6 解答編
宇志峰家、前。
蝶野小雪を家に送り届け、戻るころには、既に空は暗くなっていた。
残暑厳しい九月でも夜は涼しくなるもので、街路樹や家庭菜園、庭が多い高級住宅街では、少なからず虫の音も聞こえる。
湿度の高い空気。さわがしい虫の音の中。
「まぁ、犯人は一人しか居ない訳ですが」
探偵はさらりと、宇志峰家前でそう言った。
「……相変わらず話が早いな、葦花」
聞き手は俺ひとり。
探偵は依頼人の家に戻る前に、テイクアウトしたハンバーガーを食べきってしまうつもりらしかった。
俺は、その雑談の付き合いという訳だ。
「おや、がしゃどくろさんはまだ分かっていらっしゃらない?
そんなのでは探偵助手失格ですよ。このくらいの謎解き、依頼人と顔を合わせた時に済ませておかないと」
「はぁ?」
訳が分からんぞ、という俺の声に、探偵は不敵に笑うことで返した。
月の見えない東京の夜である。
チカチカと照る街灯の灯に照らされ、探偵の黒いボブカットは濡れた鴉の羽根のように怪しい光沢を放つ。
俺を見て細まる銀の瞳も。
ハンバーガーの包み紙を握りつぶす白い指も、
全てが、俺にこう言ってやりたいのだろう――――謎は全て解けている、と。
「……冗談はやめておけよ、葦花」
「はい?」
こんな状況で、犯人が分かる訳がなかった。
事件のはじまりは、女子高生『紗理奈』が首を吊ったこと。
その母親である『沙耶』は、紗理奈が首を吊った理由が、彼女の友達によるいじめだと証言。
俺たちはいじめの証拠を確保してくるように依頼され、『小雪』という紗理奈の友人に接触……ここまでは、良い。まったく順調だ。
だが、盤面はひっくり返された。
紗理奈は自殺ではなく、呪いによる他殺だったのだ、と。
「葦花。お前が言う犯人ってのは誰だ?」
「そりゃあもう、紗理奈ちゃんを呪い殺した人物ですよ。『骸』を使う『骸繰』。私と、がしゃどくろさん。あなたの敵です」
「……手がかりがどこにも無いだろう」
紗理奈は被害者。
沙耶は紗理奈の母親で、依頼人。
小雪は……呪いに関しては被害者と言えるだろう。
このままでは、誰も犯人にはなりえない。犯人は、舞台にあがってすらいないのだ。
「……ふっ」
探偵は目を細めて微笑んだ。
口端があがっている。俺の右往左往を眺めている時特有の表情である。腹が立ったが、しかし、助手としてはハッキリ言わないといけない。
「……依頼人が犯人ってのはなしだぞ、葦花。小雪につっかかるあのおばさんの姿は見ただろ。俺が止めなきゃ殴ってた。自分が殺した娘のためにあそこまでキレる奴は、そうそういない」
「でしょうね。沙耶さんは犯人ではありません」
「小雪もそうだ。話を聞いてみれば、そもそもいじめが存在していない。カラオケに何度も一緒に行くようなダチだぞ? しかも小雪は、あの性格。門限に帰ろうとするのを止めたのも一回だけ」
「でしょう。そうでしょう。小雪ちゃんも悪くありません」
じゃあ、誰が?
俺は頭を回した。
ただ自殺しただけの少女なら、憐憫の対象だ。
だが、それが『骸』に殺されたとなれば――俺にとって、話は別になる。
「……まだ紗理奈の遺書を読んでいない。そこに手がかりがあると思うんだが……」
少しでも手がかりを集め、一刻も早く、犯人をぶん殴る必要がある。
俺がむしゃくしゃするからだ。
「――――ところで」
むしゃくしゃする俺を見て、探偵は愉快そうに笑った。
「宇志峰紗理奈の父親は、今、どこにいるんでしょうね?」
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