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第16話 戦い(前編)

「全く、組織ってのは実に分かりやすくて面白い。行動原理が完全に読めるからね」

 戦いを前にした先生は、何やら余裕そうな笑みを浮かべていた。

「もし鷹司君の面前に能力者が現れたら、組織は彼女の記憶を消そうとするだろう。しかし、彼女の力は能力の無効化。記憶消去の術なんて効くわけない。だとしたら、UMTの使い手が消去の術をかけるかもしれないことぐらいは容易に想像がついたよ。強引にやれば、記憶を消せるかもしれないからね。組織としては、能力者の記憶を持った奴がいなくなればそれでいい」

「……」

「本来なら、君がUMTを使って記憶消去の術をかけた時点で、私はここに召還されることになっていたんだけれどね。しかし、やめておいたよ。UMTの力がどれほどのものなのか確認しておきたかったからね。即ち、鷹司亜子の持つ無効化能力をも弾き飛ばす力が、UMTにはあるのか、ないのか。答えは、あった。現に、鷹司君は記憶を失い、そして君が再び記憶を取り戻そうと術をかけにきた」

 わざわざ、長々と説明しながら高笑いする先生を、俺はじっと見つめていた。もちろん、俺は何もしないし、何も言わない。こういうお馬鹿な敵は、喋りたいだけ喋らせてやればいいのだ。その方がこっちもいろいろと情報を仕入れることができる。

 それにしても、鷹司の能力が『能力無効化(マジックキャンセル)』だったとは驚いたね。能力を緩和する力は、割とポピュラーだったから、無効化能力なんてものが存在してもおかしくはないと思っていたけれど、よもや、鷹司がその使い手だったとは……。

「先生よ! ちなみにあなたはなぜUMTを欲する?」

 俺は怒鳴るように尋ねてみた。

「なぜ? 分からんか? それは世界最強の宝具だよ。普通、誰だって欲しいだろう」

 そりゃそうだ。だが、こいつは、今となってはUMTを使用できる人間が俺だけってことを知らないのだろうか。俺と血の繋がりがない先生がこれを手に入れたって、ただのペンダントに過ぎないんだぜ。

「くっくくく。心配は御無用さ」

 先生はにたりと笑って、身構えた。

「そろそろ御喋りはやめにしようかな」

 そう言うなり、彼はその全身に凄まじき力を蓄え始めた。それまでのこいつからは考えられないほど、強大な力だった。

「望むところさ」

 俺も御喋りなんかよりは、早く戦いたかったのだ。先生が戦う気なら、受けて立つ。最強能力者と言われた俺の力を見せてやるぜ。



 睨みあう。

 互いの力の波動が絶妙に重なり合って、先ほどからバチバチと凄まじき激しき音を張り上げている。

 しかし、そんなことより特筆すべきは、先生の容貌がみるみるうちに変容していったことであろう。それまでの端正な顔立ちは、まさに鬼のようになっていったし、そのすらっとした体は、筋肉が隆起して、どんどん大きくなっている。

「なんだ、この力は……」

 物知り参謀のランですら驚いている。

「この前の模擬試合のときとは全く違う。根本的に力の質が全く違うぞ」

 それは俺も思う。この前の時とは、全く別人のようだ。凄まじき殺気、凄まじきパワー。こうやって対峙しているだけで、体がぶるぶると震えるなんて、何年ぶりのことだったろう。

「油断するなよ」

 と、ランが言うと、

「分かってるさ」

 俺は大きく頷いて、改めて、なんだか化け物のようになった先生の凄まじき形相を睨みつけていた。



 戦いが始まった。

 双方空に舞い上がっての凄まじき空中戦である。既に俺と鷹司の学生寮は、凄まじき力と力のぶつかり合いの中で吹っ飛び、変容した世界の住民も、三条の催眠能力によって意識を失っていた。

 即ち、俺と先生と三条の三人しかいない世界。

 俺と先生は空中で、激しい近接戦闘を演じていた。

 


 殴る、蹴る。殴られ、蹴られる。

 お互い、その手足に凄まじきパワーを宿らせているから、その威力はプロボクサーの比ではないほど強力だった。とはいえ、お互いに防御結界(バリアー)を張っているから、実際に受けるダメージはほとんどないのだが……。

 それでも殴りあう。蹴りあうのだった。結果、先生が吹っ飛んだ。俺が蹴り飛ばしたのだ。凄まじい勢いで吹っ飛び、立ち並ぶ家々を悉くぶっ壊して着地した先生は、空に舞う俺をぎろりと睨みつけながら、

「やるね」

 と、呟いていた。

「先生! 確かに先生は圧倒的に強くなりましたけどね、その程度じゃ全然俺には敵いませんよ。俺はまだ、60%ぐらいしか力を出していないんですよ」

 実際、俺にはまだまだ余裕がある。まあ、60%ってのは誇張表現だけれど、今のところ65%ぐらいしか出していない。

「そう、か。じゃあ、私ももう少し力を出してみるかな」

 先生はにやりと不敵な笑みを漏らすと、再び起き上がって、力を込め始めた。確かに言葉通り、その力は先ほどより強くなっているようだった。

「どうだ、あれが先生の全力だと思うか?」

 とりあえず、俺はランに尋ねてみた。

「分からんな。だが、なんだか先生の顔、随分と無理をしているように見えないか?」

「無理?」

「そうだ」

 確かに力を込めている先生の顔つきは非常に辛そうだった。それこそ、無理やり力を行使している感じ……。

「まさか」

 俺が素っ頓狂な声を上げると、

「たぶんな」

 ランが頷く。

「なら、先生のためにも一瞬で終わらせた方がいいな」

 そんな俺の言葉に、

「そうだな」

 ランは頷いた。



 戦いが再び始まる。

 と言っても、ほとんど一方的に俺が優勢の戦い。確かに先生はさらに強くなったが、俺も今回ばかりはかなり力を強めている。うーん、大体全力の80%弱ってところかな。ま、久しぶりに80%近い力を使えたから、満足かな。

 近接戦闘。

 殴る、蹴る。けれども防御結界を超えてクリティカルヒットするのは、悉く俺の攻撃。先生の攻撃は全て俺の結界に阻まれ、大した効果を上げなかった。

 再び先生を蹴り飛ばした俺は、手を天に掲げて、力を蓄えた。さながら丸いボールのような光球が生み出され、ある程度力が膨れ上がったところで、俺はそれを思い切り放り投げた。

 どでかい光球は一目散に先生の下を目指し、そして爆発した。まるでキノコ雲のような凄まじき爆煙が立ち込め、辺りの街並みが一斉に吹っ飛んだ。

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