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第15話 現れた敵

「誰って、朝も言ったでしょ。私はあなたのルームメイト。彼女は三条さん」

 ちょっと困る。

 鷹司は相変わらずきょとんと俺たちを見つめていたが、

「ああ」

 と、ぽんと手を叩くと、ほとんど生気の宿らぬ死んだ目を浮かべたまま、にっこりとおぞましき笑みを見せた。

「やっぱり、重傷ね」

 三条が困ったように呟くと、

「俺の力はやっぱ完璧だ」

 俺は、思わず、全く他人事のように、勝ち誇ったような笑みを浮かべてしまった。

「バカ! 喜んでんじゃないわよ。いーい、あんたはこれからその完璧な力とやらで彼女の記憶を取り戻すのよ。分かってんの?」

 分かっているさ。言われんでもね。

 ただ、あんまり自信はないけどさ。

 なんて一人思っていると、三条は既に鷹司亜子を眠らせていた。その上で俺に早くやるよう急かしてくる。

 そう焦るなよ。これでも俺だって少しは緊張してんだぜ。馴れない技を使うんだ。そりゃ、誰だって緊張するだろ。

「早くしなさい!」

 三条がぎろりと睨んでくるので、

「分かったよ」

 俺は静かに頷き、そしてゆっくりと鷹司亜子の下に歩み寄った。



 これで記憶が戻るとも思えない。

 が、やってみて損はないだろう。下手な後遺症が残る可能性がないとは言わないが、しかし実際、俺が記憶消去の術をかけた以上、俺がそれを解除するのが一番の得策であるように思われた。

 俺はゆっくりと鷹司の額に右手手のひらを合わせると、目を閉じ、小さな声で呪文を唱えた。そして、いつものように全身に力を込める。群青色をした輝きが体中を覆い、そして俺はそれを思い切り鷹司の体に注ぐのだった。

 やがて鷹司の体が群青色に染まる。時折辛そうな顔をする彼女を見ながら、とりあえず力を適度に調節した。この前みたいに暴走するわけにはいかないからな。



 どれだけ時間が流れたろう。

 実際のところ、まだ三分も流れていなかったという。けれど、俺には三時間に思えた。

 力を調節しながら術をかけるってのは、やたら体力を要するようで、俺は二分としないうちにばててきた。全力に近い力を注ぎながらのバトル時ですら感じない疲労感だ。

 そして、三分ぐらいが過ぎようとしている。

「もう、いいんじゃない」

 じっと鷹司の体の中に流れる力の脈動を調査していた三条が言うと、俺も静かに頷き、流す力を徐々に弱めた。一挙に弱めると、これまた何らかの不手際を生みかねない。

 そして、俺は手を離す。手を離そうとした。

 まさに、そのときのことだった。



 ピカァァァァァ。

 って、唐突に何かが光り始めた。

 見れば鷹司がいつも嬉しそうな顔をして、その左手薬指につけていた金色の指輪が、黄金色に輝いていたのだった。

「な、なんだ!」

 仰天する俺に、

「知らないわよぉ」

 慌てる三条だった。

 ガタガタガタガタ。

 学生寮の一室が激しく揺れる。地震か? 俺たちの動揺は果てしなく強まった。

 なんだ、なんだ、なんだ、なんなんだ?

 揺れが収まった頃、俺は慌てて辺りを見回した。何が起きた? 何が起きているんだ? 

 俺は慌てて周りを見た。

 すると……。

「こ、ここは、どこだ?」

 と思いたくなるぐらい、平凡でありふれた学生寮が歪んでいた。



 薄暗い。まだ夕方のはずなのに、夜のように暗かった。

 風の音一つしない。外で聞こえていた子供たちの騒がしい声色も、全く聞こえなくなっていた。

「な、なぁ、何が起きたんだ?」

 俺は側にいる三条を探し当てると、とりあえずそう尋ねてみた。

「し、知らないわよ」

 まあ、そんな答えが返ってくるだろうことは想像していたけれどね。だけど、いったいここは何なんだ? ってか、いったい何が起きたんだ。

「ね、ねぇ、あ、あんた……」

 三条が呆然と俺を見つめている。

 どうしたんだ? 俺の顔に、何か付いているのか?

