その5
それからは電光石火の王都、王城奪還戦でした。
私達はザビ帝国から武器や武具の提供を受けて、金の王を守る親衛隊となりました。そのメンバーにはお針子や料理人の女性まで交じっています。人を遊ばせておく余裕などない総力戦です。肉の盾になってでも金の王を守る決意を皆、胸に抱いています。
そしてザビ帝国の援軍は圧巻でした。
ドールセン大将が援軍の総指揮をとり、国境の廃棄村まで大軍勢でやって来てくださったのですが、ザビ帝国の正規軍に混じってユニークな方々が集まる一団がいらっしゃったのです。
2メートルを超す筋骨隆々の男性や、2メートルに届かないまでも長身の逞しい女性の姿も見受けられます。その他、武装はしていらっしゃるのですが、片手や片足を失っている方が多数。皆さん義手や義足をつけておられます。
長身の方がいらっしゃると思いきや、逆に非常に背丈の小さい方々もいらっしゃいます。手足も短く、しかし体は厚みがあり力強そうな印象です。
「マクシミリアン王。この者達は、グレース王国を追われた者達だ。王族、貴族が言う美しさの規範から外れた者達らしいが、ザビ帝国ではグレース王国から逃れてくる者達を10年ほど前から受け入れていたのだ」
10年前から。
ドールセン大将のお父様を害した事で、グレース王国の箍が外れてしまったのでしょうか。それからどんどんと国がおかしくなっていったのかもしれません。
「この者達はドワーフ族と言う。元々はこの廃墟の住民だ」
なんと、この廃棄村の元の住民の皆さんでいらっしゃいましたか。そういわれれば、住宅跡は全てが小ぢんまりとして可愛らしいと思っていたのです。
「皆さま、この村の跡地を好き勝手してしまいましたわ。お許しくださいませ。でも皆さんのご自宅に残った色々な道具で、私達は生き延びる事が出来ました」
廃棄村で生き延びられたのは、集落の跡地に豊富に残されていた日用品があったから。
そういえば、そこまで品々は古びていないようでしたのに、住宅はどれもこれもが原型を留めない程に壊れておりました。
「豊穣の魔女様。我々の村をここまで蘇らせてくれて感謝する」
私が謝罪のため頭を下げますと、ドワーフ族の男性が近づいて来て私に返礼してくださいました。
「この水路が蘇ったのは嬉しいな。俺とロートの力作だ」
別のドワーフ族の方が、湧き水が集落を巡るように設計された水路を嬉しそうに眺めています。この水路のお陰で私達の生活は随分と楽になったのです。
「魔女様。俺達はこの村を軍隊に追われたんだ」
「まあ」
聞くも非道、グレース王国のまたしても理不尽な暴挙でした。
この集落はドワーフ族の集落として古くからこの地にあったそうなのですが、20年前にグレース王が現王に代替わりしてから国の様子が少しずつおかしくなったのだとか。
ドワーフ族はグレース王国の生活を支える技術の数々を長年提供してきたのですが、段々と王国での仕事がし辛くなってきたのだそうです。
仕事をキャンセルされるのは日常茶飯事、仕事の報酬を踏み倒される事も増えてきた矢先でした。親切な商売相手が、グレース王国軍が集落を襲う計画を立てているという情報を教えてくれたのだそうです。
ドワーフ族の皆さんはザビ帝国に逃げる算段をし始めました。そんな時にドールセン大将のお父様が命からがら集落に辿り着きました。他国の使節団にまでこのような非道を行うのかと、ドワーフ族の皆さんはドールセン大将のお父様の一件によりグレース王国を完全に見限ったのでした。
ドワーフ族の皆さんはドールセン大将のお父様を連れて、タッチの差でザビ帝国に逃げ込んだのだそうです。もぬけの殻の集落を見たグレース王国軍は腹いせに住居を壊して回ったのだろうというお話でした。
ドワーフ族の一件は空振りに終わりましたが、それからのグレース王国の亜人達への弾圧も酷いものだったのだそうです。周囲の国が逃げ延びてくる亜人達を保護しグレース王国に抗議を行っても、王国は知らぬ存ぜぬの一点張りだったそうです。
