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第9話 市街戦(前編)

 その翌日のことだった。

 朝起きて、顔を洗って歯を磨き、朝飯を喰らって、服を着替え……。

 まあ、いつもと変わることなき一日が始まり、そして学校へ通うのだ。寮から学校までは、約五分の距離にある。

 そして、相変わらず荘厳な校門をくぐると、俺は足早にクラスへと向かっていった。



「ねぇ、イチさんって部活やらないの?」

 と言う甲高い声。

 ゴールデンウィーク明けの月曜日。

 五日ぶりとなる彼女たちの声に、俺はハァとため息を吐いた。

「やらないよ」

 そんな暇はねーしな。

「なんでぇ?」

 可愛らしい声色。俺が最も苦手とするもの。

「なんでって、暇ないしね……」

「え? 帰宅部なのに、暇ないの?」

 あー、ねぇよ。暇なんかあるかよ。今日の放課後からは、校長室に潜入しないといけないし、明日は理事長室、明後日は……、なにするかな。あ、そうだ。鷹司の親父様、あの偉そうな会長様は、この学校が組織の秘密基地だと言っていたから、学校と組織の関連性でも探ってみるかな。ま、組織が秘密基地にするぐらいだから、この平凡なる女学園には、何らかの隠し部屋みたいなものがあるに違いない。さもなくば、何か面白い秘密が隠されているに違いないのだ。

「あ、そうだ。だったらさ、遊びに行かない? カラオケとか」

 暇じゃねーって言ってるだろ。しかし、女というものは、ひとたび興奮し始めると、聞く耳なんてものはものの見事に消えてなくなってしまうようだった。

「ねー、行こうよ!」

 なんて言ってくる。で、俺はと言うと、こう言う彼女たちに対して、「嫌」とは言えないのである。

「ね、行こう!」

 結局、彼女たちに突っ切られる形で、俺は、今日の放課後の予定……、即ち校長室探索という重要任務を後回しにして、カラオケに行かざるを得ぬ羽目となった。まあ、「わかったよ」と答えたときに、俺の左側脇腹にちくりと痛みが走ったような気がしたけれど、まあ気にするまい。セーラー服左ポケットに住んでいる、わが愛すべき従者様(パートナー)には、あとで詫びを入れておけばよいさ。



 カラオケボックスは近くにあった。

 セーラー服姿の数人が、ぞろぞろと群れをなして歩く。俺を加えて、三条や鷹司もいた。計六人。俺たち三人の他は、岡田、前原、長妻と言って、どれもきゃぴきゃぴの現役女子高生である。

「カラオケなんて久しぶりぃぃぃ!」

 なんて騒いでいるのが岡田。クラス委員長を兼ねている優等生とは思えない態度にいつも驚かされる。

「私は昨日行った」

 そう言う前原は生徒会副会長。肩書きと外見、中身が見事なまでに一致した、完全無欠の優等生だ。

「えー! 前ちゃん、行ったの? 私も行きたかったぁ」

 なんて、相も変らぬハイテンションで叫んでいる岡田は、すぐそばで静かに歩いている少女に目をやって、「行った?」と尋ねていた。

「行ってない」

 そう静かに答えるのは長妻。クラス副委員長兼書記でもあるこの人は……、極めて普通。若干寡黙な美少女だ。

 ともかく、この六人でカラオケ店に入る。店員の指図に従い、部屋に入った。

 俺にとっては生まれて初めてのカラオケである。カラオケルームってのは、結構小さいんだな、とか、こういう風に歌うのか、なんていろいろ思いながら、やがて俺の番になった。

 って、最近の曲はほとんど知らんが……。あ、そうか。鷹司が見ていたテレビ番組にいろいろ曲が流れていたっけな。それなりに耳にも残っているから、まあ、それなりに歌うこともできるだろう。いざとなったら能力を使えば、オペラ歌手より上手く歌えるしな。



 あれこれ歌って、大いに騒いで、散々暴れた挙句に、心身ともにこれでもかってほど疲れきって帰る途中のことだった。

 現代的なありがちな街並みが広がる世界で、六人釣るんで歩道を歩いている。そこに、

 ダァァァァァァン。

 爆音が轟いた。



「え、な、なに?」

 前原が慌てている。岡田はきょろきょろあちこち見まわしている。長妻は……、なんだか随分と落ち着いてるな。

「爆発?」

 周りの人たちも慌てている。

「テロ?」

 そう叫んでいる人たちもいた。

 すると……。


「な、なんだあれ!」


 騒ぎがどんどん大きくなっていく感じがした。

「おい、三条」

 俺は隣に控える目付役の女に目を向けた。

「えぇ、能力者ね」

 見れば、何やら騎士のような格好をした物々しい集団が、のっしのっしと歩いてきた。えーと、みれば五百人ぐらいはいるだろうか。何やらパレードのような感じもするが、車道を堂々と闊歩し、車という車を片っ端からなぎ倒していく彼らを見れば、それが尋常な存在でないことは明らかだった。