「付いてるとかそういうんじゃなくて、能力が解けてる……」

 へ? 能力が解けてるって何?

 俺はとぼけたような顔をして、じっと三条を見つめる。そして、その奥にある鏡に映る自分の姿を見て……。

「げげげげ!」

 声に出して驚いた。素っ頓狂な声を張り上げた。

 男だ。そこにいたのは、紛れもなく男だ。即ち、俺自身。『外見偽装』を施した偽りの自分じゃなくて、正真正銘、紛れもない俺自身だった。

「は、早く技をかけなさいよ!」

 三条が急かす。もし、こんなところを鷹司に見られたりしたら……。って、鷹司はどこだ? さっきから姿が見えない。



「ほぉ」

 そこに、奇妙な男の声が響いた。

「だ、誰!」

 三条が俺に代わって怒鳴った。

「誰、とはつれないね。僕だよ、僕」

 新手のおれおれ詐欺か? 僕って誰さ。官姓名を名乗れ!

 しかし男は何も答えずに、代わって俺たちの前に姿を現した。モデルのようにすらっとした体形で、異国人の血を受け継いでいるためか、少し日本人離れした整った顔立ちをした男。

 紛れもなく、それはカール・タナカ先生だった。

「な、なんで、あなたが……」

 戸惑う三条。俺は何となく、やっぱりなと呟いた。

「まさか君が男。それもUMTの使い手だったとはねぇ」

 先生はにたりと笑っている。

「全然気がつかなかった。さすがに、君はSクラスでも最強と称えられている能力者だけのことはあるね。ま、いろいろ調べて、UMTの使い手は『外見偽装』の達人だってことを知ったから、偵察も兼ねて、鷹司君にこの金色の指輪を授けたのさ。この指輪はね、もし、UMTの使い手が彼女に技を仕掛けたら、その瞬間、私をここに呼び寄せてくれる召還宝具なのさ」

 俺は苦り切った顔をして、先生を睨んでいた。三条は相変わらず、何がなんだか分からぬと言った様子で、きょとんと戸惑っている。

「それとね。この宝具にはもう一つ力があってね」

 先生が一歩、俺たちの下に近づいた。

「この宝具を使用した人間の持つありとあらゆる力を強制的に発動させるってものだよ」

「きょ、強制的に発動?」

「そう。だから君は、術が解けたろう。鷹司亜子君の持つ力は、強制的に全ての能力を無効化してしまうというものさ」

 どうりで力が使いにくいわけだ。俺の『外見偽装』だって解除させられてしまったし……。

「ところで、イチ君。君の持つUMT、私に譲ってくれないか?」

 唐突に先生が口火を切ると、

「私にはそれがどうしても必要なのさ」

 と、言った。

 あほぬかせ。誰が譲るか。と、俺は思うが、今の俺は鷹司によって力が制約されているので、どうにもならない。先生の方は、鷹司の無効化能力を中和する力でもあるらしく、別段いつもと変わらぬ様子で俺の下に迫ってきた。

 おのれ! だからって、最強と言われた俺が、こんなところで引き下がっていられるか!

「無駄だよ」

 先生はにたりと笑う。

「彼女の力はUMTに匹敵する。彼女の能力から逃れることは不可能だよ。私を除いてね」

 だからなんだ! 俺は最強能力者。SS+のランクにある正真正銘、最強の能力者なんだぜ。女如きの技に負けて、無様に跪くなんて真似はできん。

 だから俺はすっくと立ち上がった。

 力を込める。

 今日こそは全力を出してやる。そうさ。百パーセント全力だ。俺は今出せる全力を注いで、目の前にいるすっとぼけた男を叩き潰してやるのだ!

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