「魔女様方のお役に立てたんなら、俺達も技術者冥利に尽きるってもんだ」
ドワーフの皆さんは集落を拝借していたことを快くお許しくださいました。
しかし、ドワーフの皆さんも全員が武装をされていらっしゃいます。技術者の集落だったと伺ったのですが。
「俺達と付き合いがあった亜人達で、連絡が取れない奴等がいるんでさ。最悪、奴隷に落とされているかもしれない」
亜人の方々は迫害を受けただけではなく、捕らえられて尊厳を踏みにじられている方々もいるかもしれないというのです。
本当に、このような碌でもない国は、一度完全に壊してしまった方が良いかもしれません。
廃棄村もとい、元ドワーフ集落のヴィットル村には続々とザビ帝国から軍隊が集結してきます。皆さんが出陣の準備をしているなか、ドールセン大将がマクシミリアン様に近づいてきました。
「マクシミリアン王よ。自分の国を取り戻す聖戦に、現王を守る装束では格好が付かぬだろう」
そう言ってマクシミリアン様に手渡されたのは、真っ白の軍服と緋色のマントです。
「ありがたく頂戴する」
そう言って笑いながらマクシミリアン様はご衣装を受け取りました。
確かに王族を守る為の近衛兵の隊服ではこの戦に相応しくありませんね。新しい衣装に身を包んだマクシミリアン様のご立派な事と言ったら、廃棄村の私達はもちろん、ドワーフの皆さんもザビ帝国の皆さんも惚れ惚れと見とれておいででした。
「では、みんな。行こうか」
ザビ帝国が用意して下さった立派な黒馬に跨り、いよいよ王都に向けて私達は軍を進める事になりました。
この戦は聖戦であり、私達は解放軍です。
私達に立ち向かってくる国軍は、一般国民でもあります。美こそすべてと、ドワーフの皆さんや、生まれ持った容姿や、身体欠損等で国を追われた方々に害を成そうとするならば、こちらも迎え撃たなければなりません。
しかしマクシミリアン様は、最初に相対したグレース王国の兵達に問いかけました。
「お前達の家族に、親友に、王族を恐れて隠れ住まう者はいないか。顔の美醜に関わらず、全ての民が日の元に暮らす国を作る為に私は立ちあがったのだ」
マクシミリアン様の左にはドワーフ族の皆さま。右には義手、義足の上から勇ましく武装をし、家族や知り合いを解放するために戦に参加した皆さまが従っています。
「私達は同じ国の民として、手を取り合えるはずだ。恐れる事は無い。私はお前達の事も助けに来たのだ」
マクシミリアン様は馬上から降り、グレース王国軍に近づいて行きます。
なんとしたことでしょう。
マクシミリアン様が近づくにつれ、グレース軍の兵達は徐々に膝を折り、やがては目の前に立つマクシミリアン様に跪いたのでした。
「美しい者達だけの国など、何と歪で不健全な事であろうな。私は自分や愛する人が皺くちゃの老人になっても、笑って過ごせる国に住みたいのだ。お前達は違うか?」
「・・・いいえ、我らが王よ。我々グレース王国軍第4師団はあなた様に忠誠を誓います」
一番先頭で跪いた方が、マクシミリアン様に忠誠を誓いました。
そして一斉に首を垂れる第4師団の皆さまです。
マクシミリアン様はこのように戦わずして、軍を次々と手中に収めていきました。
私達は町や村に辿り着く度に、家々を検め、隠れ住んでいた人、あるいは家族に監禁紛いに隠されていた人々を解放して回りました。
そして街の規模が大きくなり、貴族の屋敷がある街での戦闘は免れませんでした。
私達廃棄村の面々はマクシミリアン様の肉の盾になる気満々だったのですが、颯爽とザビ帝国の軍隊が貴族の私兵や街の軍隊を制圧していきました。プロの方々を前に我々素人の出番が全くありません。
