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俺は新(異)世界の神となる! ~そのタイトル、死亡フラグにしか見えないんで止めてもらえませんか~  作者: 獅東 諒
神様の家出。

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77/80

ダンジョン攻略、第四層は本格的なダンジョンでした。

 ダンジョン(迷宮)といわれて、他人(ひと)はどんなイメージをするだろうか?

 俺がイメージするのは、その昔流行った3D型のRPGだ。まあこれまでのところは、ダンジョンというよりは洞窟といった感じだった。

 しかしいま俺たちが歩いているのは、四方を石壁で囲まれた、まさにダンジョン・オブ・ダンジョンとでもいうような空間だ。


 実はアラクネーが陣取っていたあの広い空間を抜けたら、すぐその先が第三層の端だった。そこにあったのは、第四層へと降る石造りの階段だったのだ。

 四方を囲む岩肌の壁面には、一定の間隔で光が灯っている。その光がどういった原理で灯っているのかは謎だ。

 火のゆらめきも見えないし、光苔にしては光量が強い。おそらくは魔法の類いだろう。

 そんな第四層を攻略する俺たちだが、第三層でカナリーとエスナが加わったこともあり、いまは隊列が変わっている。

 これまでは、俺とペルカが前衛、女将さんが真ん中で前後に気を配り、クリフが後衛だった。

 今は、カナリーが罠などを警戒しつつ最前衛として歩いていて、その後ろに俺とペルカが詰めている。モンスターが出てきた場合、カナリーが後方へと下がる。そして魔法闘士という珍しいクラスのエスナを中衛に配して、後衛を女将さんとクリフという形になっている。

 俺は肩越しに視線を後ろに向けて女将さんに声をかけた。


「女将さん。あれでよかったんですかね?」

「あれでって――野盗たちの遺体のことかい? あの人数を弔う時間なんざなかったんだ。あれだけやってやっただけでも上等なもんだよ」


 アラクネー部屋の端に、並べて安置してきた野盗たちの遺体は一三体、白骨化したものは除外してあるがそれもひと所に集めて置いてきたのだった。


(そろそろ擬態を戻しますよ。

 ああ、ここまで来りゃあ、こいつらがあそこに戻ることはねえだろ。

 自信はありましたけど、ばれなくて良かったですわ。

 パーティー仕切ってるあの女、鋭そうだしな。

 本物ものものだもん。

 でも利用できたのは良かったですわ。あなたたち、擬態用に取り込んだのにまったく使わないんですもの。

 あんなむさい男に化けるなんざごめんだね。

 ボクもパスパス~。

 マッタク、あなたたちは……。まあ、私も嫌ですけどね。

 アッ!)


「ワナワナはっけん!!」


 パーティーを先導するように歩いていたカナリーが、指先確認でもするように、壁の一部に指先を向けた。

 本格的なダンジョン攻略に入る前にカナリーと出会えたことは幸運だったとしか言い様がない。

 彼女が発見して解除した罠やからくりは、すでに三つ目だ。俺も探査(サーチ)を使用しているが、罠関係は発見が難しいし、発見しても解除となると完全にお手上げだ。


「カイジョカイジョ」


 テンポ良く言いながら、カナリーが罠を解除していく。彼女の手先は素早く正確だ。


「カンカン!」


 完了。という意味だろうか? 壁の隙間から針のようなものを取り出した。針先は錆びが浮いたような状態になっている。カナリーはその場所をペロリと舐めて、素早く唾を吐いた。


「先っぽドクドク、麻痺ピリピリ?」


 どや顔で俺に針を示す。どうやら麻痺毒が仕込まれているらしい。最後が疑問調だったのはナニ?


「それ舐めて大丈夫なのか?」

「慣れ慣れだから大丈夫!」


 毒って慣れるもんなのか!? 暗殺者でもあるまいし……、それに彼女毒耐性なんてスキル有ったっけ?

