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「好き」


 今日は佳奈さんときちんと話そうと思う。

 今の佳奈さんの体の状態と、これから起こると予想される変化。それから彼女に残された時間……。

 それは辛く悲しい現実だけど、向き合わなきゃいけないって南が教えてくれた。

 それから、今できる治療に、医療の限界。

 包み隠さず話して、佳奈さん自身に決めてもらおう。それを決めるのは俺達医師でも、南達看護師でもない。

 でも決めていた。どんな結論が出ても、俺は最期まで佳奈さんを支えるって。

 それに、これからは周りの人間に優しくしよう。

 いつまでも器械出しが上手くならないオペナースも、世間話が好きな看護師達にも。

 だって俺は、たくさんの人に支えられて医師という責任を果たすことができているってわかったから。

 全部、南が教えてくれた。



 でも、やっぱり佳奈さんと向き合うのは怖い。

 不安から動けないでいる俺に、南が笑いかけてくれる。もう何度もこの笑顔に救われてきた。

「先生、非常階段《いつもの場所》で待ってますから、終わったら顔を出してください」

「あ、うん」

「頑張ってくださいね」

 突然南が頭を撫でてくれたから、驚いて目を見開く。サラサラと髪が揺れる度に、頬に熱が籠っていった。

 ずっと年下だと思っていた南がやけに男らしく見えて……心臓がドキドキ鳴り響く。南を恋愛対象としてはっきりと自覚してしまったことに、戸惑いを感じた。

 一人で佳奈さんの病室へと向かう。今日は雨が降るんだろうか。空が今にも泣き出しそうだ。

 佳奈さんはどんな反応をするだろう。

 「見捨てられた」って俺を恨むかもしれない。彼女に真実を伝えることに躊躇いを感じたけど、南が待っていてくれる……そう思うだけで、勇気をもらえた気がした。



◇◆◇◆



 フラフラする足取りで廊下を歩き、重たい非常階段の扉を開ければ……目の前に夜景が広がる。ビルの明かりがまるで宝石みたいにキラキラ輝いて、玩具のような車が走っている。

 冷たい夜風に思わず目を細めた。

「あ、先生。お疲れ様です」

「うん、お疲れ。待たせてごめんな」

「いえ全然」

 階段に座っている南の隣に座り込んだ。やっぱり、こいつの隣にいると呼吸がしやすい……緊張から浅くなっていた呼吸を整えた。

「杉山さんはどうでしたか?」

「佳奈さんは無力な俺を責めたり、見捨てられた……なんて一言も言わなかった。ただ『ありがとうございます』って笑いながら泣いてた」

「そっか……」

「残された時間を、家で家族と過ごしたいって言ってた」

「そうなんですね……」

 少しだけ甘えたくて、心配そうに俺を見つめる南の肩にそっともたれ掛かる。スクラブ越しに伝わってくる体温が心地いい。

「先生、めちゃくちゃかっこいいです」

「バァカ」

「俺、この病棟に来てよかった」

 幸せそうに笑う南を見上げる。

 俺だって思う。お前と出会えて良かったって。

 でも本当に意味がわからない。南と一緒にいると幸せなのに苦しくて泣きたくなってしまう。

 キスをすれば蕩けてしまいそうなくらい気持ちいいのに、触れるのが凄く怖い。



 なんなんだよ、この気持ちは……心臓が痛くて仕方ないし、肺が上手く酸素を取り入れてくれない。

 苦しくて苦しくて、でもこの気持ちに見て見ぬふりなんて、もうできるはずなんてない。

 南とずっと一緒にいたい。



「先生、大丈夫ですか? 泣きそうな顔してる」

 俺を心配そうに覗き込む。

 大丈夫? じゃねぇよ……誰のせいで泣きそうになってるかもしらないで。

 誰のせいで……。

「苦しいよぉ、馬鹿南。南といると苦しくて仕方ない。心臓は痛いし、呼吸も苦しい。お前看護師だろ? どうにかしろよ」

 俺はギュッと南に抱きついた。

 涙が自然に溢れてきたけど、もうそんなものはどうでもよかった。南のスクラブにシミがいくつもできる。

「苦しくて辛い……もうこんなの嫌だ……お前を見てると疲れる……」

 その瞬間、そっと俺の背中に腕が回されて強く抱き締め返される。あまりの力強さに一瞬息が止まりそうになった。

「ふふっ。馬鹿は先生でしょ? それは恋ですよ」

「……恋……」

「そう。あなたは俺のことが好きなんです」

「嘘だ……」

「嘘じゃない。だってあなたの心臓はこんなにも正直で、俺のことが好きだって叫んでます」



 俺が南に恋……恋……。



 瀧澤と別れたとき、あまりにも辛くて。もう一生恋なんかしないと心に誓った。

 それなのに、俺はまた恋をしてしまったなんて……。

 それを認めたくなくて。パズルのピースをバラバラに崩して見ないフリをしていた。でも自分でも気付かないうちに、パズルは完成してしまっていたんだ。



「俺のことを好きだって認めても大丈夫ですよ。一生大事にしますから」

「嫌だ、認めたくない」

「駄目です。こんなにも辛抱強く待っていたんですから、もう離しません」



 俺を抱き締める腕に更に力が込められて……。

 苦しい、苦しいよ、南……。



「もう絶対に離さない。あなたは、俺のものだ」

「ん……ッ……ふッ……」

 少しだけ強引に唇を奪われてしまい、呼吸ができなくなる。それでも、夢中で南の口付けを受け止めた。

「月居先生……ううん、蓮さん。俺のこと好き?」

「わ、わかんねぇよ、急に言われても」

「なら体でわからせてやりましょうか」

「え……?」

「ベッドでトロトロに蕩けさせて……泣きながら俺のことを好きって言わせてあげます」

「……や、やめて……恥ずかしい……」

「なんですか?それ……反則でしょ……」

「あ……ッ……あぅ……んッ……」



 あぁ、素直に「好き」って言えたら……どんなにいいだろうか……。

 最後まで素直になれない唇は、南に塞がれてしまい何も言えなくなってしまった。





【END】





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