ザビ帝国の騎士様方からはマクシミリアン様の護衛を頼まれましたので、私達は戦闘からは離れてマクシミリアン様の護衛に徹する事といたしました。
解放軍はとうとう王都に入りました。そして王城に近づくにつれ、軍に所属する人々も貴族の方々が多くなり、マクシミリアン様のお話もますます相手に通じなくなります。
仕方が無いのです。
私達と現グレース王国の考え方は到底相容れないのですから。
国境から王都に向かいながら南下していった私達は、とうとう王都へと足を踏み入れました。周辺の街から異変が伝わっているのか、街中を歩いている人影は殆どありません。そして行く手を阻まれるかと思いましたが、王都を守る兵達も何故か居ません。
王都の大通りを進み、商店街を過ぎて貴族街に入りました。
私の実家が目と鼻の先です。
この貴族街から商店街までなんど買い物に走らされた事か。私は普段使用人のお仕着せを着ておりましたので、実家の正門を潜った事もありませんでした。実家の近くに解放軍の隊列が差し掛かり、いささか緊張をしていたのですが、なんと実家正門の鉄の門扉に手を掛けてこちらを窺っている女性が居たのです。
それは私の妹でした。
解放軍の隊列は、街の家々を検めながら、虐げられている人があれば救いながら、ゆっくりと移動していきます。
妹は私を見て、目を大きく見開くと、慌てて屋敷の中に戻っていきました。
私はマクシミリアン様に抱きかかえられて黒馬の上に居りましたので、隠れようもございませんでした。
「ナタリー、どうかしたか」
体を突如強張らせた私を、マクシミリアン様が心配して下さります。
「妹に見つかってしまいました。あちらが私の実家なのです」
とうとう家族との対決の時がやってきました。
マクシミリアン様は私を強く抱きしめてきます。
「この屋敷の制圧に君は付き添わなくてもいいのだぞ」
「いいえ。決着を付けますわ。腐れ縁は断ち切らなくては」
マクシミリアン様にはご心配頂きましたが、私は今日ここで家族と訣別したいと思ったのです。であれば嫌でも家族と対話せねばなりません。
「君に暴力を振るう素振りを見せたら、すぐさま君の家族を拘束する。抵抗すれば家族の命の保証もしない。それでいいだろうか」
「結構ですわ」
辺境からグレース王国を制圧してきた解放軍の噂は王都にまで轟いているでしょう。その飛ぶ鳥落とす勢いの解放軍に楯突くのならば、命が奪われても自業自得です。
私は家族と決別したいだけで、家族を庇う気はさらさらありませんので。
しばらくすると、屋敷の奥からドタバタとした足音と共にしばらくぶりに見る家族達が私に駆け寄ろうとしましたが、ドワーフの皆さんに斧や槍を突き付けられて足止めをされます。
「ナタリー!この恥知らずが!生きていたのか!その上反乱軍に与するなど、お前など私の娘ではない!勘当だ!」
父の言っている事は滅茶苦茶ですね。私を王族に売り渡し、用済みの私が崖下に捨てられた事などご存じでしょうに。そのような扱いをした私をまだ娘呼ばわりするとは。
しかし、私の容貌は実家に居た頃に比べてだいぶ変わってしまったかと思います。それでも私をナタリーだと認識できるとは、腐っても父親という事なのでしょうか。全く嬉しくはありませんが。
「お父様。結構ですわよ、喜んで勘当のお話をお受けいたします」
「ナ、ナタリー!お父様はあなたを心配しているのよ!いじけていないで早く帰っていらっしゃい!」
母の言う事も滅茶苦茶ですね。私がいじけて勘当を受け入れたと解釈できるやり取りが、先ほどの私と父の間にあったでしょうか。まあ昔から私の言う事は一切聞いてもらえませんでしたし、家族とは会話が成立したためしがありませんでしたので、それも今更ですね。
「いいえ、勘当で結構です。それでは皆さん、お元気で」
「ナタリー、良いから黙ってこっちに来い!ず、頭痛が酷くてどうにかなりそうだ!」
相変わらず会話は噛み合いませんが、今度は長兄が私に叫んできました。
