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第13話 非情になれ

「ねぇ、さっきの虹色の光って、なんなの?」

 鷹司の声。

 紛れもなく彼女の声。

 俺と三条は同時に固まる。部屋中の時が止まってしまったような感じ。

 な、なにを言っている? 虹色って……。お、覚えているのか?

「な、何のこと?」

 三条がとぼけてみせる。

「に、虹色って?」

 三条に横っ腹を突かれたので、俺も慌ててとぼけて見せた。けれども、何やら鮮明に記憶しているらしい鷹司亜子を誤魔化すのは、ほとんど不可能だった。

「うそ。誤魔化しても駄目だよ。三条さんが私の額に触れた時、確かに三条さんの手が虹色に光っていたもの!」

「……」

 こうもはっきりと言い切られると、俺たちに返す言葉はなかった。確かに虹色の光が輝いていたことは確かなわけだし……。ってか、この人には記憶消去の術が効かないのか?

 三条は目を白黒させて、見るからに明らかに動揺していた。何しろ、彼女はこういう術に関してはプロフェッショナルであるという自負を持っていた。催眠術とか記憶消去とか囲い込みとか、直接的な攻撃能力は低くても、俺のような攻撃特化型能力者をサポートできる能力ならだれにも負けないと自他ともに認めていたくらいの彼女なのだ。それが、効かなかった。そりゃ、驚くだろう。動揺もするだろう。

「ねぇ、さっきの虹色の光もそうだけど、まだ騎士とか爆発がなんなのかも聞いてないんだけど」

 鷹司の目が疑惑の炎に燃えている。今の彼女は、俺たちが何かを知っているに違いないと思っているようだ。



 何でもない。それはただの夢だ。お前はただの夢、幻想、幻覚を見ていたんだ。

 と言っても鷹司は引き下がりそうにないので、とりあえず三条は鷹司に催眠術をかけて眠らせた。どうやら催眠術はかかるようである。ま、これは超能力というより、心理学を応用した技術であるから効いただけなのかもしれないが……。

 ともあれ眠った鷹司亜子をベッドに運んで、俺たちは協議を始めた。このまま事態を放置していたら、必ず彼女は俺たちの正体に気づく。超能力なんてものが存在するなんてことが彼女にばれたりしたら……。組織は超能力の露見を何より嫌う。彼女にばれたってことが組織に知れたら、禁固何年かの罰則を受けないといけなくなっちまう。

「何としてもごまかすわよ」

 三条がきっぱりと言った。異議はない。

「だが、どうするんだ?」

 はっきり言って、俺には打開策が思いつかん。あ、そうだ。いっそ俺が記憶消去の術をかけてやるのもいいかもしれん。俺の記憶消去は強烈だからな。もしかしたら、鷹司の記憶を削りとれるかもしれんぜ。

「それは駄目。あんたがやったら、やりすぎる可能性があるから。もしも日常知識までも奪い取っちゃったら、会長さんだって怒るでしょう。今、会長さんが組織を離れたら、組織の財政は極端に悪化する」

 なーるほど。いろいろ複雑な事情がおありなようで……。ならば強硬策はとれん。どうするよ。他に手があるのか?

「一つだけあるわ」

 三条は静かに小さくそう呟いた。

「一つだけ?」

 俺が首を傾げると、

「夢を見させるの」

 と、三条は言った。



 要はこう言うことだった。

 今、鷹司亜子は眠っている。そこで、彼女の頭に力を注ぎこんで、今日見た光景と似た光景を、夢と言う形で再現させるのだ。そうしておけば、起きた時には、今日見たことも、リアルな夢であったのだと思うだろう。

