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4 首吊り“殺人”事件④

ハンバーガーたべたい

 都内、ハンバーガーチェーン。


「ではクワトロテリヤキバーガーとヘキサゴンチーズバーガーをそれぞれセットで。あ、備え付けのポテトはグランドサイズでお願いします。飲み物は……うーん……どっちもギガノトサイズのコーラでいいや。あと単品でシーフードバーガーを十七個お願いします。あ、小雪ちゃんは何たべます?」

「……????」


 探偵は、重要参考人への聞き取りを開始した。



 店内は混み始めていた。

 帰宅ラッシュと重なったのか、ひと仕事終えたサラリーマンと中高生が目立つ。それらの視線を大量のフライドポテトとハンバーガーの山で遮り、探偵と蝶野小雪(ちょうの こゆき)は対面した。


「さぁ放課後女子高生トークタイムのお時間です。こういうの憧れてたんですよね」

「お前友達いないもんな」

「いますけど? ネットにはたくさんいますけど?」

「ひぃっ」


 俺の顔面をハンバーガーで遮る、探偵。


「さ、怖い怖い悪霊さんは退散しましたよ。お話聞かせてくださいね」


 ほがらかな雰囲気の、探偵。

 声は優しく穏やかだが、表情の張り付いたマリア像のような優しい笑みの不気味さは変わっていない。小雪が俺と探偵のどちらに怯えているかよく分からない構図だった。


「……すいません」

「何を謝ることがあるんです?」


 首をかしげる探偵に、小雪は言った。


「さっき助けてもらったのに……その、こわくって……」


 助けた記憶を思い出す。

 そういえば、そうだ。暴力沙汰を避けようとしただけだったが、たしかに、見ようによっては俺が依頼人の拳から小雪を守ったようにも見えた。


「青白い炎に包まれた四肢欠損状態の死体なんて怖いに決まってるじゃないですか、

 気にしなくていいですよ」


 冷静に分析されると怖いな……。

 さておき。


「やっぱり、見えてるんだな。あんた」

「……はい。昔から、よく見えちゃうほうで」


 小雪はおどおどとしながら答えた。

 霊感。

 悪霊の実在が証明されるはるか以前からあった概念だ。霊感がある人間というのは生まれながらに生命エネルギーの受容体……悪霊を見る専用の眼のような器官が、眼球か鼻か耳か脳内かにあるらしい。

 もちろん、それでもエネルギーをはっきり見るのは難しいが……

 俺のような『骸』……意思を持つほどに濃厚な、悪霊とも呼ばれるエネルギー体……なら、はっきりと見えるようだ。


 可哀想な体質だ。

 俺みたいなもの、見えない人生の方が幸せだろうに。


「しかも声が聞こえてるときたか、ふぅん、へぇ、そうですねぇ」

「……葦花」

「もったいぶりませんから私のクアトロテリヤキバーガーに触れようとしないでくださいうま味が死んでしまいます」


 こほん、と咳払いする探偵。



「あなた、『骸』に襲われましたね。しかもつい最近」



 さらりと言った探偵の言葉に、小雪は驚きの表情で頷いた。

 やはり、と目を細める探偵。


「何もできなかった……あなたは宇志峰家の玄関で、そう言ったらしいですが」

「は、はぁ……」

「相手は『骸装』だったんでしょう。ただの人間では太刀打ちできないのも当然です」

「……なんでそこまで分かるんだ、葦花」


 探偵は鼻で笑った。


「感覚が鋭くなりすぎています。人間が暗闇で生活すれば視力が衰えるように、無音の空間では耳が衰えるように……ふつう、霊感というのは使われず衰えた状態になっている筈です。

 ぼんやり悪霊が見える程度。

 声のようなものが聞こえる程度。

 小雪さんは、がしゃどくろさん。あなたと普通に会話し、しかも()()が見えるほど、感覚が鋭敏になっている」


 一息つき、もっもっもっとデカいハンバーガーにかぶりつく、探偵。

 俺は静かに納得した。なるほど、怯える筈だ。俺だって、時々自分の姿に怯えることができる。


 ……依頼人の腕に痣を遺した、俺の見えない腕。

 意識しなければ見えない。

 あんなものが年中視界に入っていれば、死者でも狂う。


 俺が腕を隠すと、小雪のおどおどとした腰の引けた空気が、少し収まる。

 見えているのだ。探偵以上に。

 探偵はハンバーガーを平らげた。


「残さず話してください。ハンバーガーを食べながら聞きましょう。

 誓っても構いません。

 私は、あなたの証言を、()()()()()()()()()()()()()()


 蝶野小雪は少し迷うそぶりを見せ。

 探偵がポテトを食べきったころ、口を開いた。

誰がなんと言おうとミステリーです

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