「ずっと頭痛が治まらないんだ。早くこの痛みを吸い取れよ!」
どうやら長兄は慢性頭痛に悩まされていた様ですね。目の下のクマも黒々として、顔は吹き出物が酷いです。次兄も顔がむくんで、心なしか体もパンパンです。長兄も次兄も女性達に騒がれるハンサムな兄弟として有名でしたが、今は見る影もありません。
そして、長兄の痛みを吸い取れという発言に、マクシミリアン様が警戒を強めて私を更にしっかりと抱きしめてきました。
「ナタリー、私達は家族でしょう?家族は一緒に居るものよ。こちらに戻っていらっしゃい。あなた、その髪も肌も、いったいどうしたの?どうやってそんなに綺麗になったのかしら」
母の私に阿るような声を初めて聞きました。
母は年齢を感じさせない美しさを維持し、長年社交界の華として君臨してきたのですが、何故か今日はその華を感じません。目の下のクマ、目尻の皺、口元の皺が非常に目立っています。お化粧のノリが悪そうなので、余計に皺が目立つのでしょう。髪にも艶と張りがなく、ぺったりと頭部に張り付いています。ですが、年相応といえば相応です。母はもうすぐ50にもなるのですから。
そういえば、年の割に若々しいと、女性に未だ騒がれているらしかった父も今日はしょぼくれています。年相応の中年男性といった所です。
「ナタリー、いけない。血を分けた家族であろうと、切り捨てるんだ」
後ろからマクシミリアン様が私に諭すように言います。
そうですね。
私の家族はこの先も私の害にしかならないでしょう。私の周囲の人々にも迷惑がかかるかもしれません。私1人が耐え忍べばいいと思っていた以前の状況とはもう違うのです。
「はい、マクシミリアン様。分かっております。きちんと家族とお別れして参りますわ」
私は振り返り、マクシミリアン様に約束しました。
マクシミリアン様はしばし私を見つめてから、私を抱きかかえたまま黒馬からお降りになりました。
私が馬から降りると、家族達がにんまりと笑います。なんといいますか、性格が滲み出ているような嫌らしい笑みです。マクシミリアン様も顔を顰めています。
私に駆け寄ろうとした家族達でしたが、それをドールセン大将が阻みます。2メートルを超す巨体の威圧に、さすがの家族達も足を止めました。
「いくら家族と言えど、豊穣の魔女に無礼は許さん」
「魔女?!」
魔女の言葉に何故か妹が食いつきました。
「魔女、魔女って、お姉様が?!う、ふふ。あはは!可哀想だけど、お姉様にピッタリね。陰気なお姉様が魔女って、お似合いだわ!多少は・・・、前より見られるかもだけど、その白い髪は相変わらずだもの。老婆のような魔女はお姉様に相応しいわ!」
妹は私を馬鹿にするネタを見逃さないのです。
豊穣の魔女がザビ帝国において何を意味するのかも知らず、魔女を崇め奉る人々の前で妹は魔女の事を笑い続けました。ドールセン大将以下、ザビ帝国の援軍の皆さんの温度がひんやりと下がっていきます。
「こんな陰気なお姉様より私の方が良いでしょ。どう?あなたが望むなら、私お姉様の代わりにあなたの許に行っても構わなくってよ」
さらに妹は、あろう事かマクシミリアン様にも失礼な口を利いてしまったのです。
未来のグレース王に何たる無礼を働くのでしょうか。
しかし、妹だけは若さの所為か家族中でただ一人だけ美しさを維持していました。どこに行っても蝶よ花よと持て囃された妹は、自信満々にマクシミリアン様に自分を売り込みました。
しかし、マクシミリアン様の返事はにべもないものでした。
「お前のような醜い女は願い下げだ」
妹はマクシミリアン様の言葉の意味が分からないようで、笑顔を浮かべたまま固まっています。
「お前のような口汚い呪詛を吐き散らかす、悪意のみが詰まった肉袋など、私の美しいナタリーと比べるまでも無い。我が妃へ無礼を働いたこいつを捕らえろ」
