第三章:初夜、血の儀式
その夜、志織は「花嫁」としての儀式に臨むことになった。
真紅のドレスに身を包み、蝋燭のゆらめく大広間でひとり座っていると、コツコツコツとゆっくりとした足音が響いた。
「怖いか?」
静かに近づいてきたノスフェルが問う。
「ちょっと……でも、信じてる。あなたを。」
その言葉に、彼の瞳が微かに揺れる。
「……変わってるな。お前は。」
ノスフェルは彼女の頬に触れ、低く囁いた。
「首を、少し傾けろ。」
指示通りにすると、ひんやりした彼の手が髪を払う。
「……快楽に、飲まれるなよ。」
「えっ、なにそれどういう――っ」
ザクリ。
牙が肌を裂いた瞬間、全身にビリビリとした快感が走る。
「ん……っ、あ、ぁ……」
言葉にならない声が漏れる。
熱く甘い感覚が、血と共に吸い取られていく――。
「あっ…まっ…て……ちょっ…」
吸われてるのに、痛くない。
体が勝手に震えてしまう。
しかし、数滴だけ吸ったところでノスフェルは牙を引いた。
「もういい。」
「えっ……」
「吸いすぎると、お前を“こちら側”にしてしまう。……俺は、それを望まない。」
その声に、志織の胸が締めつけられた。
ノスフェルは彼女の額にそっとキスを落とした。
それは、血よりも優しい“契約”のキスだった。