第一章:生贄って、私のこと!?
「え?ここどこ??」
まばゆい光の中で目を開けた佐藤志織は、森の中にいた。
昨日まで普通のOLだったはずなのに。
上司の理不尽な説教、冷えたお弁当、終電ギリギリの帰宅、最後の記憶はコンビニで買った缶ビール片手にテレビを見ながらウトウトしてた――はず。
あれ全部、夢だった?
「いや、むしろこっちが夢!?」
ふかふかの苔、鳥のさえずり、空は絵本みたいな青さ。
着ているのは、知らない白いワンピース。細かい刺繍もされており、こんな繊細で綺麗な服持ってない。それに気づけば足元には魔法陣のような模様。
「なにこれ……異世界転生、ってやつ?」
そのつぶやきが聞こえたのか、突如現れた村人風の男たちが彼女を取り囲んだ。
「おお、神託のとおりだ……!」「ついに“花嫁”が来られたぞ!」
花嫁?
志織の頭の中で、何かがピコーンと鳴った。
「……もしかして、これって、“無理やり結婚”案件では??」
冗談のつもりだったが、笑う者はいなかった。
背中に冷たい汗が流れた。現実世界では結婚のけの字もなかった私。そんな私が結婚なんてできるはずがない。
「貴方にはこの地を当主であるヴァンパイア、ノスフェル様への生贄として花嫁になっていただきます。」
気になったのは花嫁という言葉よりも
「ヴァンパイア?生贄?」
空想上の生き物に物騒すぎる言葉。さすが異世界というべきか…。
「順を追って説明いたしますね………」
聞けば、この世界では各地域をヴァンパイアが当主として守っており、人間は安心して暮らせる代償として生贄を捧げていた。前の生贄が死ぬとまた新しい生贄をと生贄は途切れることなく、何千年と続いている。普段は地域から生贄を選ぶのだが、何百年に一度、神託として司祭が異世界から花嫁が来ることを予言することがあり、今回の信託に従って探したところ、私を見つけた。
この地域の当主はヴァンパイア、ノスフェル様。めったに人の前に現れることはなく、地域の人々はノスフェル様のことを恐ろしく思っている。しかし、ノスフェルが当主になって250年、平和に過ごせていること、生贄の生きている期間が他の地域より長く、反乱もなく人と当主であるヴァンパイアは生活している。
…らしい。
「え、待って。じゃあもしかして、その生贄に私が!?」