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廃棄村の奇跡、そして逆襲  作者: ろみ


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8/8

その7

 王族達は大広場に鎖で繋がれ、1週間野ざらしとなりました。

 檻から出せ出せと騒ぐので、ご希望に応えて檻から出し、地面に杭を打ち、杭に鎖を繋ぎました。

 国民達には御触れを出しました。


 国民達を不当に虐げ、迫害した王族達である。

 何をしても許すが、殺す事だけは禁じる。


 立札を立てると共に、広場に集まる国民達にチャーリー様が札の説明をなさいました。

 広場に集まる国民達は、個性的で魅力的なお顔立ちの方が沢山いらっしゃいます。みんな違ってみんな良いお顔です。

 こうして見ると、人形のように整えられた王族や貴族達の顔の方が人間味が無く不気味に思えてきますね。

 全ての国民が人目を気にせず表を歩けるようになる。これがグレース王国の健全化の第一歩と言えましょう。

 一応、国民達がエスカレートして王族の殺害に至らないように、ザビ帝国の騎士様方が広場の隅に立っておいでですが、基本は国民達の行いを止めはしません。



 そして王族達の地獄の1週間が始まりました。

 最初は遠巻きに様子を見ていた国民が、王族達に石を投げるようになるのはすぐの事でした。

 父を返せ。

 母を返せ。

 兄妹を返せ。

 姉弟を返せ。

 やはり理不尽に王族、貴族達に家族の命を奪われた国民は多かったのでしょう。人々は口々に叫びながら王族達に石を投げつけました。王族達の額は割れ、手足は紫になり、瞬く間に襤褸雑巾の様になっていきます。

 たった数時間で、王族達は虫の息になってしまいました。

「皆さん、お待ちになって」

 私が興奮する国民に静止の声を掛けると、殺気立った皆さんが私にも牙を剥こうとします。しかしすかさずザビ帝国の騎士様方が私とマクシミリアン様の前に立ち、少し我を忘れていた国民達に他の騎士様方が槍を突き付けます。

 国民の皆さんは我にかえり、ハッとして石を握る手を降ろしてくれました。

「皆さま、このままでは王族の皆さんがすぐにも死んでしまいますわ」

「でも、こいつらはこんな目に遭うのが当然の外道だ!」

「ええ、それは私も否定しませんわ」

 私は一番近くにいた、土まみれになって蹲っている王太子に近づきました。

 そして、王太子の怪我と汚れを吹き飛ばし、空へと放ちました。

 広場を取り囲む樹木の若葉が風に揺れた途端、更に勢いよく若葉が生い茂り、小さな花が無数に咲き、それから花が散ると美味しそうな赤い実が成りました。

 これに広場に集まっていた人々が歓声を上げました。

「せ、聖女様!」

 誰かが声をあげましたが、私はそれに首を振ります。

「いいえ、私は魔女でしてよ。ですので、この機会に皆さんの恨みが晴れる事を望みますわ。でも王都の数万人の国民が恨みを晴らしたいと願っているでしょう。皆様方だけで王族を殺してしまっては、他の方々がガッカリしましてよ。皆さんが公平に恨みを晴らせるように、生かさず殺さず、1週間気を付けましょうね」

 怪我も穢れも、不摂生による肉体の変化も全て取り払われ、美しい容貌を取り戻した王太子から私は離れました。

「さあ、殺す以外は自由でしてよ。仲良く順番を守って、復讐をなさってくださいませ」

 私の声掛けを皮切りに、男性方が王太子に飛び掛かり、殴る蹴るを繰り返し、王太子がぐったりすると、王太子の衣装が剥かれて行きます。裸に剥かれた王太子が男性方に何をされるのかは、あまり考えないようにいたしましょう。

