愛を忘れたネコ
ここは閑静な住宅街。
住宅地を走る道路の片隅に「拾ってください」と書かれた紙が張ってあるダンボールがあります。
ダンボールの中には無表情な白いネコが1匹いました。
名前は・・・『太郎』『シロ』『タマ』『ジュリアン』『ネココ』『トシ』と色々とあり、他にも一杯あります。
飼い主が変わるたびに名前も変わってきたので、いちいち覚えてはいません。
野良となった今は『ケビン』と名乗っています。
ケビンは何度も拾われて、捨てられてきたネコでした。
「♪にゃにゃにゃ~♪にゃにゃにゃ~」
ケビンは滅多に笑いません。
昔はよく笑っていましたが、最近は笑うことができなくなってしまいました。
「♪ニャ~ニャニャ~♪にゃ!♪にゃ~にゃ~」
ケビンは笑うことができなくなった自分自身のことが嫌で、無理にでも笑えるようになろうと、歌を歌うことにしました。
楽しいことを考えて、楽しい歌を唄えば、きっと笑えるようになると思ったからです。
でも無表情で歌を唄う姿は、他の人の目には『奇妙』に映り、人はケビンを倦厭するようになりました。
それを知りつつもケビンは唄い続けました。
昔のように笑えるようになって、昔のような幸せな生活を取り戻したいという一心で・・・。
ケビンに友達がいました、渡り鳥のジェイクです。
ジェイクは国中を旅しているため、とても博学で色々な話しをケビンにしてくれます。
ケビンはそんなジェイクのことが好きでした。
そして尊敬もしています。
ジェイクの頭の良さや、話しの上手さも尊敬に値しますが、何よりジェイクは飛び切りの笑顔ができるからです。
「笑えるようになったかい、ケビン?」
ジェイクが尋ねます。
「いいや、この通りさ・・・。」
ケビンはいつものように無表情で答えます。
でもジェイクには、ケビンの落胆ぶりがよくわかりました。
「ジェイク、君は今回の旅で答えは見つけてきてくれたかい?」
ケビンはジェイクに自分の悩みを打ち明けていました。
どうしたら笑えるようになるのか、何をすれば笑顔を取り戻せるのか。
ジェイクは旅の中で答えを探してきてくれると言ってくれました。
「ああ、ケビン・・・やっとわかったよ。」
ジェイクは静かに言います。
「ケビン、君に足りないものは『愛』だよ。」
「愛?」
ケビンはジェイクの予想もしなかった言葉にびっくりしました。
「愛って、あの愛のことかい?」
「そう、愛、人を愛することさ。」
真面目に話すジェイク、しかしケビンはジェイクの話を聞いて眉をひそめます。
「ジェイク、僕は笑いたいんだ。愛なんて関係ないじゃないか・・・。」
「違うよ!ケビン!」
ジェイクは強い調子でケビンの言葉を否定します。
「君が笑えないのは、愛が足りないからなんだ。愛の暖かさがあれば自然に笑みがこぼれるんだよ。」
自信たっぷりにジェイクは言います。
しかしケビンは寂しそうに顔を逸らしてしまいました。
「・・・でも僕はもう愛というものを信じないことにしているんだ。」
「・・・・・。」
ジェイクは黙ってケビンの話を聞いています。
「人間は僕のことを愛していると言いながら、飽きたらすぐに僕を捨てた・・・。愛なんてモロイものなんだ・・・。」
「確かに他の人からもらう愛に確実なものはない。」
ジェイクは真面目な顔をでそう言うと、一転満面の笑みでこう言いました。
「でもね、愛は自分で見つけるものなんだよ。」
「自分で?」
ケビンは不思議そうな顔でジェイクのことを見ます。
「なんでもそうさ、人からもらったものはモロイ・・・でも自分で見つけたものは絶対さ。」
「・・・・・。」
「君もこんな所にいつまでもいないで、自分だけの愛を探しに行かなきゃ!」
それを聞いたケビンは不安そうにジェイクに尋ねました。
「僕は・・・僕は愛を見つけられるだろうか?」
「もちろんだよ!」
そう言ってジェイクはもう1度ニッコリ笑いました。
「・・・ありがとう、ジェイク!」
友達の励ましに『愛』を感じたケビンもニッコリと微笑みました。
これからは僕も他の人が心から笑顔でいられるように人を愛そう。
そう心に誓いました。