1話
俺はしがないサラリーマンだった。
それがどんな訳か、魔族と魔物が住む夢のような世界? に魔族として飛ばされた。
魔族は強くあらねばならない。強くなるために俺は各地を巡った。
女神像やら、朽ち果てた神殿跡、何の目的で使われていたか分からない謎の遺跡など。そこでは苦悶と憎悪の顔を浮かべて襲ってくる人間たちがいた。あれは、名のある戦士や騎士あるいは神官だったのかもしれない。
俺は、いわゆる異世界チートな数多くのスキルを使い、あれよあれよと、のし上がった。愛する人を失い、ついには魔族をも滅ぼした。
――そして誰もいなくなった。
不老、不死。瘴気のあふれるその世界ではただ生きることしかできず、そして俺の他には他に誰もいない。ただただ途方に暮れるしかない日々。
そんな退屈しかない日々を送りながら、ある時、俺は、崩れかけた遺跡を訪れた。そこで何もすることなく、とりあえず横になることにした。
――古の盟約により
何だそれ、そんなのあったか? だが懐かしい、夢だ。長い夢を見ていた気がする。
と思って起きたら、相変わらず、俺は遺跡前で寝ていた。しかし、その風景は土しかない暗い魔素のあふれる世界のそれではない。明るく、柔らかい風に草木がそよそよと揺れていた。
これは一体?
とりあえずは、もはや何度唱えたか分からない呪文、ステータス・オープンを言う。
結果、俺のステータスは見たこともないものになっていた。
名前:テラ 種族:魔族 状態:人間(変装中)
アクティブスキル:ソルジャー 1/1, マジシャン 1/1
パッシブスキル:変装、言語理解、精神状態異常耐性、ポーション中毒無効
特殊スキル:タイムスタンプ
HP:150 MP:30(変装中) 称号:名も無き者
装備:ただの服、ただの下着、ただの靴、鉄の剣、鉄の短剣、ポーション×2
なんじゃこれは! 今までの膨大なステータスはどこへやら。前の世界に転移したてのころに比べても遥かにも弱っちいのだ。
これは多分、こいつのせいだ・・・。
「変装」:人間の見た目をすると同時に、他者の鑑定を欺く。パッシブスキル。以下の項目は解析不可/やや強力な人間のステータスになること。
気を取り直して、俺はいつものようにあれを呼ぶことにする。
「インベントリ」
・・・しーん。
もう一度、「インベントリ」
どうやら収納を開くことはできないようだ。
スキルの詳細を確認したところ、俺が今すぐにでもやらないといけないことは、「ソルジャー」か「マジシャン」のスキルを「使用」してタイムスタンプを設置しないといけないということである。
以前の世界ではそれは素晴らしいステータスだったが、今の俺は一般人である。HP150などは、魔法一発で削れてしまうのではないか? そして、HPが失われたらどうなるか、分かったものではない。
―なるほど、このスキルは今の俺には必要不可欠だろう。
「タイムスタンプ」:「ソルジャー」もしくは「マジシャン」のスキルの使用を継続することで、この世界に最初に現れた地点に限り、タイムスタンプを設置することができる。タイムスタンプを設置中は、HPが失われたとしても、初期状態でタイムスタンプの場所に転移し、HPが全回復する。ポーション以外の初期装備も使用者と共に自動で転移し、また失われたとしても再度出現する。使用中はパッシブスキル。解除可能。解析不可。
多分、タイムスタンプ使用中は、ソルジャー又はマジシャンのスキルを使用できない代わりに、タイムスタンプをパッシブスキルとすることができるらしい。
俺は「ソルジャー」のスキルを使用し、遺跡の前の壁に「タイムスタンプ」を設置する。すると何か変なマークの魔法陣ができ、しばらくすると見えなくなった。どうやらこのスキルは初期転移位置に設置しなければならない制約があるようだ。
とりあえず、一旦は安心だ。どうやら遺跡からは道が続いているようだ。ここに留まっていても仕方ない。道なりに進んでみよう。
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