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指切り

作者: 一色 良薬

 僕は怒っていないよ。人の心は移り変わる。自分では認識していなくとも、年を重ねるごとに興味関心を抱くものが変化する。たとえその対象が永遠の愛を誓った相手でも、ね。

 世の中はすぐに不誠実だの不貞だの、尖った声がうるさくてかなわない。これは僕らの問題であって、他人からどうこう言われる筋合いはない話だ。君もそう思うだろう?

 第一僕は君の浮気を咎めようと思っていない。僕や妻より年が二回り以上も下だったとしても、僕より稼ぎが三倍以上あったとしても、僕よりスマートで華やかな男だったとしても。逆にどうして浮気せずにいられるかって考えるほどだよ。涎が出るほどに魅力的な男じゃないか。

 誰がどう考えたってお先真っ暗な初老の男より、その男を選ぶって話だろう。プライド? 傷付けられたと感じるほど、僕は相手の男と同じ土俵にも立ててもいない。完敗ってやつだ。勝負する前から白旗を振る勢いだよ。勝てない勝負はしない主義なんだ。

 妻と浮気相手の男が僕のベッドで熱い抱擁に夢中になっている現場を見ても、妻に「長年申し訳なかった」という謝罪が込み上げたくらいだ。随分前から僕は不能だったからね。三大欲求を満たしてあげられないのは、男の務めとしては全く果たせていない。

 同じことを繰り返し言わせてもらうけど、僕は浮気をされても仕方がない夫だったんだ。

 恨み? まさか! そんな醜い感情は一切持ち合わせていないよ。これだから外野は単純な物差しでしか測れない。

 え? あぁ妻の指輪? もちろんこの場にあるとも。僕と彼女の“永遠”を形にしたものだからね。妻が離婚すると言ったので返してもらったんだ。

 何も指まで切り落とさなくても?

 あのねぇ。この指を含めて僕が心を捧げた“永遠”なんだ。僕はこの指に一生を誓った。不倫した末に離婚してもいい。だけど永遠を約束した左指は置いて行ってもらわないと割に合わないじゃないか。

 さて、そろそろ取調を終わらせてもらってもいいかな?

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