第二章:ヴァンパイア様は美術品のようでした
連れてこられたのは、森の奥にそびえる古びた館。古い館だが、手入れは行き届いており、綺麗な花も咲いていた。そこに当主であるヴァンパイアは住んでいるらしい。
重厚な扉が開いた瞬間、空気が変わった。
踏み込んだ赤い絨毯の先に、彼はいた。
漆黒の髪、紅玉のような瞳。
長身で、冷たい美しさをまとったその男が、志織を見下ろしていた。
あ、美しい。
現実世界でもかっこいい人、素敵な人、可愛い人…魅力的な人はたくさん見てきた。でもこの人は、今まで見てきた誰よりも”美しい”人だった。人っていうより、例えるなら美術品に近い。
「……これが、今期の生贄か」
口を開いた時に鋭い牙がキラッと光った。
あ、本当にヴァンパイアなんだと思っていたところで、ノスフェルの視線に気づいた。
「あ、佐藤志織です。はじめましてっ!」
ぺこりと頭を下げる志織に、ノスフェルは一瞬、驚いたように目を細めた。
「……お前、怖くないのか?」
「うーん……ちょっと。でも、異世界ってワクワクするし!吸血鬼も初めて会ったし!」
村の人々が恐れおののく中、彼女だけがぴょこぴょこと歩み寄る。
志織はノスフェルが少しだけ笑ったように思えた。
「もしかして、おもしれー女とか思ったりしてます?」
「なんだそれは。」
ツンと即答するノスフェル。
でも、志織はノスフェルのまとう雰囲気が柔らかくなったことを見逃さなかった。
「ノスフェル様、今期はこの娘で町に平和を…」
町の人たちは深々と頭を下げた。頭を下げていたかは顔は見えないが、その肩は少し震えていた。
「あぁ、力を尽くそう。」
町の人たちは知らない、顔をあげていた私にはわかる。
町の人たちを見るノスフェルの目の優しさが…。
なんだ、町の人たちが思っているような人じゃない!…と思う。まだわからないけど、異世界だし楽しんだもん勝ちだよね。こんなに美しい人の花嫁か…なってみてもいいかなぁ。