「そううまくいくもんかね」

 俺が疑惑の目を向けると、

「それ以外に良い策があるってならお聞きしますわよ。最強術者さん?」

 三条はきっぱりと言って、俺を睨んできた。

 ま、もちろん俺に策はない。だから反対するなら他に策を出せと言われると、結構きついんだが……。

「任せるよ」

 だから俺はそう言うしかない。ま、夢だったって思わせる以外、俺たちにとるべき道はないような気がしたし……。

 だから三条はおもむろに鷹司のベッドの方に歩み寄ると、彼女の額に再び手を乗せた。相変わらず彼女の全身が虹色に染まっている。

「上手くいきそうか?」

 俺が少しばかり不安そうに尋ねると、

「分からないわよ」

 三条は腹立たしそうに答えた。



 結果から言うと、全く無意味だった。

 なぜなら、翌朝、俺と三条は再び鷹司に問い詰められることになったからである。どうやら彼女は夢など見なかったようだ。三条はますます落ち込んで、もはや反論できるような精神的余力すら失ってしまったようだった。

『どうするよ』

 万事休す、万策尽きた俺は、参謀(パートナー)に支援を求めた。

『こうなれば、やむをえまい』

 参謀たる小動物は重苦しい声色で、俺の心に呟いた。

『お前が記憶消去の術をかけろ』

『お、俺が?』

『そうだ』

 最後の手段。ランはもはやそれ以外に打つ手がないという。

『あいつの記憶が全部吹っ飛んじまったら、どうするんだ?』

 俺としては、できればそういう事態は避けたい。もし彼女が男だったら、別に容赦なくやっていたかもしれんが、彼女は女なのだ。しかもルームメイトとしてまがりなりにも一緒に過ごした間柄。

『昔のお前なら必要とあらば容赦なくやったろう』

 ランはきっぱりと言って、

『今が必要な時だ。非情になれ!』

 と付け加えることも忘れなかった。

『お前の記憶消去がうまくいかないのは、お前の力が強すぎるからだ。結局、お前は記憶消去に注ぐ力を制御できないため、余計な記憶まで一緒に消しちまうってわけだ。ならばお前が彼女に記憶消去をかければ、忘れてくれる可能性がある。もしかしたら、彼女は能力に対する耐性が強いのかもしれん』

 なるほど。一つの可能性ではある。だが、失敗したらどうするんだよ……。と、心の中で思いながら、確かに今の俺は昔とは少し変っちゃったのかなと実感する。昔の俺だったら、どうしてたかな。男だったら間違いなく術をかけてたろうし、女だったら……。ランが言うように必要とあらばやっていたかもしれない。ま、何しろ女と一緒に暮らす、なんてことがそもそもありえなかったわけで、女と接する機会も少なかったから、昔の俺がどういう態度をとったかなんて皆目見当がつかん。

『いいんだな』

 この際、昔の俺に戻ってみるのも悪くない。これまで暗殺指令を受ければ、ターゲットを非情にも殺害し、要人警護を任されたなら、その要人を狙う者たちを容赦なく殺してきた男が、今更、記憶の一つや二つふっ飛ばすぐらい躊躇ってどうするんだ。

「鷹司さん」

 俺は冷え切った瞳を浮かべて、きょとんとした様子で首を傾げる鷹司亜子の顔をぎろりと睨みつけた。

 俺は全身に力を込める。虹色とは違う、どす黒い群青色の炎が、俺の体全身を包み始めた。

「な、なに、やってるの?」

 鷹司が驚いている。しかし、俺は構わず力を手のひらに集中させる。

 ぱらぱらと長い髪の毛が靡く。部屋中にヒュゥゥと風が吹き荒れた。

 そして、俺はその細い手を鷹司の額に付けた。燃え上がるような群青が俺の体から、腕を伝って、彼女の体に注ぎこまれていく。

 悲鳴が上がる。

 しかし俺は気にしない。強烈なパワーを注いでいるのだ。仕方ない。

 鷹司が気絶する。よほど痛かったのだろう。既に彼女の体は、群青色に染まっている。しかし、それでも俺は力を止めない。どころかさらに強める。UMT(ペンダント)がキュピィィィンなんて音を張り上げながら、眩く輝き始めた。

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