれないか。俺一人で行くことも考えたんだけど、もし悲惨な状況だったりしたら冷静じゃいられない気がするんだ。だから一緒に行って、物陰からこっそり見て、何かあっても関わらずに帰ってこれるようにしたい」

「分かりました、お安い御用ですよ」


 その週の土曜日に藤原の運転で一緒に出掛けた。その公園は出ていった時と変わらずにそこにあった。休日だが人は少ない。取りあえずアパートと公園が見えるところに車を止めて待つことにした。

「まだここに住んでるかどうかも分からないんだけどな。とりあえず昼過ぎまで待って見当たらなけれ撤収しよう」

「そうですね、でも俺は別に夜までいても構いませんよ、どうせ暇だし」

「悪いな、こんなプライベートなことに付き合わせて」

「なに言ってるんですか、部長の役に立てるなら大喜びですよ」

 

そうこうしてるうちにアパートから元妻が出てきた。咲良も一緒だ。咲良はずいぶんお姉さんになってる。しかしそれだけではなかった。元妻が赤ん坊を胸に抱いていた。

「部長、もしかしてあれが奥さんと娘さんですか?」

「ああ、そしてあの赤ん坊はたぶん新しい人生を歩み始めた証拠なんだろうな」

「時間取らせて悪かったな、帰ろうか」


 見つからないように引き返した。気が付くと携帯電話にメッセージと着信が数回記録されていた。

「出なくていいんですか?」

「ああ、たぶん加奈子からだろうけど、今日は会う気にならない。駅の近くでおろしてくれ、それから悪いけど俺のアパートに行ってもし彼女がいたら、俺は今日帰ってこないからと言って帰らせてくれ。俺のアパートは知ってるよな」

「はい、何度かお送りしましたから。でもほんとにいいんですか?カナちゃん怒りませんか?」

「今会ったらもっと怒らせてしまうかもしれん」


 したたかに飲んだ。店を変えながら夜中まで飲んだ。悲しいわけじゃない。むしろ安心したという気持ちが大きい。だけど無性に寂しかった。なぜかは分からないが胸が締め付けられた。どれだけ飲んだか分からないが、気づいた時には路地の電信柱にもたれかかったまま寝ていた。久しぶりに脳みそがしびれるほど飲んだな。


「部長、部長、大丈夫ですか」

 あれ、藤原の声だ。隣には心配そうな顔をした加奈子もいる。

「何やってんのお前たち、こんな夜中に」

「何やってんのじゃないですよ。カナちゃんといろいろ話してて部長のことが心配だから探しに行こうってことになったんですよ」

「なんだ、今日のことは喋ったのか」

「ええすいません、あんまり部長の顔色が良くなかったので」

「ふん、どうせ加奈子の質問攻めにあったんだろ?」

「ま、まあ」

「涼ちゃん、あんまり心配させないでよ、さあアパートに帰ろ?」

「まったくお前ってやつは大きなお世話が好きだな。こんなゲロまみれの酔っぱらいをわざわざ探しに来るなんて」 

「じゃあ探しに来なくていいように毎晩ちゃんと帰ってきてよ」

「やれやれ」

 


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