マクシミリアン様の指示にドワーフの皆さんがすぐさま動きます。
「痛い!離してよ!!」
妹は手荒く後ろ手に縛られて罪人を乗せた荷馬車に押し込められてしまいました。
王都には亜人を奴隷として酷使していた貴族達がたくさんおり、全員が罪人として捕らえられています。
しかし妹が捕らえられたというのに、父も母も庇う素振りもみせません。
我が子よりも自分の身の方が可愛い人達ですので、今更驚きませんが。
そして、妹が私への態度を咎められて拘束された事を受け、家族は私に対して慎重に対応する事にしたようです。
「あの子は末っ子だったから、少し甘やかしてしまったかしら。家族みんながあなたをあの子と同じように思っているわけでは無いのよ。ナタリー、あなたは大切な私の娘なの。生きていてくれて嬉しいわ。どうか我が家に帰ってきてちょうだい」
母に猫なで声を掛けられて、感じたのは激しい嫌悪でした。
頭の天辺からつま先まで鳥肌が立つ思いです。
「お母さま、私はもう家には帰りませんわ。私はマクシミリアン様が望んでくださる限り、お側にいると決めたのです」
「・・・そう。帰っては、くれないのね。なら最後に握手でお別れしましょう。それ位いいでしょう?」
悲しげな表情を浮かべた母でしたが、隠しきれずに口の端に笑みを浮かべました。
「わかりましたわ」
私は母に向けて手を差し伸べました。
母はそれまでの取り繕った態度もかなぐり捨てて、私に飛び掛からん勢いで私の手を両手で握ってきました。目は血走り、口角はいまや両端が思い切り上に上がって歯も丸見えです。興奮した様子で私の両手に縋りついた母でしたが、しばらくするとパッと私から両手を放しました。
そしてペタペタと自分の顔を触り、頭を触りました。
「変だわ。いつもの感じがしないわ。ねえ、母様は綺麗?あなた?私はいつものように綺麗?」
母は兄達に詰め寄り、父に詰め寄りました。父と兄達は鬼気迫る母の様子に後ずさりをしています。母は何ら様子に変わりなく、今日会った時のままの草臥れた年相応の母でした。
「お、俺とも・・・」
お別れの握手を御所望でしょうか。
「お兄様。お会いするのはこれで最後でしょう。どうぞお元気で」
先ほどの母の常軌を逸した様子に警戒したドールセン大将と騎士様が私の前に立ちます。
次兄がおずおずと手を差し出してくるので、ドールセン大将と、ザビ帝国の騎士様が立ちはだかる間から私は兄へそっと手を差し出しました。
次兄が私の手を握ります。
それからしばらくして私と握手を続けながらも、空いている自分の手で自分の顔をペタペタと触ります。特に吹き出物が出ている辺りを念入りに。皮膚の炎症は弄らずにそっとしておいた方が良いと思いますけれど。
次兄は自分に変わりがない事を確認すると、がくりとその場に膝を付きました。綺麗好きな次兄が、今は膝が土に汚れるのも構わずに膝を付き、うなだれたままです。
「そうそう、みなさまに言っておきますわね」
私がドールセン大将とザビ帝国の騎士様の間から顔を出すと、父と母、長兄と次兄が、魂が抜けたようになっています。
良く見れば、彼らの着ている衣装も薄汚れていますね。屋敷には使用人達の姿も見えませんが、もう私の知った事ではありません。国の革命の最中、私の家族を守り支えようという忠義者は居なかったという事なのでしょう。
「私はもうあなた達の病も怪我も、老いも穢れも引き受ける事はいたしません。これからはご自分の行いが全てご自分の身に返るでしょう。今後はご自分の努力で美しさを維持してくださいませ」
まあ無理でしょうが。
私の家族達は夜会が大好きです。思うままに食べて飲んで、自分達をチヤホヤと持ち上げる腰ぎんちゃく達と一晩中遊び続ける事が何よりの娯楽なのです。ですが、今の姿の彼らをチヤホヤしてくれる腰ぎんちゃくがまだ残っているかはわかりませんけれど。