 私はえこひいきなどせず平等に、王と王妃、第二王子の怪我と穢れ、肉体の衰えも払って差し上げました。すると、王族達全員が美しい容貌を取り戻しました。

「ああ、そうだ」

 マクシミリアン様は国民達に注意事項を付け足しました。

「王都の貴族達に無差別に攻撃を加える事は禁じる。人道に外れた行いをした者は貴族、庶民関係なく処罰の対象になる。それぞれ肝に銘じる様に」

 熱に浮かされたような広場が少し落ち着きました。

「しかし、個人的な私怨を晴らす事は止めない。これから1週間の期間のみ、貴族への仇討も許可する」

 一度落ち着いた広場の空気がまた熱を持ち始めました。

 王族など見向きもせず、市街地に走り出す人々もいます。

 王族のみならず、国民達へ非道を行った王都貴族達の地獄の1週間の幕も上がりました。

 私の家族達は特に自分達の美貌に笠を着て、傍若無人の振る舞いを行ってきたでしょうから、王都民の中にも恨みを持つ者が居るかもしれませんね。

 果たして生きて無事に領地まで逃げられるでしょうか。

「王族に関しては当初の予定通り、1週間、殺す以外はお前達の好きにするがいい。最初に人道から外れたのは王族達なのだからな」

 歓声と共に広場の人々が王族方に群がります。

 私とマクシミリアン様は騒ぎ続ける人々を残して広場を去りました。

それからの王都の皆さんのご活躍は目を見張るばかりで、私とマクシミリアン様が手を出すまでもなく、王族達への完璧な復讐が成されたのでした。


 王族方は1週間を生き延びました。

 食事と水はしっかり与えられ、漏らした糞尿も毎日綺麗に片づけられます。

 私も一日一回は必ず王族方の怪我と穢れを払い飛ばしました。広場はそのせいか、皮肉な事にますます緑溢れる美しい場所になっていきます。

 しかしその広場で起こった1週間の出来事は、言葉にするのも憚れるような物でした。

 男性が女性の尊厳を損なう行為をし、男性から男性の尊厳を損なう行為もなされました。単純な石を投げる、殴る、蹴るという暴力から、後半はいかに王族達の心を折るかという事に王都の民達の関心は移っていったように思います。

 3日を過ぎると怪我を癒やし、なんどでも美しさを回復させられる事を、王族方は泣きながら嫌がるようになっていきました。

 けれども怪我をしてボロボロになっている王族方を放っておく事など、私にはとてもできません。

「ゆ、許してくれ。もう治さないでくれ」

「さあ、第二王子殿下。元のお美しいお姿に戻りましたよ」

 私が第二王子の傷を癒やし、皮膚も美しく整え、汚れた顔や体を綺麗にして差し上げると、第二王子は泣き崩れてしまいました。

 王族方の中でも最後まで感情を手放さなかった第二王子は、案外タフでいらっしゃったのかもしれません。5日目を過ぎると、国王も王妃も、王太子も目の焦点が合わず言葉も発しない美しい人形のようになっていました。

 広場での1週間が過ぎた後、そのまま広場で王族方の公開処刑が行われました。

 1週間、王族方は国民の恨みつらみを受け止め続けましたので、最後はギロチンであっさりと苦しめずに逝かせて差し上げました。マクシミリアン様の恩情です。

 遺体も広場に晒さずに、速やかに回収されました。人知れずひっそりと、王族達は埋葬される事となります。

 広場は前国王と王族達の処刑に沸き立つ国民で埋め尽くされていましたが、マクシミリアン様の言葉に国民達は我に返ったのでした。

「王族、貴族ですら、自分の行いの報いを受けるのだ。何人たりとも例外は無い。これから私が治めるグレース王国では、他者の尊厳を踏みにじる迫害、暴力の一切を禁じる。この禁を破った者は、自分の振るった暴力をそっくりそのまま味わってもらう。良いな」

 王族達の処刑に興奮していた国民達は、一瞬で静まり返りました。

 王族達を刑に処したのは、あくまでもこれまでの罪の為。

 しかし、王族達に残虐行為を働く事に喜びを感じれば、国民を嬉々として虐げていた王族や貴族達と同じなのです。

「これから私達は姿形にとらわれず、全ての国民、隣人と手を取り合っていこう。お互いを理解し、受け入れ、安心して老いていける国を造っていこう。前王の20年に渡る悪政は、今この時を持って終わった」

「マクシミリアン王、万歳!」

 広場に詰めていた解放軍の内の誰かが叫びました。

 その叫びは広場中に伝播し、王都の市街地へと広がっていきました。

 マクシミリアン様は、グレース王国の新たな王となったのです。




 マクシミリアン様の治世は3年程続きました。

 そして4年目に入ろうという時、マクシミリアン様は王族の血を僅かに引く侯爵家嫡男に王位を譲ったのでした。

 次代の王は御年14歳。

 チャーリー様が変わらずに宰相を務められますが、ザビ帝国の皇帝陛下が次代の王の後見につく事になりました。

 実質、グレース王国はザビ帝国の属国となったのです。

 マクシミリアン様は最初から在位期間は3年と決めていたそうなのです。

 その3年の内に、人材が育ち、グレース王国民だけで国政を回せるようになればと思ったそうなのですが、まともに仕事を出来る方がチャーリー様以外に育ちませんでした。長年顔だけで大臣を選び続けてきたグレース王国には、仕事を出来る人材がそもそも居なかったのです。

 ならば民の為にもグレース王国をザビ帝国に任せようと、マクシミリアン様は3年で結論付けたのだそうです。

 まあザビ帝国にとっては、グレース王国はザビ帝国の10分の一ほどの国土しかない、接収しても旨味の無い小国です。取り立てて産業も無く、宝石の出る鉱山はこの20年で無計画に採りつくされてしまいました。

 それでもザビ帝国がグレース王国を属国としてくれたのは、王国民の生活を守る為だったのです。ザビ帝国皇帝に取りなして下さったドールセン大将には感謝してもしきれません。


 とにもかくにも、マクシミリアン様は王位を返還なさいました。

 マクシミリアン様は国土解放の英雄として絶大な人気を誇るお方ですので、王都へ留まるようにと様々な方面から懇願されていらっしゃいました。ですが、マクシミリアン様は王都を私と共に去る事に決めたのです。

