シロがピンクに染まるとき(8)
白谷吟の言葉に、私は小首を傾げる。その途端、頭の上に乗っていたシロ先輩の手がずり落ちてきた。私の髪を撫でるようにスッと手が滑り落ちていったのは、僅か数瞬のこと。その間、私とシロ先輩の視線は、状況を理解しないままに重なり合う。
シロ先輩の手がプランと所在なげに落ちた瞬間、私は、自分のしでかした事に気がついて、体の内から声を発した。
「きゃーーーーーー」
突然、頓狂な声をあげた私の口を、シロ先輩の手が咄嗟に塞ぐ。
「クロ。うるさいぞ! まるで俺がお前に何かしたみたいじゃないか」
「……す、すみません……その……いろいろと」
口を塞がれたままモゴモゴと謝る。そんな私たちの間には、先ほどまでの蟠りなどすっかり無くなり、いつも通りの空気と、幾分かの気恥ずかしさが漂っている。
「ったく、お前は」
呆れたように私を一瞥してから、シロ先輩は手を退けてくれた。それから、私の頭をポンと叩く。
「ほら、飯行くぞ」
呆けたように立ち尽くす私を残し、シロ先輩は先を歩き出した。すれ違いざま、シロ先輩の香りが、ふわりと鼻腔を掠める。今まで意識したことがなかったけれど、シロ先輩はとてもいい匂いだ。
そんなことを思いながら、口元に手を当てる。先ほど塞がれた唇が熱を持っているように熱い気がした。ドキドキと胸が高鳴る。
「さ、行きましょうか。明日花さん」
ニヤニヤとした笑いを張り付けたままの萌乃が、私の顔を覗き込んできた。
「萌ちゃん、私……」
「素直が一番だと思いますよ」
萌乃は、何とは言わずそれだけを言うと、棒立ちのままの私の背中を軽く押した。押し出されるようにして、私は、シロ先輩たちの後ろを歩き出す。
目の前では、何か言ったらしい白谷吟の事をシロ先輩がうるさそうにあしらっている。よく見れば、その耳は真っ赤に染まっていた。
そんなシロ先輩の後ろ姿に、ドキドキが止まらない。
これはもう、完全に私は……。
自分の気持ちに観念する。
ドキドキとうるさく鳴り続ける鼓動。認めてしまえばなんてことはない。ドキリと撥ねる度に、私の心はピンク色に染まっていく。きっと私の心は、すぐにでもピンク一色になるだろう。そしたら次は、シロ先輩の心を……
早くなる自分の鼓動に耳を傾けつつ、そんなことを思いながら、私はシロ先輩の後ろ姿を追いかける。
もしかしたら、もう染まり始めてるの?
自分の気持ちを自覚したばかりだと言うのに、私の心は、早くも欲張りな考えにドキドキが止まらない。