 まあ麻痺毒らしいから、命に別状はないだろうけど、猛毒だったらどうするんだ。

 俺がそんなことを考えていると、ペルカがカナリーに近づいて、視線に合わせるように少しかがんで声をかけた。


「カナリーちゃん。植物毒だったらワタシが匂いで分かるのですよ。だからむやみに舐めたらダメなのです。強い毒だったら危ないのですよ」


 メッ、という感じで言い聞かせる姿は微笑ましい。どうやらペルカも同じことを考えたようだ。


「まったく、迷宮(ダンジョン)らしくなったと思ったら、途端に罠やギミックが増えたね」


 背後の女将さんは疲れたようすで吐き捨てる。元冒険者とはいっても、どう見ても戦士系だから罠やからくりは苦手らしい。これまでの階層より緊張しているのが分かる。

 そんな女将さんに背後からクリフが答えた。


「でもモンスターは少ないですね」


 彼もいつでも弓を扱えるように身構えている。

 たしかにこれまでの階層と比べると、モンスターとの遭遇率が極端に落ちている。


「もしかして、モンスターが罠に掛からないようにだったりして」

「……有りえるね」


 冗談めかした俺の言葉にたいして、腕組みした女将さんが思案げに応えをくれた。

 ……いや、この緊張感を解したかったんですけど……かえって緊張感を高めてしまった。

 緊張感に耐えかねた俺は、カナリーとペルカの近くに寄って、通路の先、薄暗い部屋らしき空間を大仰な動作で覗き見る。


「女将さん、この先はどうやら広間みたいですし、そろそろ休憩しませんか?」

「……四層に入ってから、けっこうな時間が経ってたねえ……」


 女将さんは、松明を前方に差し出して部屋の様子をうかがい見る。照らされた部屋の広さはおよそ二〇畳ほどの空間だ。


「カナリー、大丈夫そうかい?」


 女将さんの問いかけにカナリーも部屋を一望して、「あそこの道道が気に気にだけど、部屋部屋は大丈夫ジョブ」と言いながら、部屋の奥に確認できるふたつの通路のうちのひとつを指差す。


「そうかい、なら一休みしていくか」


 女将さんの言葉に、背後でクリフが大きく息を吐いた。ここまでの道すがらよほど緊張していたらしい。


◇◆◇◆◇◆


 シュバ!

 ビュン!

 ズババババ!!

 ズビバッ!


 俺の目の前、鉄網の上には、串に刺した肉、肉、肉。野菜、肉、肉、野菜、肉、肉。

 ジュウジュウと音を立てて火に炙られている肉からは、テラテラと光る肉汁が浮き上がって、ポタリ、ポタリと網の下に落ちる。その肉汁が網の下で揺らめく炎に燻られ、香ばしい匂いが立ち昇っている。


 いや、まあ、美味しそうに焼きあがったな~っ。と思った瞬間、先ほどの擬音とともに幻のように消えていくわけですよ。


 肉の消えて行く先には、女将さん、ペルカ、カナリー、エスナ……貴女(あなた)たちどこのフードファイターだ!!


 焼き網の上では、彼女たちの肉争奪の攻防が繰り広げられている。女将さんと、ペルカは分かる。

 だけどカナリー、エスナ。キミらもか!!

 彼女たちの攻防を何とか目で追うことができる俺は別として、ほら見なさい、クリフがアングリしてるでしょ。

 それにペルカ!? それ焼き若いから!

 狼人族は生でも行けるらしいけど、寄生虫とか居たらどうするんだ!

 などと、一歩引いている俺はといえば、早々に攻防戦から離脱して黙々と串に肉を刺しています。


 いま居るこの部屋は、広く天井も高いので、ここでいちど英気を養おうと、ストックしていた食材を放出した結果がこの状況である。


 たまに我に返ったペルカが、俺とクリフに串を手渡してくれるが、すぐに「それはワタシが育てていたのです!」と争奪戦に戻ってしまう。

 まあね、俺は知ってましたよ。ペルカの食い意地。いや、食いしん坊万歳。あれ? フォローになってない。うん……健康的で良いよね、美味しそうに食べる娘たちって。

 えっ、女将さん? 身の危険を感じるのであえて言及は避けさせてもらいます。


 そんなわけで英気を養った後、交代で睡眠を取ることとなった。見張りは女将さんとエスナ、ペルカとクリフ、俺とカナリーの順番だ。

 ペルカとクリフは途中一度起きなければならないが、女将さん曰く年齢を考えての順番だそうだ。

 まあ結局のところ、心配していたモンスターの襲撃もなく、無事に休息を取ることができたのだが、さあ探索再開だと準備を整えていると、カナリーが二つある通路のひとつで何やらガサゴソと壁を探っていた。

 たしか、この部屋に入るときに気になると言っていた通路だ。


「何かあったのか?」と、俺が声を掛けようとした瞬間。


「アッ!」と、カナリーが声を上げた。


 その声に、出立の準備をしていたみんなの視線が集まる。


「カナリー、どうした!」

 

 俺が声を掛けるのと同時に、カナリーが通路の脇にあったくぼみらしき場所から手を引き抜いた。彼女の手には細い金属製の棒のようなものが握られていた。

 そして……カチンッ! という甲高い音が響く。


「……テヘッ、失敗しちゃった」

「珍しく、普通に喋ったと思ったら失敗かい!」


 俺のツッコミと同時に、ガゴンッ!! という音がして、突如足下の床が観音開きで下に開いた。


「どわーぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

「きゃうーーーーーーーーーー」

「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

「ヒャハァァァァァァァァァァァァァァァァ」

「クッ…………」

「…………」


 六人六様の声を上げ、俺たちは落下した。

お読みいただきありがとうございます。



Copyright(C)2020 獅東 諒

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