 マクシミリアン様が王都を去られて、困る方が沢山いらっしゃるのではと心配したのですが、マクシミリアン様は笑って言われました。

 

 皆は私ではなく豊穣の魔女を引き留めたかったのだぞ、と。

 

 マクシミリアン様から伺った所によると、マクシミリアン様が退位を決められた直後、ザビ皇帝陛下からグレース王国新国王に親書が届けられたのだそうです。

 親書にはマクシミリアン様と私の自由を保障する事を求められていたそうです。特に豊穣の魔女の意思を曲げて、その身を国内に留めるような真似をすれば、グレース王国を属国から隷属国へと即刻落とすぞと、脅しめいた文言があったのだそうです。

 知らぬ内に、随分と私達はザビ皇帝陛下から助けて頂いていたのですね。


 さて、マクシミリアン様が国王を務められていた間に増えた資産が一応あるのですが、まずは健康な体を使って働いて、日々の糧を得ようと私達は話をしておりました。

 どんな仕事をしようかとあれこれ考えていたのですが、なんと3年振りにドールセン大将が王都に私達を訪ねて来てくれたのでした。

 そして再会を喜ぶ私達に、ドールセン大将がタイミングの良すぎる話をするのです。

「解放王マクシミリアンと、豊穣の魔女よ。我が帝国に来て一仕事しないか」

 丁度仕事は探していたのですが、私達に出来る仕事なのでしょうか。顔を見合わせる私達を前にドールセン大将は呵々と笑います。

「解放王と豊穣の魔女の噂はザビ帝国でも広まっていてな、是非一度2人を帝国に招きたいと皇帝陛下も望んでおられる。1年後の皇帝陛下の結婚式には是非、解放王と魔女様には参列してもらいたいのだ。だが本題は、我が帝国の穀倉地帯に少しずつ広まる穀物の病の事でな」

 ドールセン大将のお話ですが、ザビ帝国の広大な穀倉地帯に少しばかり穀物の病が発生したのだそうです。被害としては小さな物でしたが、その穀物の病の様相が500年前の文献の作物の病と非常に似ているのだとか。

 豊穣の魔女が現れたのはこの病を退け、ザビ帝国を救うためだったのだと、今ザビ帝国では世論が盛り上がっているのだそうです。

「まあ、作物の病も杞憂なら良いが、ちと気になってな。観光がてら帝国まで2人で足を伸ばさないか?もちろん旅費は出すし、護衛も付ける。穀倉地帯を見て回ってくれたら、今度は帝都観光をしていってくれ。最後の最後に、ついでに皇帝陛下の結婚式に参列してくれたらいいさ。どうだ、悪い話ではなかろう?」

 大恩あるドールセン大将からのお願いです。

 私達に断る理由もありません。

「ドールセン大将、私達で出来る事があるならば喜んで協力しよう」

 マクシミリアン様と私はドールセン大将からの申し出を快諾し、それから話はトントン拍子に進み、ザビ帝国の地を今、私達は踏んでいます。



 私達はザビ帝国の国境すぐの農村を訪れています。

 確かに麦畑は一部分が枯れていました。私が土地の穢れを払えば、その一部分は見るまに周囲と同じ青々とした草を茂らせました。

 おおと、どよめく農村の方々。

「なんとありがたい。豊穣の魔女様、感謝いたします」

「こちらこそ、ザビ帝国の皆様にはお礼申し上げますわ。私もマクシミリアン様も、ドールセン大将とザビ皇帝陛下に沢山助けて頂きましたの。せめてものご恩返しです」

 恩返しと言いながら旅費は全てドールセン大将持ちという、少し申し訳ない感じなのですが、当のドールセン大将が旅費はこちらで持つと言って聞いて下さらなかったのです。ドールセン大将には、また何かの折にお返しが出来ればと思います。

 緑一面の麦畑となり、農村の皆さんもホッとした様子です。皆さんの憂いを払う事ができ、何よりでした。


 この村での私の役目は終わりました。案内の騎士様の後に続き、私はマクシミリアン様が操る馬に同乗し、異国の地、ザビ帝国の旅を続けます。

 私がまだ実家で飼い殺されていた頃、まさかこのような未来が私に待っているなんて思いもよりませんでした。同じく、王城で周囲の言いなりになっていたでしょうマクシミリアン様も、今のご自分を想像できなかったでしょう。

 人生を諦めかけた私でしたが、生きていればどうにかなるものなのですね。 


 私達を縛り付ける鎖も、閉じ込める檻も、最早ありません。

 何となくグレース王国に住もうかと思っておりましたが、心の赴くまま人々を助けて旅を続けるのも良いかもしれませんね。マクシミリアン様と私は、お互いが傍に居るならば、どの地に在ろうと構わないのです。 

                 

 どこまでも続く青空の下、私達は果てしなく自由です。


お読みいただきありがとうございました(^^)

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