「ね、ねぇ、あ、あれ、なに?」

 鷹司が俺の腕にしがみついてくる。そんな彼女を見て、三条はぷいっとそっぽを向く。

 その瞬間……。

 鷹司は力を失ったかのようにずりずりと崩れ落ちて、次にはすやすやと眠り始めた。そしてそれは鷹司に限った話ではなく、周囲にいた全員がそうだった。まるで時が止まったかのように静けさを取り戻した町の中には、眠る人々の寝息だけが煩いほど響いていた。



 俺は静かに歩きだす。

「三条、鷹司はお前が守ってやれ」

 そう言っておくのも忘れない。三条はというと、相変わらずプンプン怒ったような顔をしていたが、まあ、鷹司を守るというのは、あの会長さんと約束したことでもあるので、

「分かったわよ!」

 と、彼女は静かに頷いた。

「あ、そうそう。できれば二十分以内に決めてよね。皆を眠らせられるのは、最大二十分だから。それと外部世界とこの町との接続を切っていられるのも、二十分ぐらいだから。もし二十分以上たったら、皆起きだしちゃうし、いろんな人がこの町に入ってくるわよ」

 そんな三条の必死な言葉に、俺は「おうよ」と返しておいた。

 二十分もありゃ十分さ!



 眠った町に集う軍団。

「『幻影軍団(エクセルキトゥス)』だな」

 物知りパートナー、ランの言葉に、

「幻影軍団ってなんだよ」

 俺はそう尋ねてみた。

「要はタナカとかいう先生が使ってた幻影人形と同じさ。ただ、あれは人形一体一体がかなりの力を持っていて、幻影だけでも普通に戦えた。だけど幻影軍団の場合は、一人当たりに割く力を大幅に少なくすることで、より多くの幻影を作りだすことができる点に特徴がある。ま、一人当たりに割く力を大幅に少なくしたって言っても、幻影軍団兵士はDランククラスの実力がある。後、幻影人形の場合は、術者そっくりのコピーだが、幻影軍団の兵士たちは、術者が想像する形になる」

 だから目の前にいる奴らは中世ヨーロッパ風の騎士の格好をしているのか。しかも五百体も。

 Dクラスの能力者が五百体もいるとなると、これは結構大変な作業だ。二十分で片づけられるかな? そりゃ、まあ『大爆発(エクスプロージョン)』を使えば一瞬だろうけど、それをやったら、辺りの町まで吹っ飛んじまう。無論、そこらで眠ってる住民たちも傷つけることになる。

 要するに今の俺には町を守り、住民を守って、かつ五百体の敵軍を完膚なきまでに叩き潰さなければならないってわけだ。まあ、術者を倒せば、あいつらも消えるんだろうけど、生憎、術者がどこにいるのかさっぱり分からない。



 ガシャーン、ガシャーン、ガシャーン。

 甲冑姿の敵軍が進軍を再開する。

 彼らは一路、俺の方に向かって歩いてきた。

「どうするよ、相棒」

 俺は肩の上にふんぞり返る小さな参謀に声をかけた。

「敵が幻影軍団を使ってきたなら、お前さんも使ってみたらどーだい?」

「俺が?」

「いっつも最強最強と言っているお前なら、五百体なんてすぐ出せるだろう。UMTの力を駆使すれば、一千体ぐらい作り上げることも不可能じゃないと思うが」

 ま、まあ、無理じゃないだろうけど。しかし俺はその『幻影軍団(エクセルキトゥス)』なんてものを使ったことがない。

「ま、やってみな。とりあえず、複製したい像を思い浮かべて、それをどんどん増やしていくイメージを浮かべていけばいい」

 なるほどね。複製したい像を思い浮かべて、それを増やしていくイメージ……。簡単なようで、難しい気もするが、まあ、とりあえずやってみよう。

 目を閉じて、うーんと唸る。

 すると……。

誤字脱字などがありましたら、ご指摘ください。すぐ直します。また感想、評価等、お待ちしています。

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