シロがピンクに染まるとき(2)
「まぁ、あの爽やかスマイルは、シロ先輩には無理ですもんね」
そんな憎まれ口を叩きながら、シロ先輩に倣い腰を上げかけた私の頭に大きな手が置かれたかと思うと、グリグリと髪を乱された。
「なんだぁ、クロ。やっぱり、お前も吟狙いなのか?」
私の顔を覗き込むようにして、悪戯に私の頭を撫で回すその手を瞬時に払い除けながら、少し頬を膨らませてみせる。
「ちょっと。やめてください。髪が乱れるじゃないですかぁ」
「へぇへぇ。それは悪かったな。これから吟と合流だもんな。綺麗にしておかないとだよな」
私からスッと視線を外し、ぶっきらぼうにそう言ったシロ先輩は、一人待ち合わせ場所に向けて歩き出した。
「待ってください。先輩」
私は、乱れた髪を手櫛で直しながら、慌ててシロ先輩の背中を追いかける。突然駆け出したからか、鼓動が一段と速くなった。
先輩に追いつき、チラリと横顔を盗み見る。
心臓がドキリと大きく跳ねた。
なんか、怒ってる?
ムスリとした顔で、黙々と歩くシロ先輩に心がソワソワと騒ぎ出した。
「あの、シロ先輩。何か怒ってます?」
「別に」
言葉少なに返された答えに、さらに心が波立つ。絶対、怒ってるじゃん。
「あ、さっき、手を払った事ですか? だって、あれは、シロ先輩が酷いじゃないですか? 髪を乱すから」
「悪かったな! 吟の前では、綺麗にしとかなきゃだよな」
「なんでここで白谷先輩の名前が出てくるんですか? 別に白谷先輩に関係なく、髪を乱されたら、やめてって言いますよね? 誰だって」
売り言葉に買い言葉。言い合いがヒートアップするにつれて、心の中の騒めきも大きくなる。ソワソワからムカムカへ。ムカムカからバクバクへ。
バクバクと太鼓を叩くように打ち付ける心臓の音が、さらに私をヒートアップさせる。
「そもそも、なんで先輩はいつも、私の髪を乱すんですか? 私、アレ嫌なんですけど」
「しょーがないだろ。お前の頭は手が置きやすいんだよ」
「はぁ? 意味わかんないんですけど!」
ふんと鼻を鳴らして、そっぽを向く。
前言撤回だ。こんなデリカシーのない男にドキドキとときめくなんて、どうかしている。不意打ちで萌乃に言われて少し気になっただけだ。気の迷い。そう。そうに決まっている。
怒りでバクバクと打ち付ける心臓を抑え込むように、私は大きく息を吐いた。それなのに、ちっとも騒がしい鼓動は収まらない。
もう、うるさい!
いつまで経っても落ち着かない自分の心臓にまでイライラとする。




