5話
馬車の中の他の採掘師が言うには、カラタン山はこの国有数の銀鉱山であり、純度がかなり高い銀鉱石が採れるようだ。
そのため、そんなに距離は離れていないにも拘わらず、採掘師専用の馬車が出るんだとか。
ちなみに、冒険者は既にベルフェンの街まで帰っていった。
「おい、新入り、そこしばらく掘っとけ」
「あいよ」
「おい、新入り、ここらの銀鉱石、向こうまで運んでくれ」
「ほいさ」
「おい、新入り、あれ持ってきてくれ」
「りょーかい」
「おい、新入り、そろそろ今日は解散だ」
とそんなこんなで労働1日目、なんと報酬は銀貨1枚だった。
このペースで1カ月も働けばいい貯金ができるんじゃないか?
――そしてあっという間に日は流れ。
およそ一カ月経ったころ、銀貨を追加で10枚、銀貨合計20枚の貯金が手元に残った!
採掘ギルドの安宿で、大体1日2食生活である。よくぞ頑張った。
一旦ベルフェンの街まで戻ろうか。
帰りの護衛は、先の冒険者たちとは異なるパーティーだった。
朝早くの専用の乗合馬車に乗り、夕方ごろにはベルフェンの街までたどり着いた。
ちょうど貯金もあることだし、街の観光を楽しみたいところだ。
俺はベルフェンの街をブラブラする。
既に夕暮れだが、街は人通りが多い。ちょうど仕事帰りだろうか?
途中の屋台で、お約束の串焼きを買い、道中でほおばる。
他にこれといって、何もないのだが、貯金と空腹が満たされ、ご満悦である。
――異世界最高かよ。
―そうだ、ポーション買わないと。
ポーションを消費してしまったことを思い出し、向かったその道具屋は、他の建物と同じようなレンガ造りであった。
だが他の建物とは異なり、ガラス張りの窓から、いくつかの道具類や何かの薬の瓶が飾られているのが見える。
「ポーション、ポーションと。」
発見。・・・って、1本銀貨1枚!?
「いらっしゃい。ポーション買っていくの? 」
カウンター越しに娘が話しかけてくる。
平均的な女性の身長で、赤茶けたポニーテールとエプロン姿が特徴的な美人というのが第一印象である。
「ああ。なあ、これ、高くないか? 」
俺はポーションを指さす。
「何を言っているのよ。ポーションなんてそんなものよ。」
「うーん・・・。」
「買うの? 買わないの? 」
「買おう。3本ほどくれ。」
「・・・はいこれ。あなた冒険者? そうは見えないけれど。」
「いいや、採掘師だ。」
「そうよね。最近はカラタン山の方もゴブリンが多いみたいね。」
「ああ、だが冒険者であれば問題ないはずだが? 」
「近くにゴブリンの巣があるという話よ? 冒険者で今度大きな討伐作戦があるらしいわ。」
俺もゴブリンの巣を探してみたい気はする。が。下手をすればトアレの遺跡まで一直線だろう。
あの日俺は危うくゴブリンに後れをとりそうになった。
しかし、あんなのが俺の実力であるはずがない。
あの子どものような冒険者も簡単にやってのけていたことだ。
「マジシャン」や「ソルジャー」といったスキルに頼らずとも、俺にだってできるはずだ!
ただし、銀貨。そう、銀貨はどこかに預けておいたほうがいいかもしれない。
「そういえば、どこか手持ちの金を預ける場所はないか? 」
「知らないの? 採掘師や冒険者はギルドに預けることができるはずよ。」
――銀貨をギルドに預けて、森に単身突入してみるか!
そう思い、採掘師ギルドに手持ちの金を預けてベルフェンの街の安宿に向かうのだった。
翌日、カラタン山まで向かう途中に存在するゴブリンの出現する森。
その森は、冒険者や採掘師からは普通にゴブリンの森と言われているらしい。
今思えば、とても向こう見ずなことだったと思う。
。
あたりをうろうろしていると、しばらくしてゴブリン4体に見つかってしまう。更に悪いことに、
不意打ちを食らう形になってしまった。
「やっべ!」
とりあえず逃げる! が、ゴブリンの矢にかかり、転げてしまう。
なんとか立て直そうとゴブリン3体と奮闘している間に。
「ギギギッ」後ろのゴブリンの長々とした詠唱が完了したようだ。
ファイアーアローの恰好の的になってしまう。
ズバン、ズバン。ファイアーアローを被弾してしまう!
―いや待て、こんなのひとたまりもない!
気が付いたらトアレの遺跡のタイムスタンプを設置した場所まで戻っていた。
スキルに頼らざるを得ないとは!